4話 はぐれ魔王、威厳を出す
矛盾とか気にしない。ご都合主義。
「んで、君はなんでこんなところに?」
レムは少女の隣を歩きながら尋ねる。そもそも魔王城周辺は強力な魔物が蔓延るため、近づく人は少ないのだ。
「…生命刈りのため。元魔王に言うことかどうかは…わからないけど。」
生命刈り、人が己の強さの糧とするため、魔物を殺し、生命の力を得るものだ。元々が弱い人が強力な魔物を相手取るため、自分を強化する必要があることをなどを筆頭に、人が生命刈りを行うにはいくつかの理由がある。
「あー、昔城の教育係に教えてもらったなぁ。確か俺等の強さに合わせた力が手に入るんだろ?ゴーレムの奴らを倒せばヒトは少しずつ打たれ強くなるとか聞いたことある。ほんの少しずつらしいけどな。あ、これって実際似合ってるの?」
「…あなた、よく喋る。モンスターと話ができるなんて不思議。もしかしてモンスターって喋れる…?」
実はこの世界の殆ど人は知らないことだった。種族によって差はあるが、全ての魔物が話せるという事実を。それを知らない少女はレムとの遭遇で初めこそ気づかなかったが、人からしたら魔物が話すということはおかしい事だ。
「俺らは全員話すよ?種族によって寡黙なやつとかもいるけどね。ウォーウルフなんて鳴き声1つで作戦指示を済ませちゃうし、ヒトの前では話しちゃだめだって、親から教えてもらうのが習慣だから、ヒトは知らないのかもだけどね。」
少女は口元に手をあてながら考える素振りを見せた後、口を開く
「んー……。んーんーんー…。知らないことはたくさんある…。もっと聞きたい。モンスターに名前とかあったりする…?あるならあなたの名前も。」
「俺の名前?んー、レムだよ。レム・ウィスプ。それが俺の名前。名前のあとに種族名がつくのが魔物の名前付けなんだ。」
「レム…レム…。…ん。わかった。レム、私の名前も教えてあげる。」
他の魔物に名前を聞くことがなく、友達もいなかったレムに、こういったやり取りはなかったので目を輝かせながら次の言葉を待つ。
「ティア・アールグレイ、それが私の名前。エルフには氏族があって後半につくのは氏族名。」
「ティアか…。ふふ、いい名前だな。すごくきれいな名前だ。」
両者の名前が出揃ったところでティアは話を戻す。
「さっきの話だけど…モンスターを倒すことで私達が力を得られるのは本当。弱いモンスターだと何匹も倒してやっと少し成長がわかる程度。成長具合は倒すモンスターによる。」
こういった魔物と人との情報の齟齬は多岐にわたる。そもそも情報が交換できるような間柄ではないため、両者とも億則でしかないのだが。
二人がお互いのこと種族について話し合っているとき、ティアの耳が何かを捉える。
「この…気配は。これは私の手に負えない…。レム…どうにかできない…?」
「んー、やってみるよ。その時はしっかり隠れててね?」
少し歩くと遠くに魔物が見えてきた。2メートル手前の大柄、かつ細身の身体を銀色の毛で覆うその魔物はウォーウルフだ。
「あー…あいつらは魔王城周辺を警備してくれてるんだよ。今は風下だから問題ないけど奴らは鼻が効くから気を付けてな?」
レムはティアを岩陰に隠し、ウォーウルフの元へ向かう。
「お勤めご苦労。なにか異常は?」
「あ?誰だお前…ん?その色は…闇の漆黒?!魔王一族だって!?な、なぜこのような所に…?」
二人人組で並ぶウォーウルフの片割れが、もう片方の頭を抑え、跪いてから口を開く。
「相方が失礼しました。レム様。少しレッドキャップが数を減らしてきている以外は問題ありません。」
「そうか、レッドキャップを倒していたであろうヒトは我が始末しておいた。それと、この先魔王城までの道に異常はなかったから、家に帰って休んでもよいぞ。」
ウォーウルフの二人はすこし戸惑ったような声で言葉を紡いだ。
「流石魔王様です。しかし…私達はまだ…平気ですので…お気持ちだけいただきたく存じます。」
「聞こえなかったか?我は休んでもよいといったのだ。次は無い。分かるか?」
レムが自身の魔力を高め、顔の炎を激しく揺らしながら威圧をかけた。魔王の魔力の奔流に包まれ、全身の毛を逆立てながらウォーウルフは魔王に背を向け駆けていく
「おーい行ったぞー。出てきていいぞー。」
「レム…やっぱり魔王だった…?」
「なに?まだ信じてなかったの!?」
肩を落として落ち込むレムに先程の威厳や風格は無くなっていた。
「はぁ…仕方ないか。んで…これからどうするので…?」
「ん…取り敢えず…人領最前線、城塞都市アベールに向かう。」
「おお!ヒトの街に入るんだな!楽しみだなぁ」
目指すは人類の鉄壁の城塞都市アルベール。二人はゆっくりとその道へ歩みをすすめるのだった。