第18話 「突然その環境に身を投げ出されることないですか?」
「秋君!」
「……?」
秋葉は呼ばれる声に反応し、振り向いた。宮下かと思ったが、宮下はいなかった。
「こっちですよ、秋君」
「……」
秋葉の視線の前に、両手に顎を乗せにまにまと秋葉を見る女がいた。入江だった。
「なんや入江、お前」
「先輩、宮下先輩から秋君とか言われてるんスね」
「まあな」
「私も秋君って呼んでいいスか?」
「ええわけないやろ」
「えぇ~、ケチ」
入江は頬を膨らませる。
「じゃあ秋君じゃなくて秋先輩ならいスか?」
「まあそれくらいやったら許したるわ」
「でもなんかすごい違和感感じません?」
「何がや?」
秋葉が疑問を呈する。
「私本来なら秋君って言っててもおかしくない立ち位置にあり得たんスよね」
「……?」
意図が分からず、秋葉は小首をかしげる。
「私一年浪人してるから秋先輩と同い年なんスよね」
「ああ、そういうことか」
「だから秋先輩のこと秋君って言っててもなんらおかしくはなかったんスよ。でもそれが許されない」
「分かったから。じゃあもう好きに呼べや」
「やりー!」
入江は指を鳴らす。
「でもやっぱりこういうのってすごい突然すぎません?」
「年齢の差が出てくるとかか?」
「いや、それもそうなんスけど、なんか小学生から中学生、中学生から高校生、高校生から大学生に上がる時って、誰に何を言われる訳でもないのに、突然その環境に身を投げ出されますよね?」
「まあなあ」
「中学校に入ったら突然部活とかいう存在が幅利かせてきますし、高校生になったら課題提出が自発的になりますし、大学生になったら知らない間に同期が年下とかになったりするじゃないスか?」
「そうやなあ」
「でもそのことに対する宣言とかナビゲーションとかそういうのは何もないじゃないスか」
「確かに」
「何も教えられてないのに突然そんな環境に身を投げ出されて適応しろって、ちょっと難しいと思うんスよね。せめてこういうことがこういう風に変わるよ、みたいに教えてくれても良かったんじゃないかな、と私は思いますね」
「なるほどなあ、確かに」
秋葉と入江はお互いを見た。




