第13話 「何故か皆が知っている言葉がある」
「not only A but also B!」
「どうしたんですか先輩」
突如として英語を言い始めた大野を、伊原は胡乱げに見た。
「どういう意味や、伊原。言うてみい」
「AだけでなくBもまた」
「正解や」
「簡単ですよ、それ」
伊原はこともなげに答えた。
「入江、お前知っとったんかい」
「いや、知ってるスよ」
「秋葉、お前知っとったんかい」
「有名やろ」
「認知率百パーセントか……」
大野は天を仰いだ。
「これ、そんなよう使うか?」
「え?」
大野の疑問に、入江が口をぽかんと開けて返事をした。
「なんか皆が知っとる言葉ってあんねん。それも義務教育とかで習っとる範疇じゃないもんまでもがや」
「どういうことですか?」
伊原が身を乗り出す。
「not only A but also Bは一応義務教育の範囲内やろ?」
「まあ」
「でもあんまり使う機会なかったやん?」
「確かにそうですね」
「でもなんでか皆知っとんねん、意味までもがや」
「へ~」
入江が興味なさげに相槌を入れる。
「これだけやないねん。例えばゲシュタルト崩壊」
「同じの見てたらよく分からなくなる、みたいなあれですよね」
「そうやねん」
伊原はよし、とガッツポーズをする。
「ゲシュタルト崩壊とか絶対義務教育で習ってんやん? なんで皆知っとんやろな、と、そう思う訳やねん」
「単純に使う機会が多いからじゃないスか?」
「いや、サニーサイドアップとかもあんねん」
「目玉焼き」
「そう。単純に使う機会とかやなくてな、人間覚えやすい言葉みたいなんがあると思うねん。俺はそれを解き明かしたいねん」
「確かにそういうところありますね」
伊原が乗り気で言う。
「伊原君大野に毒されとる所あるで」
「なんやねんその言い草ぁ! なあ入江ぇ!」
「いや、私は征先輩派なんで」
「なんでや!」
大野は叫んだ。
「俺は絶対解き明かしたる、この秘密。そして後世に語り継がれるんや」
「ちっちゃいんかおっきいんか分からん野望やな」
秋葉ははあ、と息をついた。




