3話 はぐれ魔王頑張る
趣味で書いた程度の物語。こんな物語欲しいなっていう唯の自己満足だから投稿日とか内容とかはお察しレベル。
3話 はぐれ魔王、頑張る
「…………どうする。」
あれ、このこ大丈夫だよな?魔力を沢山くれたから返しただけなんだけど…?え?これだけで…?
地面にうつ伏せで倒れたエルフを見てレムは焦っていた。いきなり倒れたものだから色々不安にもなる。それも「ヒト」を見るのも初めてだからどう対処すればいいかもわからない。
「取り敢えず…野ざらしってのは良くないよな…」
レムは応急処置として倒れた少女を抱え、近くの岩の影に休ませた。
「本当、どこから来たんだろう…。種族は…耳尖ってるしエルフでいいかな、本で読んだし。…………うん、そうだな。そういうことにしておこう。」
そこでレムは改めて彼女の容姿を確認する。尖った耳。ボブスタイルのショートの髪は透き通るような淡い翡翠色をしていた。気絶していてもどこかムスッとしている顔は変わらないらしい。体型は小柄で、比較的長身のレムより頭3つ分程度小さいくらいだ。
「できれば関わりたくない…でも放って置くわけにも行かないしな…」
特にレムがヒトを嫌うことがなくても、彼女を魔物をよく思っていないかもしれない。起きた瞬間戦闘開始なんて容易に思いつくことだ。
そこで、レムは決断する。
「よ、よし…取り敢えず起きるまでは見守っていて…起きて…攻撃してきたら逃げればいいな…。よし、これでいこう…。」
そよ風が辺りを包む。とは言っても枯れた大地の風だ、寂しさばかりが増していく。そうして待つこと数十分、事態に動きが見え始める。
「んっ………んん…?………ここは?私は…………
……………っ!?」
バっと彼女はあたりを見回す。そして、レムとバッチリ視線を交わす。
………………気不味い。
彼女は攻撃する素振りは見せない、しかし行動も起こさないためレムは逃げるという選択肢を取るか迷っていた。それに彼女が向ける視線から感じるものには、少なくとも敵意は感じられない。かわりに、その身に突き刺さるのは、不安や好奇心といったものか。
だが、その静寂は彼女が口を開くことで破れることになる。
「………どうして。…助けた…?」
確かに助けたとも言えない状況だ。とは言うものの、レムのしたことと言ったら自分が気絶させた少女を岩陰に運んだだけだ。マッチポンプも甚だしい。
「えっと…放っておけなかったから…?」
「………嘘。モンスターが人を助けるはずがない。魔物には人嫌いのココロがあるはず。」
「そう言われてもなぁ……。」
ーーーここは…ちゃんと話して戦闘を回避しなければ。
「俺ってさ、別にヒトが嫌いなわけじゃないんだよね。ほら、俺からしたら何かされたわけでも、こうしてヒトに会うのも初めてだし、嫌いになる理由もないわけでして…。」
彼は早口で続ける。
「そ、そりゃあもちろん?全ての魔物がヒト嫌いのココロ?を持ってるのは知ってる。でもどこにだって例外はいるじゃないか。ほら、俺がまさにそう。みたいな?」
自分で言っておいて何を言ってるかわからなくなってきたのか、最後は疑問形だったが、彼は弁解を続ける。
「ま、まあ魔物の言うことが信じられないのは、仕方のないことだ。俺は回れ右して別の道行くから、そ、それじゃまたな?」
産まれてこのかた、誰かとコミュニケーションを取る機会を設けていなかったレムは、会話を諦め踵を返してそそくさと逃げる準備を始める。
「まって。」
レムは足を止め、振り返る。
「な、どうした?俺は魔物だ。こうして二人は会った。でも戦闘にならなかった。俺帰る。俺ハッピー、お前さんもハッピー。両者Win-Win。これでいいだろ?」
「………戦闘にはなった。あの戦闘をあなたがどう思ったかは知らないけど。それと……教えて欲しいことがある。」
彼女の不安な視線はもう消えていた。その目が語るのは好奇心。レムは固唾を呑んで質問を待った。
「さっきの…なに」
「…………?さっきの…?」
「私の魔法…効かなかった。ウィスプの吸収できる魔力量を超えてる。明らかにキャパシティオーバー。それと、そんな色のウィスプは見たことがない。あなたは何者…?」
レムは首を傾げる。彼自身戦いなどしたことはなかったし、そもそも先程の魔法も魔王城では見たことはなかった。攻撃魔法と気づかなかったのもそのせいだ。魔王城ではあれほどの高位魔法はよっぽどのことなない限り使わない。
「何者って言われても…元魔王ってくらいしか…」
「っ!?!?」
「ちょっ!元だから!仕事もろくにしてなくて追い出されただけだからっ!!構えるのやめてっ!?」
「追い出された…?仕事もろくにしてない…?…どういうこと、説明して。」
どうやら彼は説明の機会を得ることができたらしい。そしてレムは今までの有り様をそのまま少女に伝える。
(要するにニートしてて親に勘当食らったってだけなんだけど…それを別の種族とはいえ女の子に教えるのもなぁ…なんかなぁ…。)
「…大体は理解した。…怠け過ぎで親に見捨てられた可哀想な子ってこと。」
「まあ…否定ができないんだよなぁ…」
「でも…そのおかげで戦争はここ数年なかった…。少しは…平和だったのかもしれない。」
仏頂面を更に顰めて彼女はそう言う。確かに、レムが魔王を担っている期間は、多少の小競り合いはあったものの大きな戦争、というものは人と魔物の間にはなかった。
すると少女が問いかけた。
「あなたは…これからどうするつもり」
「うーん…、とりあえずは当てもなくブラブラと旅をするよ。ヒトの街に入るのもいいな。他種族の暮らしも見てみたい。それから何もしないでぬくぬくと暮らせるとこを探すかな。」
「あなたには無理。その姿じゃ絶対に敵対される。みたところ、顔を隠すものも持ってない。」
レムはしまった、と顔を両手で覆いながらうずくまって呟く。しかし、少女の次の言葉に彼は顔を上げる
「もしよかったら私についてくるといい。顔を隠すものも持ってる。人と一緒に行動すれば、色々ごまかしも効く。」
「えっ………、いいのか…?俺魔物だよ…?」
「あなたは変わってる。すごく変。人嫌いのココロも持ってない、あまつさえ人の街に行きたいなんて言う。私もあなたに興味が湧いた。」
レムは感動した。こんな嫌なことが続いても、いいことは必ず起きるのだと。コミュニケーションの大切さを改めて痛感していた。こんなにも誰かと行動できるということが、心に安心感を与えるのかと。城から追い出され数日しか立っていないが、彼は実は寂しがり屋だった。
「ふ…ふふ…、そうか。なら、頼もう。お前さんに俺はついていこう。喜ぶがよいわ!魔王が仲間になってやろう!」
「『元』の癖に威張らない。それとその喋り方は似合わない。」
「ぐ……、俺だって威張りたいときくらいありますー」
こうやって話すということがどれだけ心に余裕を与えるか。先に歩き出した彼女の後ろを付いていくことが、どれだけワクワクすることか。首から上だけを振り返って口角を上げる彼女を見るだけで…どれだけ安心するこ
「あとあなたの身体も調べたいし」
安心なんてできなかった。まさかの身体目的だった。いや、レムもなんとなくはわかっていた。
ここから二人の旅が始まる。はぐれ魔王と、はぐれ人の旅が。この二人がこれから魔物と人とのあり方を大きく変えるのは、まだ後の話。
今日はここまで。