第9話 「矛盾したタイトルは面白そう」
「ふう……ついにこの話題を口にする時が来たか……」
大野は部室で一人、深呼吸していた。
「え、どうしたんですか先輩?」
「おう伊原」
意気込む大野に、声をかける男がいた。
大野たちより一学年下で、名を伊原昭人といった。
「お前映画好きやろ?」
「まあ好きですけど」
「らしいぞ、秋葉!」
「伊原君を通した中継何やねん」
遠くでソファに寝そべりながら本を読む秋葉は、軽く頭を上げた。
「映画って、もうPV見た時点で面白いか面白くないか分かる節ない?」
「ああ~」
伊原はポン、と手を叩いた。
「確かにそうですね。面白い映画ってもう予告編とかから既に面白いですね」
「でもな、もう予告編すら関係なく、タイトルだけで面白そうな映画とかあんねん」
「えぇ!? それ過言とちゃいますか!?」
伊原はぐい、と大野に詰め寄る。
「おい秋葉、お前も聞いていけやこの演説」
「演説やとしたら伊原君サクラ感半端ないぞ」
秋葉はため息をつきながら、伊原の後ろに座った。
「でな、タイトルだけで面白そうとは言うけどな、タイトルでも面白そうなタイトルと面白くないタイトルあるねん。それの違いをな、俺最近一個見つけてん」
「なんですかそれ?」
「ええか? 矛盾したタイトルは面白そう、や」
「矛盾したタイトルは面白そう……?」
伊原は繰り返す。
「なんかタイトルで既に矛盾しとったらなんか面白そうな感じ出たりせん?」
「どういうことですか?」
「例えば、百戦錬磨のじゃんけん! ……とかや」
「じゃんけんの勝敗自体運任せなのにそれが百戦錬磨になるおかしさってことですか?」
「せや」
「確かに気になりますねえ」
伊原は考え込んだ。
「秋葉はどう思うよ?」
「一度も勝ったことがない横綱、とかか?」
「それそれ! めっちゃおもろそうやん!」
大野は興が乗ったように、言う。
「ああ、そういう感じ出良いんですね。じゃあこういうのどうですか? 冷たい炎は身を焦がす、みたいな」
「「おぉ~~~~~~~~~!」」
大野と秋葉は同時に感嘆した。
「伊原君めっちゃセンスあるやん」
「こう、炎が冷たいっていう矛盾に加えて、なのに身を焦がす、みたいな」
「え、マジですか?」
「おい伊原、他にもないんか?」
「え~……そうですねぇ……」
伊原は考え込む。
「こういうのどうですか? 幽霊の足跡を追って」
「「おぉ~~~~~~~~!」」
大野と秋葉は再び感心した。
「幽霊に足がないのに幽霊の足跡を追う、っていう。現代文学とかにありそうやわ」
「お前めちゃセンスあるやんけ!」
「伊原君やるなあ」
「なんか不当に褒められてる感半端じゃないですわ」
伊原は不当に向上する自分の評価にいささか驚いていた。