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十二の試練  作者: 笹の葉
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第14話

 屋敷に戻って来た輪廻は、チャベスに休むことを伝えると寝室へと篭った。


「さて、チャック。今後の事を話し合う上で1つ重大な問題があるんだけど。わかる?」


「あぁ、わかる。君が現在、物凄く弱いと言う事だろう?」


 輪廻は苦虫を噛み潰した様な顔をした後、1つ溜め息を吐いた。

 チャックが言ったことは事実で、輪廻としては今すぐにでも憑依する前のグレイ位の実力は取り戻したい所だった。

 その上で最終的にはそれを超える強さを得なければ現状は打破できないだろうとも考えている。


 それなのに強くなるには圧倒的に時間が足りないのだ。

 何時(いつ)魔王軍の侵攻が開始されるとも限らない。

 強さを求めるにはもっと根本的に違う方法で強さを手に入れる必要があるのかもしれない。


 そんな事を考えていると、チャックが声を掛けてくる。


「まぁ、君が懸念している事くらい私も考えているよ」


「それなら何か良い方法とかあります?

 正直俺じゃ、地道にグレイの身体能力を把握するところから始めないと無理な気がして、魔王軍の侵攻を考えると、とてもじゃないが間に合いそうにないんですよ」


「確かに・・・ そうなると、あまり気乗りはしないんだが、『想起の魔法』を使う方法がある」


「想起の魔法?」


「そうだ。普通この魔法は『忘却の魔法』と対になっていてね、あまり大っぴらに出来ない秘密を『忘却の魔法』で忘れて、何か忘れている事が無いか確認するために『想起の魔法』を使う事で忘れていたことを思い出すのだ」


「それってどんな時に役立つんですか? 使い道がわからないんだけど?」


「後ろ暗い歴史の編纂とかに使うのだよ」


 いきなりキナ臭くなったな。 輪廻はそう思いながらチャックの顔を見ると、表情に出ていたのかチャックが気不味そうな顔をする。


「ま、まぁ、冗談だよ。想起と忘却の魔法はそれぞれにメリットはある。

 想起の魔法は、例えば金庫の暗証番号を忘れた時に使うと思いだせるし、

 忘却の魔法は、馬に蹴られて以来馬が怖くなってしまい、馬や馬車に乗れなくなった人に使って馬に蹴られた事を忘れさせると、再び馬に乗れるようになったりする」


 想起の魔法は思い出すのに便利そうだが、忘却の魔法は精神的外傷(トラウマ)を消すには良い魔法だが、色々と不味い魔法の様な気がする。

 その事をチャックに問うと、チャックは事も無げに告げた。


「あぁ、忘却の魔法なんだけどね、実は欠点があってね、魔法を掛けられる側の同意が無いと魔法が成功しないんだ」


「どういう事です?」


「まぁ、人の心ってのは複雑だからね、無理に記憶を消そうとしても消えないんだ。

 だから使えない魔法として認識されてるし、精神系の魔法だから使い手がほとんどいない。

 だから輪廻が懸念した様な事にはならない」


 その言葉を聞いて安心した輪廻だったが、想起の魔法は記憶を思い出す魔法だ。輪廻の記憶で思い出して有用なものは・・・あまりなさそうだ。


「あのー、チャック。想起の魔法を使っても俺の記憶で使えそうな記憶はないと思うんだけど?」


「グレイの肉体から記憶を引き出すのだよ」


 その言葉を聞いて輪廻は脳みそから引き出すのかな? と考えた。

 それなら確かに引き出せるだろうが、魂は輪廻だ。 上手く行くだろうか?


「魂は輪廻だが、肉体はグレイだ。恐らくだが、魂がグレイの魂と異なる事で肉体との繋がりが希薄なのだろう。

 なので想起の魔法で繋がりを強化すれば、きっと記憶を呼び出せると思うのだが、憶測の域を出ない」


「つまり、やってみないと分からないってことですね」


「そうだ」


「他に方法は?」


「・・・今の所はない」


「・・・後で試しますか」


「そうするしかないだろうな」


「となると、この方法でグレイの強さを引き出せたとして、それを上回る方法なんですが、何かあります?

 俺としては魔法を使える様になったらと考えているんですが・・・」


 輪廻としてはせっかく異世界に来たんだから「魔法を使ってみたい!」と言う中二病的欲求が半端ない。


「うーむ、魔法か。 確かにそれが一番の伸び代に感じるんだが、私の世界のグレイは魔法を一切使っていなかったからな、才能が無かったのかもしれない。

 そうなると他の手も考える必要があると思うんだが?」


「いやいやいや! 試してみましょうよ! ぜひ!

 それにチャックって魔法全般使えるんでしょう?」


「う、うむ、大半の魔法は使えるが?」


「なら、魔法の師匠になってくださいよ! ひょっとしたら才能があっても教えられる人物が居なかったのかもしれませんよ?」


「ふむ、確かに、グレイの両親は騎士と魔法使いだったから、魔法が使えてもおかしくないし、両親が幼い頃に他界していて魔法に触れる機会が無かったのかもしれんな」


 そう思案するチャックは、輪廻のテンションにも当てられ、魔法の訓練を了承した。


 と言う事で、輪廻強化計画として、

 1.想起の魔法でグレイの戦闘経験・訓練時の記憶の引き出しを行う。

 2.魔法の習得。


 この2つが決まった。


「次は、この街の、いや砦の強化・改修についてなんだが、誰が砦の城壁とかの管理をしているか、わかるか?」


 そうチャックに問われ、輪廻は即座に否定する。


「いや、わからないです。 手近な所でチャベスにでも聞いてみますか?」


「そうだな、それから考えないと前に進めそうにない」


 と言う事でチャベスを呼んで内情を聞いてみる事にしたのだが・・・


「グレイ様。今この街を統治しておりますのはグレイ様です。

 ただ、グレイ様は慣例である警備隊の副隊長を兼任しておられましたので、政務に関してはミッシェル様が補佐として実務をされております」


「そうですか、ありがとうございます」


「いえ、滅相もございません」


 そう言って退出していくチャベスを見送ると、チャックと話し合う。


「どうやらグレイがこの街のトップって事で、色々できそうな感じですね」


「そうだな、まぁ、まずは現状把握から始めて砦の強化・改修を行うと言う事で、明日以降に後回しとしよう」


 そんな感じで内政関係は後回しとなり、1番の課題であるグレイの強さを取り戻す為に想起の魔法を使う事になった。


「リンネ、これから想起の魔法を使う。

 君はグレイの戦いの記憶を引き出す事だけを強く願うんだ。

 そうする事で思い出す確率が上がるだろう」


「ホントですか!?」


「信じる者は救われる」


 そう言ってチャックが祈りを捧げるポーズをとる。


「一気に怪しくなってきた!」


「少なくとも私は希望を信じることでこのチャンスを得たぞ?」


 真剣な表情でチャックにそう言われ、口籠ると、チャックが詠唱を始める。


「彼方に途切れし記憶を呼び覚ませ 想起!」


 文言を唱え終わると、チャックから輪廻に白い靄がかかり、数瞬後に輪廻はベットへと倒れこんだ。










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