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十二の試練  作者: 笹の葉
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第9話

ストック切れました。

 アーリアの森にて、グレイこと輪廻が目を覚ますと、何かを探すように辺りをキョロキョロと見回した。


「リンネ、何か探し物か?」


「うわぁ?! って、チャックさん?」


「さんは不要だ」


「すいません。どうにも目上の人を呼び捨てにすることに慣れていないんで、咄嗟の時は勘弁してください」


「まぁ、追々慣れて貰えればいい。それより何か探してたようだが?」


「あぁ、チャックを探してたんですよ。本当に見えるのかな?って思ったから」


 そう言って返事を返すリンネにチャックは納得し、伝える。


「残念ながら、私は存在しているよ。まぁ、私も君以外には触れる事も出来ないんだがね」


 そう言って輪廻の肩をポンポンと叩いて触れることを確認すると、今度は近くにあった木の枝に触ろうとするが、チャックの手は木の枝をすり抜けてしまう。

 それを見た輪廻は驚いた顔をするが、寝ている間の事はしっかりと覚えていたので取り乱す事は無かった。


「さて、それではアーリアの森からモスクの街に戻るとしようか」


 そうチャックが声を掛けると輪廻は頷き、木の頂上まで登ると向かうべき方向を見定めるのだった。



















「リンネ、質問があるんだが・・・」


「な、何ですか! 今忙しいんで後にして貰えませんかね?!」


 そう言って森の中を疾走する輪廻は後ろを気にするように振り返ると、そこにはガメ〇ンロードが後ろから追い掛けて来ていた。


 輪廻とチャックが木の上から眺めた結果、元来た道を暫らく戻る事になったのだが、その途上にてガメ〇ンロードの待ち伏せに合い、そのまま追い掛けられている。


「なんでだよ?! なんでずっと追いかけて来るんだよ?!」


 テンパる輪廻にチャックは冷静に質問をする。


「ふむ、やはり今するべきだと思うから聞くんだが、君、ドラゴンネックタートルに何かしなかったか?」


「やっぱりガメ〇ンロードじゃなかったんだ!」


「ガメ〇ンロード?」


「あの亀みたいなドラゴンみたいなやつですよ!」


「いや、私が見た限りドラゴンネックタートルだと思うが・・あ、ブレスが飛んでくるぞ!」


 チャックが警告をすると輪廻は急いで木の陰に隠れる。

 数瞬の後、ドラゴンネックタートルのブレスが輪廻が直前までいた場所を通り過ぎ、その先にある木に着弾し轟音を立てる。


「こんなの無理無理無理無理!!」


 泣き言を言いながらも全力疾走で逃げ出す輪廻をどうしたものかと頭を捻るチャック。


「リンネ、重ねて聞くが、何かしたのか? ドラゴンネックタートルは普段は大人しい性質なんだ。滅多な事じゃ襲って来ない」


 チャックが諭すように輪廻に聞くと、バツが悪そうに輪廻が答える。


「・・・ゴブリンと間違えて剣で攻撃しました・・・」


 小さな声で返ってきた輪廻の答えにチャックは「やはりか」と得心し、更に説明する。


「ドラゴンネックタートルは先程言ったように普段は大人しいんだが、自分が攻撃された場合や、敵意を向けてきた相手には好戦的になるんだ。それこそ地の果てまでも追い掛けて行きそうな勢いで追って来る。

 主な対処法は3つだ。1つ、ドラゴンネックタートルが諦めるまで逃げ続ける。2つ、実力差を思い知らせて勝てないと思わせて逃げ出させる。3つ、単純に倒す。以上、この3つ以外にはないね」


