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16 身一つ異世界召喚※

 異世界転生?

 いや違う。


 私がさっきまで何をしていたのか思い出せないのだから。

 正確には、この体がなにをしていたのかわからない。


 私がなにをしていたかはわかる。確か、明日の学校の持ち物を準備していたはず。

 それが最後の記憶なのだから、寝落ちしたか、それ以外の何らかの拍子でこっちへ来てしまったことが考えられる。


 夢の可能性は一パーセント未満。

 夢特有のあのふわふわとした感じはなく視界はクリアだし、痛覚はあるし、道行く人の視線が夢とは思えないほどリアルに痛い。

 だいたい夢であれば私の場合夢だと疑うこと自体思いつかない。


 何がどうなっているのだろう。

 誘拐?なら街に放置されているのは何故?自分の状態を確認した私はこれが誘拐なら相当ヤバい研究所にでも入れられるべきだと思ったのだった。


 驚きと困惑で声も出なくなった私は、しかしパニックになっても落ち着けてくれる人がいないことを思い出す。発狂してしまいそうになるのを押さえて、冷静になるため身近なことから思い出していく。



 私は誰だ?――今年の春から一人暮らしを始めた、女子大学一年生。名前は樫尾 凛(かしお りん)

 家族は?――両親と妹が一人。仲は普通に良いと思う。

 今日は?――十月十日。最後に見た時計は午後十時を指していた。

 ここに来る前何をしていた?――さっき思い出した通り、明日の講義に持っていく教材をカバンに入れていた。

 そのあと何があった?――わからない。気づいたらここにいた。

 ここはどこだ?――わからない。けど、周りの人の服装や髪の色からして日本――いや、地球じゃない。

 周囲の人と、地球人との違いは?――服装、髪以外にも、言語も聞いたことない。が、なぜか理解できる。

 外国の可能性は?――低い。いくら髪を染めている人が多くても、赤や青の髪がこんなに多くいるわけがない。

 体の異変は?――目線が異様に高いように見える。手も自分のものとは思えないほど分厚く大きい。胸がない。試しに声を出すと低い声が出た。


 これらのことからわかることは?――私は男として異世界に来てしまったようだ。


 召喚の類ではないらしい。召喚した本人がどこにもいない。

 ここが創作物の世界だとすると成り代わりの類だということも考えられる。

 普通の異世界転生だとすると、ただの性転換か。

 

 と、ここまで当たり前のように状況を分析している私だが、いくら外国とは思えない場所にいつの間にか性転換して一人置かれていて驚きが一周半回って冷静になっても、これほど短時間でこの結論にたどり着くのは至難の業だ。物分かりのいい人間だったのは、普段からこういった読み漁っていた漫画の影響だと考えられる。


 私は、俗にいうオタクだった。


 しかし、いくらオタクといえど、理解できたといえど、この状況を受け入れるのに時間はかかった。


 正直現実逃避したいが、そうすると野垂れ死ぬは間違いないだろう。

 心の中の(女子大生の)私が頭を抱えている。


 性転換は男がするものだとばかり思っていた。男が女の子になって、男だったときの友人と恋が芽生え……みたいな甘い恋愛小説を読んできた私にとって、大学生になったばかりの女子がこのムサくていかつい男になった現実にショックが隠せなかった。

 ちなみに顔はさっき店の窓ガラスで確認した。見た瞬間思わず二度見するほど強面の男だった。


 こんな男の姿にさせられて、身一つでどうやって生きて行けと神様は言うのだろうか。


 何もわからない状態で、生まれたばかりの子供のように右も左もわからない私はあたりを見渡すしかなかった。何もわからない。疑問なら山ほどあるが、その答えを教えて人などいない。


 かっこで恐らくが付くがせっかく異世界にこれたというのに、始まった瞬間ゲームオーバだなんて、あんまりではないか。どこかの貴族様とかに転生させてくれたらまだよかったのに、今の私は自分が何者なのかも知らない。


 困り果てる以外、どうすればいいというのだ。


 どこへ行けばいいのかわからず、立ち尽くすしかなかった。



 私という巨体が人通りの多い道で立ち止まっていると、当然通行の邪魔になる。という考えに至ったのは、一人の少年が声をかけてきたのがきっかけだった。というか教えてくれた。

 

「おい、そこの巨人邪魔だ!とっとと退きやがれ」


 言い方はトゲトゲしかったが彼の言うことに間違いはない。おとなしく退こうと思ったのだが、声を上げて振り返った瞬間少年は顔を真っ青にして逃げてしまった。


「あ?」


「っ…………や!す、すみませ、でした!」


 こんな感じ。


 いや、確かにこんな男に「あ?」って言われたら誰でも逃げたくなるよ。

 でもさ、君何も悪いこと言ってないじゃん。


 そんな思いを伝えることと、怖がらせてしまった謝罪をするため、私は少年を追いかけて走り出した。



 その少年が所属するとある商会に自分も身を寄せることになり、少年の姉と国を跨いで物を売る話はまた別の機会に。

更新が遅くなってしまい申し訳ありません。

ここまでお読みいただきありがとうございました。



ちなみにカシオに邪魔だといったのはお分かりかもしれませんがフィリアルちゃんの弟です。

弟……私も欲しかった。


本文にも書いていますが、カシオが商会に加入し商人として活動するまでのお話はまた今度。

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