7話はぐれ魔王、英雄に好まれる
「アルスは、なんで隣に座るんだ。」
「やだなぁ、レムは常識を知らないんでしょ?仲良くなった人…じゃないけど、仲いいもの同士は隣合って座るんだよ?」
そうだったのか。それは少し失礼なことを言ったな。この、隣に座っていることも、肩がくっついていることも、ヒトの常識なのだろう。
「それでさ、レムの種族ってなんなの?そうだね、人型だから…豪雷鬼とか!」
「俺か?俺はウィスプだ。」
「えっ!?ウィスプって言い方悪いけど、力の少ない種族の…?物理は無効になるけど…魔法に対して滅法弱い…あの?」
ウィスプは確かに弱い種族だし、そう思われるのも仕方のないことかもしれない。同じ無形種だとスペクターのほうが何倍も力を持っている。しかし、時にそういった弱い種族からの魔王が出ることもあり、魔王の力と種族の持つ力の組み合わせ次第では、最弱が最強足り得る、と親父が言っていた。
「顔…見せてもらってもいいかな…?少し気になるんだ。」
「ああ、いいぞ。」
ワクワクした目でこちらを見られては見せるしかないじゃないか。決して素顔を見せられるヒトが増えたから嬉しく思ってるとかじゃないんだからねっ!!
「ああ…綺麗だ…。僕の心さえ吸い込みそうな闇の色が繊細に揺らめく姿は、何もかもすべて呑み込んでしまうのだろうね…。」
「そうだろ?そうだろ?いや、わかるやつにはわかるんだな。」
恍惚とした表情で、そんな褒め言葉を並べられれば誰だって悪い気はしないだろう。こいつはいいやつだな。
「ウィスプの炎の色はその属性を表すというけれど…やっぱり魔王だから闇属性なのかい…?…っと、君の話だ、他の人に聞かれないところでするとしよう。誰かがここくるかもしれないしね。僕の部屋に来ないか?」
そう言って、俺の手を取りながらアルスは立ち上がる。でもティアを放っておくのも悪いしなぁ…。
「んじゃ、連れに少し伝えてから行くけど、それでいいか?」
「連れもモンスターの方なのかい?」
「ヒトの女の子、かな。」
「…そうなんだ。」
なぜそこで落ち込む。ヒトとはわからないものだな。
談話室を後にして廊下を歩いていると、ちょうどティアが部屋のドアを開けて出てきた。どうやら荷物の整理はついたらしい。
「ティア、ちょっとこいつの部屋行ってくる。」
「……大丈夫?」
「はじめまして、僕はアルスだ、彼の種族について心配してるなら問題ないよ。彼のことは彼にも教えてもらったから。」
「…レム…口が軽い…?」
そんな目で見るなティアよ。ほら、俺らは目と目でわかり合っちゃうんだよ。と言うかアルスが勇者じゃなかったら俺がやばかったくらいなんだから許してくれ。
「僕は勇者……とか呼ばれてるから。レムのことも分かっちゃうんだよ。」
「…勇者。……レムは平気なの…?」
どうやらティアは俺を心配してくれてるらしい。勇者は魔王を討つために生まれると言うのはヒトの間では当たり前のようだからな。
「ん、こいつはいい意味でも悪い意味でも真っ直ぐで正義感が強いからな。ちゃんと話し合って問題はないとは思ったよ。」
「ふふ…っ、悪い意味ってなんだろう、レム、それはあんまりじゃないかな?」
「……勇者…もしかして…?」
アルスは悪い意味と言われてもにまにましながらこっちを見る。何だその表情は気持ち悪いぞ。魔物にも、なじられて喜ぶ変なやつもいるがお前もそうなのか?
それとティア、こんなやつだから、敵意はないから睨むのをやめなさい。
「とまあ、僕とレムはあぃ…友情を深めてくるだけから、心配しなくてもいいよ?」
「………そう。」
めっちゃ冷めた目で勇者を見てます。怖いよティアさん。アルスが何かしたというのだろうか。
「…なにかされそうだったら…逃げてくるんだよ…?」
ティアにしてはしっかりとした口調でそう忠告してきた。アルスは俺に害を加えたりしないと思うんだけどな。
「ま、まあとりあえずこいつの部屋に呼ばれてくるよ。」
「わぁ…。嬉しいな。お茶とかクッキーとかも用意しなくちゃね。」
まて、こんなに揉めなくてもティアを連れていけばいいんじゃ?これこそ名案じゃないか。
「ティアは一緒に行っちゃ駄目なのか?」
空気が固まった。あれ、それ余計な一言だったかな。そんなに悪い案じゃないと思うんだけど。
少々の沈黙をおいて、アルスが口を開いた。
「う、うん!それもいいんじゃないかな!ティアさんも一緒にどうだい!」
「私は…まだ準備終わってないから…買い物とか…だから遠慮する…。」
「そうか!残念だなー!」
この二人の相性はあまりよくないんじゃないかな。取りあえず話はまとまったようだが。
アルスがこちらの手を取り嬉しそうに、ニマニマがマックスになりながらこちらを向く。
「それじゃあ、僕の部屋に案内しようか。」
アルス自体の容姿はすごく整っているんじゃないかと思う。今はニマニマしていて、変な顔になって入るが、やわらかな瞳ときれいで高い鼻、薄い唇。
ヒトのなかでも好まれる顔立ちをしていると思う。体格もあって、ヒトの女の子と言われても納得してしまう気がする。魔物の俺が言うのもあれだけどな。…女の子じゃないよな?
「アルス。お前は男だよな。」
「ふふ…っ、面白いことを聞くね。僕は男の子だよ。確かに間違われることは多いけどね、失礼しちゃうよ全く。でも、レムは最初から男だって気づいてくれるんだね…?ふふ…。」
ニマニマがマックスを超えた。満面の笑みだ。今のセリフがそんなに嬉しいのか?だが、男だという確信は持てたので、それ以上は聞かないことにする。
暫く歩くと旗のマークがついた部屋の前で、アレスは止まった。
「…ここが僕の部屋だよ。ゆっくりしていってね?」
アルスくんやべーな