第13話
やっぱり三人称的な書き方はよくわからない。
申し訳ありませんが、書き易いように一人称に変わるかもしれません。
色々試そうかと試行錯誤中です。
ペインの奥さんと一緒に輪廻が裏に回ると丁度ドラゴンネックタートルの甲羅を2人掛かりで外す作業の真っ最中だった。
「あ、解体作業もうやってるんですね」
そう声を掛けるが、2人は必死に甲羅を持ち上げている最中でこちらに気付いていなかった。
『リンネ、今は声を掛けない方が良いだろう。作業に集中している様だ』
もう一度声を掛けようとしたした輪廻を窘める様にチャックが諭す。
「それもそうだな、ペインの奥さん。案内ありがとうございました。 2人共作業に集中してるみたいなんで暫らく見学させて貰ってもいいですか?」
「ごめんなさいね。家の旦那、仕事に集中すると他が見えなくなるのよ。見学なら幾らでも構わないわよ。私は店番があるから戻るわね」
そう言って彼女は店の方へと足を向けた。
そうして木陰に移り、解体作業を遠目に見ながら輪廻がチャックに零す。
「解体作業って、見た目はかなりグロいんだね」
そう言って作業を進めるロイとペインを眺める。
ペインはタンクトップの様なピッチリしたシャツを着ている。背は少し低めだが、ガッチリした筋肉が眩しい。ポージングされたらさぞ暑苦しい事だろう。
『あぁ、そうだな。だが魔石を手に入れたり、素材を手に入れるには必須技能だ。リンネもその内 覚えた方がいいぞ』
少し引き攣った顔で輪廻が返す。
「いやぁ、あれは無理だわ。 うわ、グロ! 甲羅外すとあんなにグロいのか・・・ ってか、なんかすごい血生臭いんだけど・・・」
輪廻とチャックが雑談に花を咲かせている中、2人は慣れた手つきで甲羅を外し、ペインが甲羅の内側を丁寧に磨き始め、ロイは甲羅の外れたドラゴンネックタートルの内臓や肉をバラし始め、次第に血生臭さも増していく。
『生き物を解体しているんだ。血生臭い匂いがするのは当然だろう? 因みに魔物がいる森とかで安易に解体すると血の臭いに惹かれて魔物や危険な動物が寄って来るから普通はその場で解体せず、水場のあるところか血や匂いを洗い流せる場所まで移動してから解体するんだ。 まぁ、逆に魔物を狩る際は適当に獲物を狩って態と解体して呼び寄せたりもするがな』
「へぇ~、なるほど・・・、しかし、俺にはハードルが高過ぎるよ」
なんとなく人体模型の気持ち悪さに通じるグロさと血生臭さに輪廻は近付くことを早々に諦め、遠い目をして眺め続け、チャックとの雑談や薀蓄ある話を聞いて時間を潰した。
「グレイ。来ていたなら解体手伝ってくれれば良かっただろう?」
そう言って来たのは解体作業を終えたロイだった。
別に輪廻が隠れていたわけではないが木陰にいたので集中していたロイは気付かなかったのだろう。
「いや、どうにも集中して作業していたみたいなので邪魔しないようにと思いまして・・・
それに記憶を無くしてるんで解体も出来そうにないですしね」
「それなら尚更覚え直す為にも声を掛けてくれ給えよ」
そう言って笑うロイに曖昧な笑顔で返すが、本心は絶対無理! 間近で見たら吐く! と言っていた。
「ま、まぁ、解体も終わったんでしょ? なら、あの甲羅でどれくらい武器が作れるんです?」
輪廻のその質問には後ろで甲羅を運んできたペインが答える。
「甲羅を製錬してから精錬するから・・・多分30kgくらい取れるから・・・ まぁ、普通の剣なら20本位って所でさぁ。
ロイの旦那の剣なら15~6本ってところですかねぇ? グレイ坊ちゃん」
「坊ちゃんは止めてください」
「あぁ、すんません。 それでグレイ坊・・・ こいつで何か作りたいものでもあるんですかい?」
