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十二の試練  作者: 笹の葉
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第10話

 輪廻がドラゴンネックタートルの甲羅の上に勢いよく飛び乗ると、鈍い音を立ててドラゴンネックタートルは手足を甲羅の中に引っ込めた。


 輪廻はおっかなびっくりしながらも数回木の棒で甲羅を叩いて手足が出てこない事を確認する。

 ドラゴンネックタートルは体に衝撃を受けると咄嗟に甲羅に隠れる習性があるのだ。

 これは甲羅の硬さに絶対の自信があるドラゴンネックタートルの生存本能とも言える習性なので例え怒り心頭に怒っていても体を甲羅に引っ込めてしまうのだ。

 本来は手足を引っ込めて外敵が諦めるのを待つか、疲れたところを反撃するのがドラゴンネックタートルの常套手段なので、この状態になられると通常はどうにもならない。

 だが今回はこの習性を逆手にとり、手足の出せない状況に追い込むのが狙いであった。


 チャックは狙い通りドラゴンネックタートルが手足を引っ込めるのを確認すると輪廻に話しかける。


「この通り、奴は自分の甲羅に絶対の自信を持っているんだ。さぁ、頭を出される前にその棒で引っ繰り返せ」


「りょ、了解!」


 そう言って輪廻はドラゴンネックタートルの腹の下に木の棒を力一杯ねじ込むと、梃子の原理を利用して引っ繰り返しにかかる。

 だが、腹の下の違和感に気付いたドラゴンネックタートルが頭を出そうとする。

 それを見たチャックが慌てて叫ぶ。


「リンネ! 頭を出そうとしてるぞ! 腹でもいい、蹴るなり殴るなりして衝撃を与えろ!」


 その言葉に輪廻も慌ててドラゴンネックタートルの腹に蹴りを入れると、ドラゴンネックタートルの頭は引っ込むどころか一気に飛び出し、絶叫を上げる。


「しまった! 逆効果だったか・・・」


「ちょ! そりゃないでしょう?!」


「こうなったら手足が出る前にさっさと引っ繰り返してしまえ! そうすれば奴は起き上がれない!」


本気(マジ)かよ!」


 そう言いつつ、木の棒を全力で押し上げ、輪廻は何とかドラゴンネックタートルを引っ繰り返したが、直後にドラゴンネックタートルがブレスを吐いて来た。

 輪廻は慌てて避けようとしたが引っ繰り返した直後で、体が硬直していたので動けずにそのまま直撃を受ける。

 重い衝撃を受け、体が吹っ飛ばされ後ろの木に叩き付けられる。

 背中を強打して強制的に息を吐き出され、呼吸が出来ない。その上右の脇腹に受けたブレスによって焼ける様なひり付く傷みがジワジワと襲ってくる。

 痛みと苦しみに声なき悲鳴を上げて地面を這い回る輪廻にチャックは急いで回復魔法を掛けるが、やはり通常よりも効きが悪い。

 歯がゆい思いをしながらもチャックは輪廻に声を掛ける。


「問題ない。これ位なら治せる。大丈夫だからな」


 落ち着かせるように、(いた)わる様に輪廻に言葉を掛け、チャックは周囲の状況を確認すると、ドラゴンネックタートルがこちらに向けて口を開いていた。


「危ない!」


 チャックは咄嗟に輪廻の体を押し出すように移動させると、チャックの体をブレスが素通りする。


「ふぅ、こんな体じゃなかったら危なかったな」


 そんな感想を漏らしつつチャックが次のブレスが来るかとドラゴンネックタートルを見ると、ドラゴンネックタートルはその場でクルクルと高速で回っていた。


「・・・」


 どうやら踏ん張りがきかない状態でブレスを放ったのでその反動で回っている様だ。

 輪廻とチャックにとって幸運だったのは、反動で引っ繰り返ったドラゴンネックタートルが元に戻らなかった事だろう。

 暫し呆然としていたチャックだったが、ハッと思い出し、輪廻に声を掛ける。


「リンネ! 意識はあるか? あるなら今すぐ動けるか?」


「む、無茶苦茶痛いんだけど・・・、なんとか動けるよ」


 そう言って右の脇腹を抑えつつ立ち上がる輪廻にチャックは次の指示を出す。


「動けるのなら奴に止めを刺せ! 今ならブレスも打てまい! 今がチャンスだ。思いっきり剣を突き刺してやれ!」


「分かった」


 苦悶に満ちた表情ではあったが、傷みを振り払い、折れた剣を抜くと輪廻は未だに回り続けているドラゴンネックタートルへと近付き、剣を振り上げ、固まる。


「・・・届かないんだけど?」


「思いっきりジャンプして真上から突き刺せ! お前ならできる!」


「・・・」


 暫し輪廻が沈黙する。 それに対しチャックは真摯に言葉を紡ぐ。


「リンネ、君は今、グレイの体を使っているんだ。君が思う以上にその体には力がある。断言しよう。思いっきりジャンプすれば必ず届く! 私を信じてくれ」


 輪廻は目を閉じ、深呼吸すると、覚悟を決める。


「わかりました。ここまでやったんだ。最後までやってやりますよ!」


 そう言うと、助走をつけてドラゴンネックタートル目掛けて走り込み、飛び上がる。


 するとドラゴンネックタートルよりも大分高く飛びあがり、それに輪廻は驚くが、そのまま折れた剣を真下に向けて突き出すと、そのままドラゴンネックタートルの腹の上に落下の勢いを全て乗せて突き刺した。


