第7話 「日常生活の謎やろ、これ」
「俺日常生活でどうしても理解出来んことがあんねん」
「なんやねん」
大野がどこを見る訳でもなく、そう言った。
「チャレンジ」
大野はどこか真剣な眼差しをしながら、人差し指を立てた。
「なんやねんいきなりチャレンジて。一年生か」
「違うわ。なんでわからんねんお前。テニスやんけ、テニス」
「ああ」
秋葉は膝を打つ。
「あの打ったボールがコートの中に入っとったか入ってないか審判に要求するときに言う奴やな」
「そうやねん。チャレンジって言うとな、確か三回までビデオで判定してくれんねん。どう思う?」
「いや、親切やなあ、と」
「ちゃうねん! 全然ちゃうねん!」
大野は大声を張り上げた。
「ビデオ判定したらかなり高精度でボールが入っとるかどうかわかんねん。それに、いつでもビデオ判定できんねん。ずっと撮影しとるからいつでも判定できんねん! じゃあなんで三回やねん! と思う訳やねん」
「知らんがな」
「なんで三回やねん! ずっとビデオで撮っとんやったら判定厳しい時全部ビデオ判定してあげたらええやんけ!」
「いや、知らんねん。ゲームのテンポが変わったりするんちゃうか。やっぱりそういうのってテンポ感大事やし、そもそも一試合で三回も厳しい判定とかないんちゃうか。それにそういうチャレンジで一旦試合の流れを切る、みたいな戦略もあるんちゃう」
「他にもな、あんねん」
大野はメモを取り出した。
「お前どんだけ世の中に不満溜まっとんねん」
「学生運動でも起こしちゃろか、思とるわ」
「何に怒っとんねん」
「世界にや!」
「誰が付いてくんねん。ラムネのビー玉取りにくいねんとか言っても誰もついてこんぞ」
「他にも聞いてくれや、なあ」
「もう学生運動の目的が愚痴大会にすり替わってもうとるやんけ」
大野は上体を乗り出した。
「俺のかっぱのタグな、前についとんねん」
「珍しいな」
「なんで前やねん!」
「それはほんまにそうやわ」
「なんでズボンのタグを前にやんねん! 一体何の理由があってズボンのタグ前にすんねん! 後ろでええやろ! あと、ズボンのタグにあるまじきメッセージ性の強いタグ、あれなんやねん! 出しゃばりすぎやねん! 紅ショウガやんけ!」
「脇役が味の大部分をつかさどっとるっちゅうことか」
「それにな、手帳見てもイライラすんねん」
「お前どんだけ出てくんねん」
大野は手帳を出した。
「見てくれや、これ。なんと日曜日始まり、って書いとんねん!」
「ああ、カレンダーは日曜日始まりやからなあ」
「じゃあ手帳も日曜日始まりにせんかい!」
「日曜日が後ろの方がビジネスマンとかにとって使いやすいんちゃうか」
「じゃあ最初っからカレンダーも月曜始まりにして欲しいねん! なんやねん、なんと日曜始まりって! 普通やろ! 全部そうせんかい!」
はあ、はあ、と大野は肩で息をした。
「気は済んだか」
「やっぱり学生運動始めよかな」
「お前のその学生運動へのこだわりなんやねん」