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やがてかしまし大野君  作者: 利苗 誓
第一章 弟との日常
13/22

第13話 「何故か皆が知っている言葉がある」



「not only A but also B!」

「どうしたんですか先輩」


 突如として英語を言い始めた大野を、伊原は胡乱げに見た。


「どういう意味や、伊原。言うてみい」

「AだけでなくBもまた」

「正解や」

「簡単ですよ、それ」


 伊原はこともなげに答えた。


「入江、お前知っとったんかい」

「いや、知ってるスよ」

「秋葉、お前知っとったんかい」

「有名やろ」

「認知率百パーセントか……」


 大野は天を仰いだ。


「これ、そんなよう使うか?」

「え?」


 大野の疑問に、入江が口をぽかんと開けて返事をした。


「なんか皆が知っとる言葉ってあんねん。それも義務教育とかで習っとる範疇じゃないもんまでもがや」

「どういうことですか?」


 伊原が身を乗り出す。


「not only A but also Bは一応義務教育の範囲内やろ?」

「まあ」

「でもあんまり使う機会なかったやん?」

「確かにそうですね」

「でもなんでか皆知っとんねん、意味までもがや」

「へ~」


 入江が興味なさげに相槌を入れる。


「これだけやないねん。例えばゲシュタルト崩壊」

「同じの見てたらよく分からなくなる、みたいなあれですよね」

「そうやねん」


 伊原はよし、とガッツポーズをする。


「ゲシュタルト崩壊とか絶対義務教育で習ってんやん? なんで皆知っとんやろな、と、そう思う訳やねん」

「単純に使う機会が多いからじゃないスか?」

「いや、サニーサイドアップとかもあんねん」

「目玉焼き」

「そう。単純に使う機会とかやなくてな、人間覚えやすい言葉みたいなんがあると思うねん。俺はそれを解き明かしたいねん」

「確かにそういうところありますね」


 伊原が乗り気で言う。


「伊原君大野に毒されとる所あるで」

「なんやねんその言い草ぁ! なあ入江ぇ!」

「いや、私は征先輩派なんで」

「なんでや!」


 大野は叫んだ。


「俺は絶対解き明かしたる、この秘密。そして後世に語り継がれるんや」

「ちっちゃいんかおっきいんか分からん野望やな」


 秋葉ははあ、と息をついた。



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