第12話 「先人たちは適当な名言を後世に残しすぎ」
「ことわざとかってなんかあんまり含蓄深いのんなくない?」
「何言うてんねんお前はいきなり」
「そうスよ、パイセン」
大野言葉に、秋葉と入江が反応した。
「先手必勝って、あるやん?」
「ああ、ありますね」
「残り物には福があるって言うやん?」
「言いますね」
「急がば回れってあるやん?」
「ありますね」
「いや、どれやねん! と」
「なるほど」
入江は考え始めた。
「いや、もうあいつのペースに乗せられとるやん」
考え始めた入江を押しとどめる。
「いや、先手必勝と残り物には福があるってどう考えても真逆の意味やん? どっちを信用すればええねん、って話やねん」
「そういうのは時と場合に応じて使い分けるもんやろ」
「他にもあんねん。二度あることは三度ある」
「ありますね」
「三度目の正直」
「ありますね」
「仏の顔も三度まで」
「ありますね」
「いや、どれやねん!」
「なるほど……」
「おい入江、目を覚ませ!」
秋葉が入江を揺さぶる。
「三回やってええんか三回やったらあかんのか分からへんねん! どっちを信用すればええねん! 三回って言葉がキーワードってことしか分からんねん!」
「そういうのは状況によってこっちが適しとるな、とか分かって来るもんやねん。意味とかそういう話とちゃうねん」
「じゃあもっと詳しく書いといてぇや!」
「なんか私もそんな気してきましたわ」
「止めろ! 入江、お前は中立でおれ!」
秋葉は入江のグラタンを取る。入江はグラタン~! とグラタンを追いかけた。
「でな、俺これやったら俺もなんか名言かことわざ残せるんちゃうかな、と思って」
「なんやねん」
入江と格闘をしながら秋葉は訊く。
「東西南門未だ開かず」
「どういう意味やねん」
「東門と西門と南門を見に行って開かんかったから北門も開かんやろうと思って諦めたら、実際は北門だけは開いとった、みたいな。物事を最後までちゃんと調べような、的なエッセンスの入ったことわざ」
「なんかすげぇありそうスね」
「ドアホ! そんな適当なことわざあるかぁ!」
秋葉はグラタンを持ったまま言った。




