表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みかん1  作者: リュウ
8/8

新たな女子マネージャー?

 「ミナミちゃんって、あのゴリラのこと?」

「あんな呼び方するなんて、男子校って相当女に飢えとるんやろなー」

「あはは可哀想〜」

野球の試合前、すれ違った対戦相手校の女子マネージャーが俺たちの様子を見てそう笑った。

 その中に、見覚えのある女がいた。相手も俺に気付いたようで、こちらを見てから

「ミナミちゃんってあだ名、キャプテンあたりが命令して選手全員に呼ばしとるんとちゃう?」

と言った。俺は声と喋り方から、その女が中学時代の同級生で笠井小雪の悪口仲間だった山崎楓だと思い出した。

「キャプテンってどの人?」

「確か、あの背の高い人やったと思うけど?」

山崎楓がそう言い、俺の方を指差した。俺のことを知っているとはいえ、何故主将と知ったのだろう。

「えー、イケメンやのに性格悪いんや。さいてー」

他の女子マネージャー達が、俺を見てそう言った。

「晴男、あんなこと言われて平気なん?」

部活仲間の村井慎二が俺以上にイラつきながら俺にそう聞いた。

「確かに腹は立つけど、ここで騒いだってしゃあないやん。それに、悪口なら言われ慣れとるし」

俺はそう言ったが、自分のことを悪く言われることよりも、ミナミちゃんをゴリラ扱いされたことに腹が立っていた。

「この試合で対戦相手をねじ伏せてやればええんやよ」

俺は、引きつった笑顔でそう言った。

「おう、頑張ろうぜ」

慎二も、そう張り切った。

 この日の試合は、13対0で俺たちのチームの完封勝利という結果になった。毎回こうした怒りを原動力に試合に勝っているわけではないのだが、野球することで怒りをぶつけられるのだ。

「みんな、お疲れ様です」

試合の後、いつも通りミナミちゃんがそう言ってタオルを差し出してくれた。こんないいマネージャーのことをよく知りもしないで悪く言うやつの方が可哀想なんだ。俺はそう思った。


 その1ヶ月後、試合の日に俺たちよりも年下と思われる可愛い女の子がやって来た。

「応援に来たよー!」

「おう莉香、よう来たな」

ミナミちゃんは快くその子を迎えていた。

「可愛い子やな。ミナミちゃんの彼女か?」

浩樹がミナミちゃんをそうからかった。

「いや、俺の妹ですよ。今、中学1年生です」

ミナミちゃんがそう説明して、女の子が

「南莉香です。兄がお世話になっています」

と自己紹介したので、俺たち野球部員は騒然となった。

「ミナミちゃん、こんな可愛い妹がおったん⁉︎」

「兄妹に見えへん!」

部員たちがそう騒ぐ中で、ミナミちゃんの幼なじみであるマコトちゃんだけが

「莉香ちゃん、久しぶりやね」

と嬉しそうにしていた。

「言われてみれば久しぶりですね。これ、差し入れです。今日の試合、頑張ってくださいね」

莉香ちゃんはそう言い、俺たちにスポーツドリンクをくれた。

「ありがとう。頑張るからよろしくな」

俺は莉香ちゃんにそうお礼を言った。

「やっぱ女の子に応援してもらえるってええな。今日の試合も頑張ろ!」

試合の直前、浩樹が嬉しそうにそう言った。確かに、女の子に応援されることは嬉しい。高校に入って以来、そんなことはほとんどなかったので、莉香ちゃんの存在は新鮮だと思った。

「共学校はあれが当たり前なんやろな。羨ましい」

浩樹はそうとも言っていた。しかし、女子マネージャーがいる環境では、そのことが当たり前すぎて、今の俺たちみたいに新鮮さや嬉しさは感じないような気がする。女子マネージャーがいたらいたで鬱陶しく思うときもあるだろうと考えてしまう。そう疑いをかけるくらい、俺は女性不信になったのかもしれない。男子校を志望した理由もそれだったし。


 南兄妹に応援されながら挑んだ今回の試合は、俺たちのチームの快勝に終わった。俺たちのチームの選手はみんな、いつも以上に調子が良かったような気がする。勿論俺自身も調子が良かった。

