第6話 「世界の摂理とは、全てのバランスを保とうとしているのだ」
「佳人薄命って、知っとるか?」
「どうしてん、いきなり」
部室で課題を進めていた大野に、秋葉から声がかけられた。大野はシャープペンシルを置き、秋葉に対面した。
「おかしいな、って思ったことないか?」
「いや、そもそも佳人薄命って言葉が分からんねん」
「美人は体が弱かったり不幸になって早死にしてもたりすることが多い、ってことわざや」
「へぇ~、勉強なったわ。で、なにがおかしいん?」
「いや、おかしいやろ」
秋葉は軽く小首をかしげた。
「美人なわけやぞ? なんで早死にすんねん。病弱なんも不幸になるんも、普通おかしいやろ。容姿が良いっていうステータスがあるんやから普通に考えて絶対長生きやし病弱にもなりがたいやろ」
「まあそう言われると、確かに普通に考えたらおかしいよなあ。なんか偉い人に寵愛とかされそうやし」
「悪銭身に付かずって言葉もあんねん。宝くじとか、苦労せんと取得したお金はすぐになくなってしまう、みたいな」
「へぇ~、勉強なったわ」
「お前何も知らんな」
「ええやろ別に」
ふん、と大野は鼻を鳴らした。
「これもまたおかしな話やと思わんか?」
「これは確かに。宝くじなんかあたったら絶対常人よりお金持ちなんやから身につかんわけないもんな」
「そうやねん。おかしいねん。おかしいことがあまりにも常識じみた皮を被ってやってくんねん」
「確かになあ」
「でな、俺こういうので世界のバランスが保たれとるんちゃうか、と思う訳やねん」
「どういうこっちゃねん」
大野は身を乗り出した。
「何かしら人間の能力ってバランス取れとんとちゃうかな? と。例えば美人やったら他のステータスが低かったり、そもそも皆自分がステータス低いと思っとるんは実は自分の隠れた才能に気が付いてないだけなんちゃうかな、と思うねん」
「へぇ~、おもろいやん」
「自分の才能が一般的に人から見て分かりづらいところにあるからバランスが保たれとると思わんかったりするんかなあ、とも思うんや」
「なるほどな。でも、やっぱりそういう才能って必要ない才能もない?」
「……?」
大野は人差し指を立てた。
「世界って動いとるやん?」
「そうやな」
「だからな、その時々によって素晴らしい才能でも、役に立たんもんにもなりかねんわけやん。滅茶苦茶スケート出来ても、何百年も前の時代やったら何の役にも立ててない訳やん?」
「そうやな」
「だからな、たまたま世界の潮流がええ時にたまたまええ才能を持って生まれてしまった、みたいなところもあると思うねん」
「そうか。難しいな」
「でもな、俺はやっぱり努力するんが一番普遍的でええ才能なんかもしれへんなあ、と思うねん」
「そうやなあ……」
二人はしみじみと、天を見上げた。