 突き刺されたドラゴンネックタートルは絶叫を上げてもがくが手足は腹に届かない。 そして首を長く伸ばして腹に刺さった剣を、輪廻を破壊しようとブレスを吐こうとするが、輪廻が素早く腹から飛び降り近くに落ちていた木の棒をドラゴンネックタートルの頭に叩き付ける。


 鈍い音がした直後、ドラゴンネックタートルは頭を甲羅の中に引っ込めるが、輪廻は腹に木の棒を叩き付けると、頭だけでなく手足も飛び出してきた。

 そして飛び出した頭を更に木の棒で叩き、甲羅に引っ込むと腹を叩き付ける。

 まるでもぐら叩きの様な様相になって来ていたが、当事者たちは真剣だ。


 真顔で容赦のないもぐら叩きが暫らく続き、やがてドラゴンネックタートルが動かなくなり、輪廻が慎重に数回木の棒を叩き付け、それでも動かないのを確認して腹に刺した折れた剣を引き抜きドラゴンネックタートルの首を斬り付け、頭を切り取ってからようやく戦いが終わった。


 木の棒を投げ出し、地面にどっかりと座りこむと荒い息を吐いて地面に倒れ込む輪廻にチャックは回復魔法を掛ける。


「よくやったな、リンネ。勝ったぞ!」


 そう言って勝利を祝うチャックだったが、疲れ果てている輪廻には聞こえていなかった。


「や、休ませ、て、くれ・・ください」


 死に体の輪廻はそれから30分程地面に横になって休んだ。

 幸い魔物に襲われる事は無かったが、チャックに不用心だと言われ、小言を聞く羽目になったが、ゴブリン以外で強敵を初めて倒したことに満足感を覚える輪廻であった。





















 クルクルと何かが軽快に回る音と共に輪廻は森の中を歩き続けていた。


「リンネ、本当に持ち帰るのかい?」


 そう言って輪廻が回しているモノに目を向けるチャック。


「えぇ、だってこれ、強い武器の素材になるんでしょ?」


「確かにドラゴンネックタートルの甲羅は加工できれば強力な武器の素材になるんだが、そもそもその甲羅を加工するには優れた鍛冶の技術だけでなく、高い魔力を持っていないと加工できないんだよ」


「でもこれを加工できる職人をチャックは知ってるんでしょ?」


「知ってはいるが・・・この時代だとアストレア王国のどこかにいるのはわかるんだが、それ以上はわからんよ」


「それでもこの国にいるなら加工できる可能性があるって事じゃないですか、それにその人以外でも加工できるかもしれませんしね。まずは物を持って帰らないとどっちみち意味が無いですから」


 そう言って上機嫌でドラゴンネックタートルを独楽のように回しながら歩き続ける輪廻が答える。


「だが、そうなると大分時間が掛かるんだが・・・」


 空はすでに日が暮れかけている。

 チャックは今の歩行速度を鑑みて、このままだとアーリアの森を抜ける頃には日が完全に沈んだ後、現代で言うと19時過ぎ位になると予想を立てていた。

 夜になれば魔物の動きが活発化する。 そうなれば危険も増すのでチャックとしては早々にこんな森から抜け出したかったのだが、ドラゴンネックタートルを倒した事を褒める際、甲羅が強力な武器の素材になる事を伝えてしまった為、輪廻は嬉々として持って帰ろうと主張したのだ。

 こんなことになるなら素材になる事を伝えるんじゃなかったと後悔するチャックだったが、「これからの戦いにおいて強い武器が必要になるかもしれない」と考えを前向きに変えて極力危険が無いよう辺りを警戒することにした。


 暫らく無言で進んでいたが、静寂に耐えられなくなったのか、チャックが甲羅を回す輪廻に問いかける。


「なぁ、リンネ。回すだけでそんなに楽に移動させられるものなのか? そうやって動かせるならそのまま引き摺れそうに思うんだが?」


「無理無理、重すぎてそのままだとマトモに動かないんですよ。だからこうして回しながら動かしてるんですよ。えーと、確か慣性の法則とかジャイロ効果?だったかな? そんな感じの原理で楽に動かせるんじゃなかったっけ? まぁ、そんな感じで、こいつが思った以上に丸い甲羅で楽に回せるんですよ」


 何とも適当な説明でチャックをあしらう輪廻だが、チャックは大真面目に聞いていた。


「ふむ、リンネも若いのに中々に難しい事を知っているのだな」


「まぁ、この前授業で先生が言っていたことの受け売り?って奴ですよ。まぁ、うろ覚えなんで間違ってたらすんません」


 そう言って甲羅を回しながら先へと進む。


 そんなこんなで輪廻は夜中にモスクの街へと辿り着いたのであった。


 もちろん夜中なので砦の出入り口は閉まっており、朝まで野宿したのは言うまでもない事であった。




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