「お疲れ様です。応援できて、とても楽しかったです」

試合の後、莉香ちゃんが笑顔でそう言ってくれた。

「応援ありがとう。莉香ちゃんのおかげで頑張れたわ」

浩樹が満面の笑みでそう言った。

「お前って本当に女の子に弱いよな」

一仁が呆れながらそう言った。

「そういえば、莉香ちゃんは何で応援に来てくれたん?」

マコトちゃんがそう聞いた。

「お兄ちゃんが家で野球部の話を楽しそうにしてたから、応援に行きたいって思ったんです。結構前から興味はあったんですけど、やっと都合が合って」

莉香ちゃんの話を聞き、俺は何だか恥ずかしくなった。

「またいつでも来てな。大歓迎やで」

浩樹がテンション高くそう言った。

「そうですね。都合が合えばまた行きたいです」

莉香ちゃんはそう返したが、俺は

「来てくれるのは嬉しいけど、無理せんでええでな」

と言っておいた。浩樹の口説き文句を素直に受け取る必要はないからな。


 「莉香ちゃんがマネージャーやったらええのにな」

帰宅する時も、浩樹はそう言っていた。

「いや、莉香は普段テニス部で活動していますよ」

ミナミちゃんはそう言うが、浩樹はまだ

「そういえば、莉香ちゃんって彼氏おんの?」

と聞いていた。

「いませんけど。…先輩、莉香を狙っているんですか?」

浩樹があまりにも莉香ちゃんの話をするので、ミナミちゃんがそう聞いた。

「だって、可愛いやん」

浩樹がそう言い、周りの仲間数名も

「確かにええ子やよな」

「テンション上がったわ」

と言っていた。

 俺は、彼らの気持ちが理解できなかったわけではないが、そこまで興奮することだろうかと疑問を抱いた。

「莉香ちゃんって、ミナミちゃんと仲ええけど好きな人がおったことはなかったよな?」

マコトちゃんは、ミナミちゃんにそう聞いた。

「そうやね。中学は共学やけど、今はテニスに夢中やと思う」

ミナミちゃんはそう言っていたが、浩樹は

「でも、今日こうして俺らの応援に来たってことは、俺らに興味があるってことやんな⁉︎」

と食いついた。

「そう言われても、莉香に聞かないとわかりませんよ」

ミナミちゃんはそう言って困っていた。

「でも、莉香ちゃんがまた来てくれたら嬉しいな」

一仁は、独り言のように淡々とそう言っていた。


 「こんにちは。また応援に来ました」

その後、再び莉香ちゃんが俺たちの試合に応援に来たことがあった。

「久しぶりやね。来てくれてありがとう」

俺たちはそう言い歓迎したが、莉香ちゃんは少し浮かない顔をしている。

「なっとしたん?顔色悪いけど」

一仁が莉香ちゃんを心配してそう聞いた。

「いや、何でもありません。ただ、今日私が来ていることは、お兄ちゃんには内緒にしてもらえませんか?」

莉香ちゃんは、そう言って少し動揺しているように思えた。

「試合前にごめんなさい。今日も応援しています」

莉香ちゃんのその言葉を聞き、俺は事情を聞くことは避けて

「ありがとう。今日も頑張るな」

と返した。


 試合の後、いつも通りミナミちゃんが

「お疲れ様でした」

と言ってタオルやスポーツドリンクを差し出してくれた。

「ありがとう」

俺はそうお礼を言ったが、莉香ちゃんが来ていることに気づいていないだろうかと気になった。そんな中、ミナミちゃんが

「そういえば、莉香が最近口を聞いてくれなくて。嫌われてしまうようなことをしてしまったのかもしれません」

と漏らした。そういえば、最近のミナミちゃんは気分が落ち込んでいるのか、元気がないような気がする。

「何か、喧嘩でもしたん?」

一緒にその話を聞いていた一仁も、心配してそう質問した。

「理由はわかりませんけど、莉香を怒らせてしまって…。どうしたらいいでしょう?」

ミナミちゃんはそう言って困っていた。俺は一人っ子だから兄弟喧嘩についてはよくわからない。しかし、今日は莉香ちゃんが来ているから、話を引き出して解決の糸口を見つけられるかもしれない。でも、莉香ちゃんは自分が来ていることをミナミちゃんに内緒にしてほしいと言っていたな。

