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十二の試練  作者: 笹の葉
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第19話 調査 ①

 翌日の早朝。


 輪廻は朝早くから警備隊の書庫に赴くと隊員たちの名簿と経歴を調べ始めた。


「念の為とは言え、300人分の経歴を調べるなんて結構大変だよね?」


「それでもやるしかないのだよ。

 こういうのは細かいことからしっかりと確認しないと後でとんでもない事になるからね」


 そう言うとチャックは輪廻が並べた資料を読み耽る。


 そうして作業に没頭していると書庫の扉が開かれ、輪廻とチャックに緊張が走る。


「誰だ?」


 輪廻は鋭く誰何の声を上げるが、相手は目が点になり、一瞬固まる。


「え? って、グレイ様じゃないですか。

 あー、そうでしたね。

 えっと、私は警備隊の副隊長をしておりますケルビンと申します。

 一応第3中隊の隊長もしております」


 相手もこちらを見て安堵の息を吐くがグレイが記憶喪失であることを思い出したのか丁寧に自己紹介をする。


「あぁ、ごめ、すまない。気を遣わせたな。

 それでケルビンさ、ケルビンは何しに来たんだ?」


「何しにっていつものように昨日の報告書を確認したのでこちらに保管しに来たんですよ。

 グレイ様こそ何をなさっているんですか?」


 淡々と答えるケルビンに質問され焦る輪廻。


「あ、あぁ、その、な。

 えーっと、あぁ! そ、そうなんだよ。

 まぁ、知ってると思うが、記憶を無くしてしまっているのでな、せめて隊員の名前くらいは覚えようかと思ってな」


 輪廻のその慌てぶりにケルビンは察した。

 恐らくだが、グレイは記憶喪失になったことで皆を心配させまいと隠れて努力していたのだろう。

 そんな時に運悪く自分に見付かってしまったのだ。

 これではグレイが必死に記憶を取り戻そうとしていることがまるわかりになってしまう。

 ケルビンとしては記憶を失っても努力を怠らない主君のその行動に好感は持てど、この気不味さは如何ともしがたい。

 ここは何でもない風を装い即時撤退が最適解だろう。


「そ、そうだったんですねぇ、お邪魔したみたいですみません。

 これ仕舞ったらすぐ出て行きますんで、それじゃ、失礼しました」


 ケルビンはそれだけ言うとサッと書類を仕舞い足早に去って行った。


 一方、取り残された輪廻はと言うと、「バレた?」とチャックに問いかけ、「気にする必要はないだろう」と返され、再び作業に没頭するのであった。











 作業を進めること約2時間。


「ふぅ、ようやく全部見終わった」


「あぁ、殆どは問題なさそうだが、警戒しておいた方が良いのが8人程いるね」


「え?5人じゃないの?

 この8年で新規雇用されたのは30人。

 領外からの雇用は5人だったと思うんだけど?」


「確かに8年前からなら5人だけどね。

 おそらくその前からも密偵を忍ばせているんじゃないかと思ってね。

 念の為8年以上前から警備隊に所属している人物もチェックしたんだけど、テスター家の領地から入隊している人物が3人いたんだよ」


 その言葉に輪廻は納得するが、それならそうと先に言って貰いたいものだ。


「それなら先に言ってよチャック」


「あぁ、すまない。

 調べてる最中に思い付いてしまってね。

 次からは気を付けるよ」


 そして8人分の経歴書を取り出す。


「それでこの人達なんだけど、どうするの?」


「とりあえず、これから我々が行動する際はこの者達に情報が渡らない様にしなければならないんだが、厄介な人物が一人いるようだ」


 そう言ってチャックは一枚の経歴書を指さす。


「確かにねぇ。

 この人は多分確定でしょ?」


「恐らくはそうだろう」


 二人が見詰める先にあったのはシェリーの経歴書であった。


 そこに係れた出身地はテスター領であった。











「これ、もう確定だよね?

 呆れるくらいコロコロと転がされまくってるじゃん?」


 その言葉に無言でチャックは首肯する。


「こうなると第2中隊全体が怪しくなってくるんだけど?」


「確かに。

 それに8人中5人が第2中隊に配属されている」


 前日に話し合った計画ではグレイの直属の部隊である第2中隊を実行の中心に据えていたが、こうなると前提が崩れてしまう。


 今日の予定が総崩れとなり、輪廻も溜息を吐く。


「計画の練り直しかな?

 取り敢えず今日はここまでに「待ってくれ」・・?」


 輪廻の言葉をチャックが遮る。

 見ると彼は覚悟を決めたように視線を鋭くする。


「これ以上、先延ばしにするのは駄目だ。

 思った以上に状況が悪い。

 魔王軍侵攻の正確な日時がわからない以上、一刻たりとも時間は無駄に出来ない。

 我々の本懐を遂げる為にはこんなくだらない事で時間を無駄にすることは許されない。

 多少の強行も已む無しと判断する。

 輪廻、今日中にミッシェルを拘束します」


「どうやって?」


「勿論、武力行使(じつりょくで)ですよ。

 とりあえず、隊長のリヒトと剣聖、執事のチャベスに現状を説明して内定調査に協力させる。

 その上でシェリーを含む8人をまずは拘束します」


「はい?

 どういった理由で拘束するの?」


「治安維持の為と言えば問題ありません。

 大人しく拘束されるのであれば問題ない上、反対に抵抗するのであれば疑いは深まる。

 強制的に拘束しても問題ありません。

 つまり抵抗しようがしまいが関係ありません。

 その後、無関係であったのであれば疑いが晴れたとして謝罪すれば問題ない」


「そ、それでいいの?」


「本来はよくない。

 だから強行も已む無しと言っただろう?

 次にミッシェル含む文官の捕縛の実行。

 これは我々が官公庁にいるミッシェルの元に向かうと同時に警備隊で官公庁を包囲、その上で全員を捕縛する」


「それも治安維持の為で問題ないの?」


「これに関しては防衛費を8年で半額にしたと言う罪が既にある。

 それを明らかにする為と言う大義名分がこちらにはある。

 仮にミッシェルがグレイの許可を得たものだと主張しても君は知らないと言ってくれ給え。

 警備隊に送られた発令書にはミッシェルのサインしかないのは確認済みだ。

 防衛費を不正に削った件だけでも奴の罪を問える」


 チャックはほぼ無表情だが、その目が据わっている。

 その様子に呑まれつつも輪廻は疑問を口にする。


「文官全員捕まえちゃうと、行政が滞るんじゃない?

 それって不味くない?」


「たかが書類仕事。

 防衛を担う警備隊が行動不能に陥るのは問題だが、書類仕事が数日止まったところで実務に影響が出る事は殆どない。

 それに今回の件を解決したら滞った分を取り戻させればいい。

 なに、数日徹夜したって人は死なんよ」


 輪廻は次々と思い切った決断を下すチャックに不安を覚えるが、チャックが言う事も正しい気がする。


「チャックさん? ちょっと怖いんだけど、大丈夫?」


「大丈夫だ、心配ない。

 さて、では輪廻。

 まず警備隊長と剣聖を巻き込みに行こう」






 チャックの勢いに押され輪廻は警備隊の執務室へと向かった。




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