キスと帰り道
同級生の女の子に呼び出された。
体育館裏だった。
清楚そうに見えたけどもしかしてそういう人だったのかな。
ああ、緊張してきた。
もうやって来た。
「あっ、あの」
「はい」
なぜだろうか?
緊張しているように見える。
しかしそういうことじゃなさそうだ。
それで僕の緊張は解ける。
しかし目の前の子はまだ緊張している。
「あの、か、彼女っていますか?」
そんなことが気になるんだろうか?
それを確認してどうするんだろう。
「いますけど、それが?」
「い、いや。なんでもないんです」
ちょっと悲しそうな顔をした。
もしかして先輩のファンだったかな?
先輩はかなり人気が高い。
女子からも男子からもだ。
その先輩の彼氏が僕なわけが無いと思って確認しただろうか?
腑に落ちないがそれで一応は筋が通る・・・のかな?
+ + +
「そんなことがあったんですよ」
「あなた、それって」
先輩が何かを言いかけたが途中でやめた。
何を言いたかったんだろうか。
知りたがったが隠したことを無理に聞くことはないだろう。
「あなたってかなり鈍感なのね」
先輩にそんなことを言われた。
鈍感?
ある程度は自覚しているが、なぜ今それを言う?
「いきなり何ですか?先輩」
「何でもないわ」
おお、先輩が不機嫌そうだ。
僕が話した内容に何かあったかな?
「別に僕に何かしてきたわけではないですよ」
「それは分かってるわよ」
はあ、と先輩が溜息を吐いた。
「かわいそうに」
本当に悲しそうに、しかし少し安心したようにそう言った。
「誰がですか」
「あなたを呼び出した子よ」
「なんでですか?」
「知られることもなく終わってしまったから」
「何を?」
「それは私が言うことではないわね」
そしてそのまま僕を向いてきた。
その表情はいつになく真剣だ。
「忘れないでね」
何をですか、そう言おうとした。
しかし言葉は出てこなかった。
先輩にキスをされたから。
先輩の唇は柔らかかった。
この時、冷静にそう思った。
「私を好きなのはあなただから。私が好きなのはあなたってことを」
その意味を聞くことはなかった。
先に先輩が走って帰って行ってしまった。
追うか迷う。
しかし恥ずかしかったのかもしれない。
後ろから声を掛けられた。
僕を呼び出した女の子だ。
「どうしたんですか」
「あの言いたいことがあって」
覚悟を決めたような顔をしている。
「私はあなたが好きです」
その時に先輩が言ったことが分かった。
確かに僕は鈍感だ。
笑ってしまう。
僕は残酷なのかもしれない。
何も知らずに過ごしていたかもしれないのだから。
「私と付き合ってくれませんか」
先輩はこうなることが分かったのだろうか。
それが分かって僕にああ言ったのだろうか。
僕の答えは決まっている。
「すみません」
ここで今目の前にいる子が傷ついても僕のセリフは変わらない。
「僕は好きで付き合っている先輩がいます、だからすみません」
こう言うことがきっと僕ができることだ。
「ありがとう」
彼女は泣きそうになっている。
そして帰った。
携帯を取り出して先輩の番号にかける。
「先輩一緒に帰りませんか」
どこにいるか分からなかったが今は先輩と一緒に帰りたかった。
少し疲れてしまったから。
〈いいわよ〉
「先輩どこにいるんですか」
〈あなたの前にいるわよ〉
そう言われたので顔を上げた。
いつの間にか下を向いていたようだ。
そして10mぐらい先に先輩がいた。
「見てました?」
「いいえ」
「そうですか」
空を見る。
空は少し曇っていた。
だけど太陽は見える。
「先輩」
先輩がこっちを向いた。
そしてその顔にキスをした。
「お返しです」
顔は少し赤くなっていることだろう。
そんな顔を見られたくなくて僕は少し早足になった。
作風が安定しない。
どうしましょう?
次で終わりです。