9話 はぐれ魔王と光
ここは…どこだ?
気づいたら俺はあたり一面何もない真っ白な世界にいた。
体もふわふわしていて少し気持ち悪いくらいだ。
「レム……やっ………えま…た」
誰だ…?
声のする方向に目を向けると大きな光が浮かんでいた。
その光は俺のすぐそばにくると周りをくるくる回りだす。
「…は…レム………よ」
すまん、ちょっと聞こえない。もう一度頼む。
するとその光は俺を包み込んだ。何故か暖かくて涙が出てきた。
何故。なぜ俺は泣いている。
お前は…
「今は………な…けれど…いつか…」
光は俺から離れるとそのまま消えていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「レム…起きて…起き…て…!」
「ぐふっ!!」
突然のお腹に来る鈍痛。
「ティア…いきなり殴るのは…いただけないな。」
「だってレム…起きない。」
犯人は仏頂面のちいさな彼女だった。意外と力が強いんだな。その隣には泣きそうな顔な…アルスか。
すると、ここは…アルスの部屋のベッドの上か。迷惑をかけたみたいだ。
「すまんな、アルス。」
「気にしないで!!それより体は大丈夫?痛みとかは?」
「ああ、特に問題はないよ。ちょっとだけぼーっとするってくらいだし。」
本当のことを言うとお腹がズキズキする。口にするともう一発パンチが飛んできそうでやめておくが。
治癒魔法とは体に大きな負担を与えるものだから無理しすぎたんだね、とアルスはいう。
どうやら治癒魔法に慣れていない俺が上級魔法のエリアヒールを使った挙句、ヒールを連発するという暴挙による気絶らしい。
こう考えるとダサいな。うん。
「はぁ…便利なのは便利だけど、融通はきかないんだな。」
「そもそもレムが光属性を扱えるのがおかしい…。」
ティアにそう言われ、改めて光属性を使える理由を考える。光属性は人族にしか現れない勇者が持つものだ。
勇者とは「勇者」アレスを筆頭として、「聖女」「剣聖」「拳聖」「弓聖」「魔聖」「盾聖」が挙げられる。この他にも特殊なものとして3つほど存在するのだがこれは特殊すぎて参考にはならないからという理由で説明はされなかった。
これらが集ってて戦うことがあれば、魔王ですらその身が危ういだろう。
しかし勇者は国の所有戦力として、複数の国に別れていること、国王が勇者を自国の防衛にその力を使っていること、という点からも勇者が集まることは現実的ではないと言えよう。
さて、なぜ俺が光属性を使えるかの考察に戻ろう。
まず俺がヒトという可能性。この可能性は俺にヒト嫌いのココロが無いために、なくはないと思う。戦闘を経験したことがないため、俺がヒトみたいに成長できるかどうかはわかっていない。しかし、容姿がまんま魔物なのでこの可能性は低いだろう。
次に魔物にも勇者が生まれることがあるという可能性。この可能性が一番濃厚かと思われたが、勇者の称号を持つものは、世界で一人しかいなく、聖女の席はもう埋まってるとのこと。
最後に、ウィスプの突然変異による光属性への耐性の上昇及び光属性の取得。うん、考えてみるとこれが一番現実的な気がするな。
「要するにたまたまじゃないか?」
「たまたまで魔王が光属性の体制を持っちゃだめだよ…。下手したら人類終わるよ…。」
「そんなに落ち込むなよ。ほら、戦闘力じゃ『勇者』のお前さんのほうが強いだろ。俺戦い方知らないしなぁ…。」
伊達にニートやってない。戦いなんてさっぱりだ。
「そうだよね…。僕だって勇者だ。大丈夫。なはず。」
後半は怪しかったが、アルスはそう自分に言い聞かせていた。
「レム…やっぱ変。」
「まあ、魔王ですし。」
「……元」
そのネタはもういいんだ。もとだろうが魔王の力は持ってますし…。別に魔王にこだわってるわけじゃないし…。
「僕は強い…強い…強いかなぁ…?」
「まだ言ってるのかアレス。」
「んー、今まで負けたことないけど、魔王とかと戦ったことないしわからないんだよね。」
負けたことないかぁ…。もうその時点で強いでいいんじゃないかな。
「そうだ、模擬戦しよう?」
「弱い者いじめはよくないな。すごくよくないな。」
「レム絶対強いくせに何言ってるのさ。」
戦い方を知らないってさっき言ったはずだが。勇者は結構強引らしい。
「んじゃ、俺に戦い方を教えてくれよ。」
「分かったよ。最初から模擬戦で慣れていこうか。始めの何回かは僕が勝つけど多分すぐレムが勝つことになるよ。ルールを説明するね。」
アルスが模擬戦のルールを設定する。ルールは至ってシンプルで、相手を気絶させるか、相手を追い込んで、次の行動で絶対に相手を仕留められる状況まで持っていけば勝ちらしい。
気絶の仕方なんて知らないし、リタイアさせるしかないなぁ…。
「じゃあマスターに言って闘技場借りてくるね。」
ここ闘技場もあるのか…。