「それって殆んどの野生動物にも共通する対処法じゃないですか?!」


「・・・そうとも言う。 それでリンネ、君はどれを選ぶんだい?」


「それじゃ、逃げ切る方向でお願いします!」


 輪廻が即答するとチャックが呆れたように反論する。


「おいおい、君は今『亡国の復讐鬼グレイ』なんだろう? ならドラゴンネックタートル位、剣で軽く切り刻めば終わりじゃないか?」


「剣はこいつを攻撃した時に折れちゃいましたよ! それにグレイだけど中身は俺なんですよ? 戦えるわけないじゃないですか?!」


 そう返答しながらも必死に逃げ回り、右に左にと身を躱しながら疾走を続ける。

そんな輪廻を見てどうしたものかと思案するチャックが帰路と逆に曲がろうとする輪廻に声をかける。


「リンネ、左じゃない! 右に曲がるんだ」


「おっと! 了解!」


 そう答え進行方向を強引に右に変えると輪廻が一瞬前にいたところにブレスが飛んで来る。


「・・・ヤバい。マジで死んじゃう」


 そう言いつつも足は止めず、と言うより、より早く逃げ続ける輪廻にチャックは頃合を見計らいドラゴンネックタートルを倒そうと提案する。


「泣き言を言ってもこのままじゃ逃げ切れない。 なら、いっその事、倒してしまえば良いんじゃないか?」


「そんなこと言ったって、あんなブレス吐いて来る相手に勝てっこないですよ!」


 そう言いかえしつつも、前方の木々をジグザグに回避する輪廻。


「いや、そうでもない。ドラゴンネックタートルは甲羅は硬いが、腹側は比較的柔らかいんだ。ひっくり返してお腹を刺せば倒せるはずだ」


 さも簡単そうに言うチャックに輪廻は苛立ち紛れに返答する。


「でも剣は折れましたよ! 刺すなんてできませんよ!」


「根元から折れたのかい?」


(なか)ば位からですけど!」


「それなら大丈夫。刃が残っているなら十分刺せる」


「でもどうやって近付くんですか? ブレス掻い潜りながら近付くなんて怖くてできません!」


「正直だけど、まぁ、戦闘には追々慣れて貰うしかないか」


 どこまでも軽い口調のチャックに驚きを隠せない。


「これから戦うのは確定なんだ?!」


 その言葉にチャックは真剣な表情になり答える。


「戦端が開かれるのがこの地なんだ。当然リンネには戦って貰う事になる。だが、君は死んではいけない。戦う事は必須だが、死ぬことは許されない。

 死ぬくらいなら逃げてくれ。こんな事に巻き込んだ張本人にこんな矛盾した事を言われるのは嫌だろうが、お願いだ。死ぬ覚悟だけはしないでくれ」


「急にシリアスになってそんなこと言われても、現状考える事も出来ない位必死に逃げてるんだけど?」


「大丈夫だ、奴はブレスを吐く瞬間、自分のブレスの光で殆んど前が見えなくなる。ブレスを吐く瞬間に木陰に隠れれば奴は君を見失うはずだ」


「そんな重要な事、もっと早く教えてくれよ!」


「すまない、他の事を考えていて忘れていた」


「・・・」


 そんなやり取りをしている内にも次のブレスが正に吐き出されようとしていた。 そのタイミングを見計らい輪廻は木陰に隠れると、ドラゴンネックタートルは敵意剥き出しの形相でリンネの近くを素通りして先へと進んでいった。


「プハァッ! はぁ、はぁ、 あいつ、鼻はあまり利かないのか? 匂いでばれるかと冷や冷やしたんだけど・・・」


 ドラゴンネックタートルが離れると、輪廻は押し殺していた息を吐く。


「いや、ドラゴンネックタートルの鼻は人間よりも利くぞ。ただ好戦的になっているから嗅覚より視覚を頼りに行動しているんだろう。その視覚も怒りで頭に血が上ってるから視野が狭くなってるんじゃないかな?

 それよりも今の内にあいつを倒す方法を説明するがいいかな?」


「ホントに戦うんですか?」


 尻込みする輪廻にチャックが発破をかける。


「倒さないと執拗に追って来るぞ? 下手に追い掛け回されて街に被害が出るのも避けるべきではないか?」


 そう言われ輪廻は考えた。

 あんな魔物が街で暴れたら怪我人どころか死人が出る。

 本来のグレイなら軽くあしらえた筈の相手なんだ。それなのに自分が原因で誰かが傷つくのはありえない。

 より良い未来を手に入れる為にチャックに協力すると言ったのに、逆に街に被害を出してちゃ意味が無い。

 そもそもグレイだったらアーリアの森に入る事も無かったんだ。

 自分が頑張ることで何とか出来るならやってみよう。

 それに何もしないまま逃げるだけってのは格好悪いしな。

 そうして輪廻は戦う決意を固めた。


「・・・わかりました。 戦います」


 そう言うとチャックに頭を下げる。


「良し。それでは説明を始めよう」


 輪廻の決意に満足気な声でチャックはドラゴンネックタートルの弱点や討伐の仕方、セオリーなどをレクチャーしていった。

















 ドラゴンネックタートルは見失った輪廻を追って先へと進んでいたが、獲物が全く見当たらなくなった事で、間違った方向へ来てしまったと判断したようだ。

 「目ではもう追えない」そう判断したドラゴンネックタートルは、今度は臭いで追跡しようと首を伸ばし、地面スレスレに鼻を近づけ、匂いを嗅ぐ。

 決して諦めず、執拗に獲物を追い続ける。

 そしてついに獲物の匂いを嗅ぎ取り、口角を持ち上げると、嬉しそうな鳴き声を上げ、匂いを追いかけ始めるのだった。

















「・・・と言った感じだ。 どうだ? 戦えそうだろう?」


「聞く分にはなんとかできそうな気がするけど、ちょっと自信ないです」


 不安げに返答する輪廻はそう言いつつ、適当な長さの棒を探す。


「あ、これどうです?」


「お、良さそうだな。それを使おう」


 そう言って少し先にある折れた枝を拾う輪廻にチャックが肯定し、枝についていた余分な小枝を折れた剣で斬り落とすと、長さ2メートル、直径10㎝程の木の棒が出来上がった。


「本当にこんなので大丈夫なんですかね?」


「まぁ、大丈夫だろう。失敗したらまた逃げれば良い」


 軽い調子でチャックが言うと、輪廻が悪態をつく。


「他人事だと思って気楽に言ってくれますね」


「こういう時だからこそ気負わず気楽に肩の力を抜いた方が良いんだよ。張り詰め過ぎるとそれこそ失敗した時に咄嗟に動けなくなるものだ」


「・・・そういうものですかね」


「そう言うものだよ。まぁ、得物も手に入れたし、ドラゴンネックタートルに見付かる前に木に登るんだ」


「わかりましたよ」


 そう言って輪廻は木の棒を背負って手近な木に登るとドラゴンネックタートルが消えて行った方角に神経を集中させる。

 そうして待つ事暫し、ようやくその時が訪れた。



「お、ようやく戻って来たぞ」


 チャックがそう告げると同時にドラゴンネックタートルが咆哮と共に近寄って来た。


「ほら、違う方向に走って行ったのに戻ってきてまた追い掛けてきただろう?」


 そう言って少し勝ち誇ったような顔をするチャック。それに対し、輪廻は嫌そうな顔になって答える。


「そうですね・・・ 全く。なんてしつこいんだ」


「それじゃ、戦うって事で良いかい?」


「えぇ、倒さないと安全が確保できそうにない事もわかりましたし、戦う覚悟も既に出来ています」


「よし、それじゃ始めよう」


 そして輪廻はチャックの言葉に樹上で静かにタイミングを見計らう。




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