表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

異世界クラス転移〜八年経ったらもはや現地人〜

作者: 間取良可

 それは体育のクラス合同授業が始まる寸前の事だった。高校に入って初めての中間テスト、その後のテスト休みが終わってから最初の体育であったので体育教師も「今日は男女合同で鈍った体を動かすぞ」と比較的ソフトな授業内容の予定だったのだろう、少しだらけた空気の中で体育館で教師を待っていた俺たちは突如光に包まれた。その時の光は、今まで生きてきた中で出会った事が無いくらい眩いもので目が潰れると思ったくらいだ。後にクラスの大半が「ラ◯ュタのラストかよ」と言っていたし俺も同じ感想だった。

 そして、二つのクラスは誰一人欠席も無く異世界に招かれ、そこで魔王を倒すべく勇者となったのだ。意味がわからない。


 そんな意味のわからない異世界生活が始まってから八年が経った。

 驚きである。

 八年も異世界で元気にやっている事に驚きだし、八年で「ゲーム的な展開」を大体やり尽くしてしまった事も驚きだ。


 魔王は倒した。

 決戦は魔王城ではなく魔王城前のでっかい平原だった。正直言ってこっちは室内の方がよかったのに…外だと魔王だけに集中できず、周囲から続々沸いてくる魔物も倒さなきゃならなかった。おまけに鳥型の魔物がウザいったらない。こちらも空飛ぶ能力をゲットした面々が居たし、道中仲間になった鳥型獣人も奮戦してくれたからどうにかなったが、魔王そのものよりそっちが大変だった記憶しかない。そもそも俺は魔王の周りの魔物を馬鹿でかい斧で薙ぎ払う役割だったので魔王の記憶が無いのは当たり前だ。

 魔王戦では呪術士の沢井くんと"ゲート"なる変わった能力を使える山田くんが魔王の体内に毒と麻痺を放り込んでいたらしい。"ゲート"は離れた場所と場所を繋ぐ超便利能力だが、山田くん曰く「予備詠唱で動けない、使用中も動けない、使うと超疲れる。実用性が低い…」と嘆いていた。そんなノーガード戦法を戦闘中に使った山田くんは勇気があると思う。


 小さな国も興した。

 魔王討伐までに日本時間で二年かかっていたので俺たちも高校一年生程度の頭脳からは卒業していたんだと思う。要は俺たちという戦力を喚んでおいて大したバックアップもせずに美味しい所だけ持っていこうとした国が信用できなかったので、魔王討伐の褒美にくれるという領地を他国との境界に集中して二つのクラス人数分寄越せとゴネたのだ。

 勿論俺たちに授爵と領地を与えると言った国王や大臣は嫌がった。どうせ俺たち全員にバラバラに封土を与えて一人ずつ調略するとかそんな予定だったんだろう。俺たちは若造の集まりでも各国を周り、様々な事件を解決し、魔王を倒したグローバルな一騎当千、手放して他国に渡られるのも嫌だったのだろう。最終的には隣のクラス委員だった川田さんを女男爵にして全員纏めて小さな領地を一つ貰った。

 この時に俺たちは思ったのだ。「魔王倒したのに俺たち帰れないのかよ」と。

 腹が立った。腹が立ったので川田男爵領を内政チートと呼ばれるアレとコレとソレで超発展させてやった。内政チートが何なのか俺はよく知らないが、自然物からゴーレムを作れる早川さんが大活躍だったらしいので多分ゴリ押しで生産性を上げたのだろう。

 あっという間に川田男爵に阿る輩が出てくるくらいには川田男爵領は力を付けた。ここまでくれば、そう、後は周辺国とそっと連絡を取りながら独立である。

 この話は早いうちから出ていた。だから俺たちの中で一番国主に相応しいだろう川田さんに爵位を持ってもらったのだ。川田さんは人に好かれる。対人スキルという空気を読む力、他者の気持ちを把握する力が優れた宇宙に行ったことのないニュータイプだ。この話をした時には「えー(笑)、マジにー?(笑)」と笑っていた。本心がさっぱり見えない女王(予定)だったよマジに(笑)。


 戦争もやった。

 川田王国誕生に伴い、元々所属してた国が怒ってやってきたのだ。怒りたいのはこっちの方だからな?

