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やがてかしまし大野君  作者: 利苗 誓
第一章 弟との日常
8/22

第8話 「関西弁を使えると、不躾に振舞える」



「儲かりまっか?」

「なんやねんお前いきなりこてこての関西弁使ってきやがって」

「こわ」


 暖簾をくぐるようにして部室に入って来た大野に、秋葉は容赦なく言葉を浴びせかけた。


「大野パイセンちっス」

「お前またグラタン食べとんかい。栄養偏んぞ」

「大丈夫っスよ。グラタンはおやつなんで」

「太るぞ」

「心配の方向性がオカン化しとるやんけ」


 秋葉が途中で口を挟んだ。


「大丈夫っスよ、自分運動してるんで」

「学生運動か?」

「お前どんだけ学生運動したいねん」


 大野の返答に、秋葉が突っ込みを入れる。


「それに、社会人になるまでの自己研鑽の時間を奪われるぞ」

「滅茶苦茶オカン面してやって来とるやんけ」


 大野は近くの椅子に座った。


「儲かりまっか?」

「何回言うねん。部室で言う言葉ちゃうねん」

「ぼちぼちでんなあ」


 入江が大野に言う。


「なんでお前が言うねん。お前関西弁知らんやろ」

「あ、よ~ある関西人以外が関西弁使っとったらキレるやつちゃうん?」

 

 入江はふりふりとスプーンを振りながら、尚もイントネーションの異なる関西弁で、言う。


「別にキレんわ。お前は普通に腹立つねん」

「そやぞ、入江」

「なんで大野パイセンの味方したのに敵対視されてるんスか」


 入江がグラタンを一口頬張った。


「で、どう思う?」

「なんスか、母親がちょっと若人ぶって付けたカチューシャの反応訊くみたいに」

「いや、もっと普遍的に使うやろこの言葉は」


 秋葉が途中で言葉を遮る。


「まあ儲かりまっか? って訊かれたらぼちぼちでんなあ、って言うのが一番普通な感じしますけど」

「やろ?」


 にやり、と大野が笑う。


「もう既に関西弁にやりこめられとんねん、それ」

「え?」


 入江がぼと、とグラタンを落とした。


「関西人のことどう思っとる?」

「なんスかその捉えどころのない質問。なんか他人のプライベートにずかずか乗り込んでくる感じはありますけど」

「やろ?」


 大野はさらに、にやりと笑う。


「関西弁でした質問って、どんな質問であっても不躾に思えへん、みたいな所あると思うねん」

「へ~」


 入江が相槌を打つ。


「特に関西弁がコテコテになればなるほど、失礼な質問も許される風潮あると思うわ」

「どう思うスか、征先輩」

「まあ儲かりまっか? とかは、標準語に直したらどのくらい稼いでいますか? って意味やからなあ。そういう傾向はないとは言えんかもしれんな」


 秋葉は大野に目を配った。


「やろ? せやからわて、これからこってこての関西弁でそこらへんのわれどもにめっさ質問したろう思とんねん」

「関西弁の方に意識割きすぎて本題の方が適当なっとるやん」

「入江はん、あんた今月のバイト代いくらくらい稼いでおまんがな?」

「もう京都弁入って来てもうてるやん」

「十一万スよ」

「……」

「……」

「えぇ!? さっきまでの勢いどこ行ったんスか!?」


 大野と秋葉は質問の意志を失った。



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