第1話 「句点みたいな使い方しとるセリフあるな」
二月十六日――
ある大学の部室で、二人の男子大学生が向かい合っていた。
「寒ない?」
「せやな」
ぶっきらぼうに質問されたその言葉に、秋葉征はこともなげに返答した。とくに気にするでもなく、話しかけている大野は二の句を継ぐ。
「俺らって天文学部やん?」
「せやな」
「で、俺らこたつ入っとるやん?」
「せやな」
「部室ってなんか色々揃っとるし贅沢やない?」
「せやな」
「なんやねんお前! せやなばっかり! 言葉のボキャブラリーどうなっとんねん!」
「なんやねん言葉のボキャブラリーって。お前選ぶ言葉偏っとんねん。手持ちの武器もっと選べや」
雑誌片手に返答する秋葉に、大野はむくれた顔をした。はあ、とため息をつき、また話を切り出す。
「まあええわ。ところでなんやけど、なんか人によって句点みたいなセリフ多用する奴おらん?」
「めっちゃ分かるわ」
「お前理解度半端ないな。さっきとの会話に対する情熱の切り替えどうなっとんねん」
「はよ続き言えや」
「なんか人と喋っとったらどこが会話の終着点分からんこと多いよな? いや、これでこの会話終わりなんかい! みたいな」
「先輩とかと喋っとったらようなるやつやな」
「そうそう。でな、自分がよう言うセリフを句点として扱っとる奴、結構おんねん。私がこのセリフを言ったらもう会話はおしまいですよ、みたいな、意味のない句点扱いの言葉があんねん」
「ほう」
大野は人差し指をぴっと立てた。
「へぇ~、面白いねえ」
「……なんやねん」
要領を得ない大野のセリフに、秋葉は顔を上げた。
「これ、宮下先輩の句点扱いのフレーズ」
「なんかめっちゃ聞いたことあるわ」
「へぇ~、大野君野球とかやってたんだ? 面白いねえ」
「めっちゃ句点扱いやんけ」
「そうやねん! なんもおもろないねん、俺が野球部やったこと! もうこれ以上会話してくんなっていう圧が凄いねん。ほんま人間ってこういう句点扱いのセリフ多用するよな」
「へぇ~、面白いねえ」
「会話終わらせようとすんなや!」
大野幸二郎と秋葉征の二人は、今日も部室で何の中身もない会話を続けていた。