「ミナミちゃん、これから遊びに行かへん?」

マコトちゃんが、莉香ちゃんが来ていることを知ってか知らずか、ミナミちゃんにそう言った。

「ええな。どこに行こう」

ミナミちゃんが嬉しそうにそう言い、俺たちより先に帰ったので少しほっとした。

 俺は、莉香ちゃんはまだいるだろうかと気になり、探そうと考えた。すると調度狙っていたかのように、莉香ちゃんが

「お疲れ様です」

と挨拶をして俺たちの所に来た。

「お兄ちゃん、もう帰りましたよね?」

莉香ちゃんが警戒しながらそう聞いてきた。

「さっき、マコトちゃんと一緒に帰ったで」

一仁がそう言うと、莉香ちゃんはほっとしていた。

「この後って、時間ありますか?相談したいことがあるんです」

莉香ちゃんがそう言った。俺は、頼りにされたことを嬉しく思い、

「ええよ。なっとしたん?」

と返した。

 ついでに、莉香ちゃんのことを気に入っている浩樹も

「相談事か。俺に任せろ!」

と張り切っていた。

「ありがとうございます。実はこの前、お兄ちゃんに酷いことを言ってしまったんです」

莉香ちゃんがそう切り出したときに、俺は先ほどのミナミちゃんのことを思い出した。

「何でそうなってしもたん?」

俺は、莉香ちゃんを責め立てないように気をつけて、静かにそう聞いた。

「最近、お兄ちゃんの言うことが鬱陶しく思うことが増えたんです。自分の話をするだけじゃなくて、私の学校のこととか趣味のこととか色々と聞いてくるから」

莉香ちゃんがそう話してくれた。俺に兄貴はいないが、莉香ちゃんのその気持ちは少しわかるような気がした。俺も、ずっと両親が鬱陶しいと思いながら過ごしてきたから。

「だからお兄ちゃん鬱陶しいって思って避けることもあったんですけど、態度が変わらなかったから、イライラしてきて一昨日『黙れメイドゴリラ』って言ってしまったんです。そしたらお兄ちゃん、すごく落ち込んでしまったんです。お兄ちゃんと一緒にいる皆さんだと、何かわかるかもしれないと思って」

莉香ちゃんはそう続けた。なるほど、それでミナミちゃんは「莉香に嫌われた」と落ち込んでいたのだろう。

「メイドゴリラ!確かにあの見た目やし、マネージャーしとるからその通りかもしれへんな!」

浩樹はそう言って大笑いしていた。ダメだ、こいつは親身になって相談に応じる気はないな。

 俺は、そんな浩樹を無視して

「ミナミちゃん、野球部ではマネージャーとして細やかに俺らの世話をしてくれとるんやよ。やから、莉香ちゃんのことも心配なんと違うかな?」

と言った。

「そうなんですか。よく野球部の話をしていたので、楽しいのだろうとは思っていましたけど」

莉香ちゃんはそう言って少し驚いていた。

「ミナミちゃんが鬱陶しいって気持ちもわからんわけやないけど、莉香ちゃんのことが大事やからそうなるような気がするんや」

俺は、莉香ちゃんにそう言った。一仁も莉香ちゃんに

「自分の気持ち、ちゃんとミナミちゃんに言えそう?」

と聞いた。

「はい。頑張ります」

莉香ちゃんがそう言ったので、俺たちはとても嬉しくなった。

「相談に乗っていただいてありがとうございます。実は、お兄ちゃんがよく皆さんの話をしていたから、いい人たち何だろうなって思っていました。だから、こうして応援に行って良かったです」

莉香ちゃんが、笑顔でそう言った。そうか、俺たちの試合の応援に来たのは、ミナミちゃんのことで相談相手になるかもしれないと思ったことも理由だったのか。

「またいつでも相談してくれてええでな」

俺はそう言い、この日は莉香ちゃんと別れた。


 「先輩、莉香から話を聞きました。相談に応じていただいてありがとうございました」

数日後、部活の練習帰りにミナミちゃんにそう言われた。

「仲直りできたんや?それは良かった」

俺たちは、そう安心した。

 ミナミちゃんはマコトちゃんにも

「あの時、俺を遊びに誘ってくれてありがとう」

とお礼を言っていた。マコトちゃんは、

「いや、俺は久しぶりにミナミちゃんと二人で遊びに行きたかっただけやよ」

と返していたが、それが事実なのか照れ隠しなのかはわからない。

 ミナミちゃんは

「莉香のやつ、『お兄ちゃんの気持ちに気づけなくてごめんね』って言ってきたんですよ」

と話してくれた。それに対して俺は

「そうやったんや。莉香ちゃんのこと、たまにはそっとしてあげなよ」

と言った。

「はい、気を付けます。莉香は、『野球部の人たち、みんな優しくてええ人たちやね』とも言っていましたよ。だから、また応援に行きたいって」

ミナミちゃんがそう続けると浩樹は

「莉香ちゃんまた来んの⁉︎やったー‼︎ぜひ来てって伝えといて」

と喜んでいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