 魔王討伐の旅の二年間の内にすっかり「殺らなければ殺られる」精神になっている俺たちは人間同士の戦いだから何だ、むしろ魔物より弱くて助かる、と言わんばかりに大暴れしてやった。

 ゴーレムマスター早川さんが防衛に徹しつつ、ゲート使いの山田くんは砦に篭り、千里眼持ちの宮前くんが戦場の状況を見渡しつつ偶に予知をし、呪術士の沢井くんが自然に優しく人に厳しい毒をゲートを通して撒く、そして倒れた敵兵の死体を死霊魔術士の小出くんが蘇らせてそのまま別の敵に突撃だ。

 勿論こんな作戦では多面的な戦況はどうにもならない。この「ゾンビ作戦」を決行する戦場以外は俺たちの中の一騎当千という言葉を実践できる奴を中心に血塗れで大はしゃぎだった。大はしゃぎはちょっと不謹慎?知るか。俺みたいにあんまり頭が使えない奴らはずっと武器を磨きながら川田男爵領で一対多数のイメトレをしてたんだ。それくらい俺たちを召喚しやがった国の事が嫌いだった。

 そもそも全員殺さなくても戦争は二割から三割の敵を倒せばいい、って川田さんが言ってた。川田さんは男爵になってから勉強を頑張った。その川田さんの言葉を信じない訳にはいかない。

 そこからも色々あって武力行使による独立はここに成ったのだ。


 それ以外にも地下百階のダンジョンも踏破した。賢者の石とかいうエネルギー資源も作った。天に届く塔も登ったし、空飛ぶ船も手に入れた。クラスメイト内で結婚した奴も出てきたし、異世界で恋をした奴も居る。

 死んでしまった友人もいた…でも即座に不死鳥として蘇った。ふざけんな。あの時の俺の涙返せ。

 恋に破れて生きる事に疲れて海に身を投げて死んだ女子もいた…話の流れ的にお判りだろうが水の精霊として再誕した。あん時に夜の海で危険も顧みず必死に探した俺たちは「ふざけんな!」と思ったが本人が人間の感情から解き放たれて元気になっていたので口には出せなかった。ふざけんな!


 事件があまりにも多い八年だった。そういえば第二の魔王も現れたりしたがそれは六人くらいで討伐できたらしい。俺は参加しなかったからよく知らん。

 俺は気付いたら空飛ぶ船の船長を任されてたので不死鳥になった今永くんと魔王城近くのお空で待機だったのだ。

 今も「ドラゴンの雷雲」とかいう真っ黒い雲の中に邪竜討伐に向かったメンバーを待っている。国を作ってからはクラスで動くよりも現地の人たちとパーティ構成を変えたり戻したり、小規模パーティであちこちに行く事が増えたように思う。今は空が飛べる連中と獣人国の鳥型獣人、他国のドラゴン乗りの騎士とが邪竜と戦ってる。不死鳥の今永くんは船の護衛、俺は船長だから船から離れたらいかんらしい。そんなルールがあるなんて知らなかった。知ってたら船長なんて退屈な役割引き受けなかったのに。今永くんが「せんちょー」と甲高い声で話しかけてくる。今永くんは不死鳥になった事によって声が甲高くなった。

「あの黒い雲さー、どっかで見たことねえかー?」

「あー、ラピュ◯?」

「また◯ピュタかよ!」

「八年の中で二回目だろ」

 もう俺たちは二十三歳になるのだが、不死鳥の今永くんの時間感覚は曖昧であるらしい。そうこうしている内に暗い雷雲は散り、討伐隊が帰ってきた。早い。

「船長ー!邪竜仲間になったー!」

 俺たちの世界で紀元前から使われていた形のレトロな戦車に乗った樫くんがいち早くこちらの船に近付いて報告をくれた。樫くんの戦車はペガサスが牽いている。

「おいおい、邪竜って言うからには邪悪なんじゃねえのかよカッシー!」

 俺の肩に泊まった今永くんが大声を出すが甲高い声で大声、それも俺の頭の側ではやめてほしい。

「そこまで邪悪じゃないみたいだー!」

 樫くんがそう言うなら邪悪じゃない竜だったんだろう。ドラゴンが仲間になる展開は初である。

「ゲームみたいだ」

「せんちょーの口癖いただきました!」

「いただきましたー!」

 不思議な事にクラス内では俺のこの一言を求めるという謎の流行が八年間続いている。もうその為に俺をあちこちへ連れ回しているのではないかと思うほどに。

 多分これからもなんかあればその度に俺は言うし、こんなどうでもいい一言を言わせる為に空飛ぶ船は世界中を飛び回る事になるのだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