癖になっているのだろう。坊ちゃん呼びはまだまだ続きそうだが、「何か作りたいものでも?」と聞かれた輪廻は真っ先に「刀を!」と言いそうになったが、こちらでは存在していない様なので、輪廻は少し考えてから答えた。
「うーん、そうですね。それじゃぁ、長めの片手剣を2本と小剣を2本お願いします。あと、曲刀ってあります? 刀身に反りがある刃物なんですが・・・」
「ありますぜ、そうだな、分かり易いものだと、カトラスとかサーベル辺りですかねぇ」
「それじゃぁ、長めのサーベルを1本お願いします」
「ふむ、そうだな、丁度良い、そろそろ買い換えようと思っていたんだが、剥ぎ取りや解体に使いやすいナイフを2本作って貰えるかな?」
「あ、俺もそれ、同じのお願いします」
便利そうなので輪廻もナイフを注文する。
「了解! ってぇと計8本だな。素材の精錬から始めるから・・・ 受け渡しは7日、いや、8日後になりやすが、いいですかい?」
「えぇ、お願いします。それで、値段はお幾ら位になりますか?」
「ふむ、値段か・・・ すんませんがゼシカと相談させてくだせぇ。 俺としては余った素材を買い取りたいんだが、何分、財布の紐は8年前から女房が握ってるんでさぁ」
そう言って頭をかくペインに輪廻が疑問を口にする。
「8年前に何かあったんですか?」
「グレイ坊ちゃんも知ってるでしょうに・・・ その話は蒸し返さないでくだせぇ」
そう言うとバツが悪そうにするので気にはなったが、何があったかは聞かずに輪廻は話題を変えた。 それが人情ってものだろう。
「まぁ、それは置いといて、余った素材の売却ですが、先程の注文以外に2本分だけ残しておいてもらえれば、その残りを売りますよ」
「そうなると・・・大体素材の半分って事か、ありがてぇ! そいじゃ早速店に戻りましょう。 あ、それと他の売れそうな素材は直接解体してたロイの旦那に聞いてくだせぇ」
「わかりました」
そう言って3人揃って店の方へと歩き出した。
因みに他の素材についてだが、お肉は倒してすぐに血抜きしていなかったので少し質は落ちているが、十分売り物になるそうだ。
あと魔石も拳大のものが採れたらしい。
内臓はなんか薬の素材になるそうだが、良くわからないので相槌を打って適当に誤魔化した。 あと、ビックリしたのが睾丸だ。なんでも精力剤の材料で頗る高い値段で売れるそうだ。まぁ、俺には必要ないので他の素材も魔石以外は売り払う事にした。
魔石を残した理由はロイから使い道が色々あると聞いたからだ、緊急時の魔力補充手段にもなるし、魔導具の素材にもなる。そして通貨の代わりにもなり易く、遠出する時などは大金を持ち歩くより質の良い魔石を幾つか持って移動する方が荷物が嵩張らないそうだ。
まぁ、それ以外にも戦利品としても残しておきたい気持ちもあったからだろう。
そうしてドラゴンネックタートルの素材は甲羅を除いて殆んどを換金される事が決まった。
チャックもその事に対しては何も言わなかったので問題ないだろう。
そんな話をしつつ店に入るとペインは奥さんのゼシカさんの所に急いで向かい、俺とロイとチャックは店で大人しく待つことになった。
店の奥からペインと奥さんの大声でのやり取りが始まったので、輪廻はロイと素材の売り込み先を話し合う事にした。
「ところでロイ。 内臓とか肉とかどこで売るんですか?」
「ふむ、纏めて売るなら冒険者ギルドだろうけど、薬師に直接売ったり、肉屋に直接売った方が高く買い取ってもらえる。ただ、値段交渉とかそれぞれの適正価格が分からないとぼられる可能性も高いんだよ」
「なるほど、そうなると冒険者ギルドで売る方が安全って事ですか?」
そう聞く輪廻にチャックが口を挟む。
『いや、それぞれで売って高く買い取ってもらおう。私は物価についてもそれなりに詳しいつもりだ』
輪廻はチャックの言葉に頼もしさを感じる。
