17 自分への怒り
「ねぇ、さっきからよく分からない言葉ばかり使っているけど、もしかして異国の方かしら」
何やら興奮して腕を振り回すフィリアルと目をかっ開いたカシオにそう問いかける。
……王族がかっ開くとか言っちゃ駄目よね、ごめんなさい。
二人に教えてもらうまで知らなかった言葉ばかり使っているので、ここは何かしらの反応を見せないと疑問に思われる。というのも、実はもうすでに彼らが商人で世界中を回っていることは知っているが、それを言ってしまえば怖がられるのは必然的。なので知らないふりそしてすっとぼけるのだ。
「……ああ、俺たちはとある商会の会員でな、商人として営業を担当してるってわけだ」
「ここ以外にもいろんな国に行ったのー!」
ボロを出さない自分の完ぺきな対応に惚れ惚れとする。
「そうだ、話がだいぶ逸れちまったが……そんで、こいつらをその商会の一員にしようと思ってるんだ」
「はい?」
右手で作った拳を左の手のひらに当ててひらめいたポーズをとった後、親指で背後を指すカシオ。
その先に目をやると、いたのは薄汚れた身なりの男たち。さっき私を殺そうとした人たちだ。目立った外傷もなく、また襲ってきてもおかしくない状態で、その男たちは立っていたのだった。
カシオは車がなければその体躯に似合わず平和主義(というか臆病)なので戦力は期待できない。私とフィリアルも女子供のため非戦闘員。
人数的にも、戦力的にも、今ここで戦えば私たちが負けることは火を見るより明らかだ。
けれど、彼らはもう襲ってこないだろう。
「落ち着いて聞いてくれ、」
「か、カシオ!そいつら、さっき白雪を襲おうとした奴らなの!なんでそんなところに突っ立たせてるの?早く警備隊に売り払うの!」
「売り払うんじゃなくて、突き出すんじゃないの?商品にしようったって、この人たちのことをお金を出してまで警備隊が欲しがるとは思えないわ。指名手配犯でもないから賞金も出ないでしょうし。お金はあきらめなさい」
「フィリアルより被害者の方が冷静じゃねぇか」
呆れたといわんばかりのカシオの目線に、フィリアルは頬を膨らませつつも口を結んだ。
先ほどの私の言葉に疑問を感じた方のために、一応説明しておく。
このタグリス王国では、奴隷制度がある。法を犯した者、奴隷の子供なんかはみんな商品として売られ、奴隷としてこき使われる、最低な国。それがここなのだ。
奴隷は値段が高いため買える人間は限られるが、貴族なんかの使用人は大体が奴隷だ。もちろん、私たち王族の使用人だって。
奴隷になると背中に焼印がされる。それはたとえ解雇されて平民になったとしても、元奴隷の証として一生残る。死ぬまでその焼き印を背負って生きていかなくてはならないのだ。
普段は洋服で見えないが、何かの拍子で見られてしまえば差別の対象となる。
全く、人の命が金で買えるわけないのに、それを理解しようとしない馬鹿な貴族王族に対して、腹が立つ。
そして、いつの間にかそれが当たり前だと思ってしまっている私にも、腹が立ってしょうがない。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
ストックが切れてしまい更新スピードが低下しております、すみません。