第16話 「違いの分からない人間は幸せか不幸せか」
「違いの分からん奴って幸せなんかな、不幸せなんかな」
「どうしたんスかポエミーなこと言って」
「誰がポエミーや」
秋葉の呟きに、入江が反応した。
「どう思うよ入江」
「違いの分からない、っていう意味合い次第ですかね」
「なんか前佐々山が、女の胃袋を掴むために男の人が料理スキルを磨くべき、みたいなこと言っとってな」
「あぁ~、なんか佐々山さんっぽいスね」
入江がグラタンを食べる。
「ちぃ~っす!」
「あ、大野パイセンちぃ~っす」
グラタンを口に入れる前に、入江が挨拶を返す。
「大野パイセンも佐々山さんから男の人が料理スキルを磨くべきみたいな話されたんスか?」
「そうなんよ~、俺美食家やから料理には厳しいやい! って思ったんやけどなあ」
「らしいスよ征先輩」
「まあそりゃ個人差はあるやろ。俺はでも味覚とかあんまりないからかなり賛成ではあるんよ。でもな、味覚ないのってそれはつまり違いが分からんって訳やん?」
「まあそうスね」
「それは幸せなんか不幸せなんかと思ってな」
「いきなり登場したけど佳境やんけ~」
大野が椅子を引いてやって来る。
「入江とか毎日グラタン食っとるし味覚薄いんちゃう?」
「いや、グラタンの美味しさを分かった上で食べてるんスよ。そこらへんのグラタン系女子と一緒にしないでください」
「豚の方がまだグルメ」
「あ~~~~~~! 言った! この人言った! 征先輩なんとか言って下さいよ!」
入江が大野を指さしながら言う。
「入江…………お前は……優しい子や……」
「いや、私にスか!? しかもそれ褒めるところがない人に言うやつじゃないスか!」
あ~あ、私の人生こんなのばっか! と入江がすねる。
「でな、俺にとったら糖分〇パーセントも五〇パーセントオフも全部同じ味やねん。似たようなやつは全部同じ味に感じんねん。これは一見ヘルシーなやつだけ食べても何も変わらない、って話にもなるけどな、それで俺は食の楽しみがなくなっとんねん。いや、これは果たしていいことなんか悪いことなんかと思ったわけや」
「あぁ~なるほど」
入江が言う。
「私もちょっとグラタンの味とか分からないと人生厳しいかもしれないスね」
「俺も美食家やからなあ」
「健康にいいことが果たして人生にとって良く作用するんか悪く作用するんか分からんねん。こういう所、難しい所やんなあ」
「ですねえ……」
あたりに、入江がグラタンを食べる音だけが響いていた。