「そうなんだが、冒険者ギルドもギルド員でないと少し安く買い叩かれる」
ロイの返答にこれ幸いと各店に直接売り込むことを提案する。
「じゃぁ、それぞれの店で交渉するしかないじゃないですか。出来るだけ高く売った方が得ですよ」
「そうだね。まぁ、安心し給え。私はこう見えて目利きは出来ている方だと思うから交渉には役に立つと思うよ」
そう自信満々で答えるロイにチャックが面白そうに声を上げる。
『ほぉ、これはお手並み拝見と行こうじゃないか。なに、剣聖が失敗しそうになったら私が口を出すから輪廻が間に入って私が言ったことを伝えれば良い』
そんな話をしているとペインが奥さんとの交渉結果を知らせに来た。
「グレイぼっ・・・ あー、グレイ。素材は全部買い取れますぜ。詳しくはゼシカと交渉してくだせぇ!」
そう言うと、ペインが奥さんと交代するように後ろに下がる。
「改めまして、グレイ。値段交渉と行きましょうか」
百戦錬磨を思わせる口調でゼシカが仕掛けて来たが、最初はロイに交渉を丸投げする予定だったので、ロイに声を掛けた。
「ロイ! 早速ですけど、交渉をお願いします」
「任せ給え!」
そう言って舌戦に臨んだロイだったが、数分で劣勢に追い込まれていた。
そんな姿を見ていた輪廻が小声でチャックに質問する。
「チャック! 今回の件だけど、適正価格はどれ位なんです?」
『ふむ、まずドラゴンネックタートルの甲羅の値段だが、まずドラゴンネックタートル自体が結構珍しいまものなんだ。その希少性を加味するとして、君が仕留めたサイズなら大体大金貨4枚と言ったところだろう。
ペインはその半分を買い取ると言ったから、君が手にするのは大金貨2枚くらいだな。
そこから製錬と精錬の作業料とフルオーダーの武器を8本分加工する技術料を含めると・・・ 大金貨1枚と言ったところかな?
差し引きして「大金貨1枚と加工後に残った残りの魔鋼、そしてオーダーした8本の刀剣類が君のもの」くらいが妥当だな。まぁ、ドラゴンネックタートルの魔鋼は希少性が高いし、実用性も高い。もっと高く買い取る手合いは幾らでもいるぞ? 例えば『アストレア王国』に限っても・・・確か、マジード・キンケル伯爵やロズワール・レイアルド子爵は結構な好事家だったそうだから倍額でも買い取ってくれるかもしれんな』
そんな事を話していると、どうやらロイは相当劣勢に追い込まれたようだ。 助けを求める様にこちらをチラチラと輪廻を見てくる。
頼りにならないなぁ。と輪廻は思いながらもチャックに視線を送ると『任せろ。私の言う通りに話すんだ』と豪語したので、渋々話に割って入る。
「はいはい。すみませんね。ロイじゃ相手にならない様なので俺がバトンタッチって事で良いですか?」
「ええ、いいわよ。グレイ坊ちゃん♪ お手柔らかにね」
そう言って勝ち誇るゼシカであったが、輪廻との・・いや、チャックとのやり取りを始めると顔が青褪めて行った。
そしてとうとう諦めた。
「わかったわ。差し引きで大金貨1枚と金貨2枚をグレイに渡すって事で商談成立でどう? もうこれ以上は本当に無理なのよ!」
そう言って悲鳴交じりの声を上げた。
「うーん。まぁ、良いでしょう。それで手を打ちましょう」
そう言って輪廻は笑顔でチャックを見て喜んだ。
その後に薬師の所と肉屋の所に足を運んだが、同じようなやり取りで締め括られていた。
その後ロイに貴族の人名とか、交渉術を問い詰められたが、「よく覚えていないがなんとなく言葉が出てきた」「ひょっとすると記憶が少し戻ったかもしれない」等、適当に躱したがロイの問い詰める様な視線は変わらなかった。
そんなこんながありながらも今日は体を休めると言う事で、ロイとの稽古は中止となり、輪廻は屋敷に変える事になった。




