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第六話 『持つ者には課せられる』

「…………」


 俺は屋上に置いてあるベンチへもたれかかるように座り、髪がかきあげられるような風を受けながら、深く息をはいた。


 ──今日は風が強い。


 隣に座る少女は、少し肌寒そうに体を震わせて、その身を寄せてくる。


 現在の時刻は11時。

 今やっているであろう授業が終われば、晴れて昼休みが始まり、休息を喫することが出来る。と言った所だろうか。


 そう、今は普通ならば授業中。

 しかし俺は今、こうして屋上に居る。


 端的に言えば、サボっているのだ。



 俺は現在の状況を頭の中で整理した所で、軽くため息をはいた。


 その瞬間。校舎から屋上へと出るための、鉄製の扉が勢いよく開き、気だるそうに歩く猫耳少女が現れた。


「魔法の実習とかやってらんねーっすよ……。自分、普通の魔法使えないんすよねー……」


 少女はため息と共に愚痴のようなものをはきながら、俺の座るベンチへと歩み寄ってくる。

 俯いているために、こちらの事を認識していないようだ。


「……なんだ、サボりか?」


「まあサボりっちゃあサボりっすけど、これは戦略的撤退と言うか……。って先輩っ?! 何してんすかこんなとこで!?」


「……お前と同じサボりさ」


 俺が居たということに対して、驚いた様子のリリカは、ややオーバーにリアクションをとっている。


 どうやら、トイレに行くと言ってそのまま抜け出してきたらしい。


「もうこれはいじめっすよ! 魔法を使えない自分に対して魔法実習だなんて……」


 俺がサボっていたと言うことへの驚きにより、変に上がっていたテンションが収まってきたかと思えば。視線は徐々に下がり、つらつらと愚痴を言い始めた。

 その顔には陰が差しており。まあ、なんというかダークな表情を浮かべている。



 俺の前に立ち、ぶつぶつと愚痴を洩らすリリカ。

 それに対して俺は適当に頷く。


 そんな時間が五分ほど経った頃、リリカは何かを思い付いたようで、愚痴を止めた。


「……あっ。先輩、今日学校終わったらゲーセンでも行きません?」


 そう提案した彼女に対して、肯定の意を示すように頷いて見せた。

 表情を見る限り、ストレス発散と言った所だろうか。


 俺の反応を見た彼女は、背後の猫のような尻尾をピンと立たせ、小さくガッツポーズを見せた。


 そんなにストレス発散がしたかったのか……。


「ゲーセンって、何?」


 ダークな表情が見る影も無くなった彼女の様子を眺めながらうんうんと頷いていると、制服の袖を隣の少女に引かれた。


「あー……。遊ぶ所、だな」


 ──うん、間違いは無いはずだ。


 俺は少女へそう答えた後、自分を納得させるように何度か頷く。


「……んん? ……あっ。先輩今日もその子と一緒なんすねー」


 少しの間、不思議なものを見つめるような顔で俺の様子を見ていたリリカ。

 少女の存在をやっと認識出来たのか、凝らしていた目を元に戻してそう言った。


 俺はリリカに対して、この少女もゲーセンに連れて行きたいという旨を伝える。

 すると彼女は。


「ぇ……。あ、い、いや。まあ自分は全然構いませんけど?! …………はぁ」


 一瞬、時が止まったかのようにこちらへと視線を向けたまま固まり、そう声をあげた。

 先ほどまで真上を向いていた彼女の尻尾は、だらんと力無く下を向いており。少し元気が失われたように見受けられる。


 ──どうかしたのだろうか。


 急に体調でも悪くなったのか。と、声をかけた所。


「い、いや、大丈夫っす……。自分、授業戻りますね……」


 心配ない。と、首を振って否定した彼女はそう言い、とぼとぼと力無い歩みで屋上を出ていった。





────────

──────

────




「さあ、来ましたよゲームセンター! 先輩! まずは何にしますか?」


 と、リリカがよくわからないテンションで叫んだ。


 ゲームセンターの中は五月蝿くて、よく声が通らない。

 だから、彼女は大声を出している。


 と、いうような、それらしい理由があるわけではない。


 学園で教室に迎えに行った時点で、彼女はこんなテンションだった。と、言うことから察するに。

 おそらく、魔法の実習の授業が相当なストレスになったのだろう。


「本当は先輩と二人で……。いや、もうこうなったらとことん遊び尽くしてやるっすよー!!」


 と、隣で謎のテンションを継続しているリリカを傍目に。何か気になるものはないか、と少女に尋ねる。

 すると少女は少し考えるような素振りを見せた後、出入口から入ったばかりである現在の地点から見える、そう離れていない所の機械を指した。

 とても大きな液晶画面、その前にはコードに繋がれた四つの銃が置かれた台座がある。そんな機械だ。


「ほうほう……、アレを選ぶとはお目が高いっすね! アレはストレガの審判と言って、四種類の魔法を駆使し────」


 リリカがこのゲームに関してのうんちくを長々と語り始めるが、そのほとんどは何を言っているのかがわからない。いや、聞いたことがないような専門用語が出てくるために理解が出来ない、と言うべきか。

 まあ、端的にまとめるならば魔女と戦うガンシューティングゲーム。と言ったところだろう。


「────。まあ、とりあえずはやってみましょうよ」


 ある程度の説明が終わったのか、リリカはそう言って銃を手に取り構えるとPSDを台にかざした。

 俺はそれに倣い隣の台に置かれた銃を少女に握らせ、その横に並んで己も銃を手に取ると、リリカと同じようにPSDをかざす。


 すると正面の画面で先ほどまで流れていたムービーが止まり、STARTと言う文字が浮かび上がった。


「それじゃあ、いくっすよ」


 リリカはそう言うと同時に、画面へ向けていた銃の引き金を引いた。

 やがて画面は暗転し、荒廃した市街地を映し出す。













「ここから、最終ボスとの戦闘っすよ」


 荒廃した都市を進んで行くムービーが流れる中、リリカがそう言った。


 画面の向こうでは、開けた土地に静かに佇んでいる魔女が映った。


 ──…………?


 数年前に、ここに映っている魔女と遭遇した覚えがある。


「……なあリリカ。もしかして、このボスは見えなくなったりするのか?」


「おっ、その通りっすよ。先輩知ってるんすか? ……って、そう言えば実際にこれ倒したの先輩ですもんね。テレビで見ましたよ」


 なるほど。

 このゲームには魔女の核が存在していたり等、色々とリアルな点があると思ったが実際にあった事を元にしているのか。










「いや、自分のスコアを軽く越えるとか、二人とも初めてにしては上手すぎません? 実はやったことあるんじゃないんすか?」


 最終リザルトが正面の画面に映し出される中、リリカはそう言った。


 ──実戦よりも簡単だからだろう。


 俺はそう、思った通りのまま彼女に伝える。

 少女に関してはあまりわからないが、これが初めてなのは確かなはずだ。


「えぇ……。自分、これでも店舗ランキング一位なんすけど……」


 彼女は肩を落としてそう呟く。

 少女はそんな様子の彼女を見て、おろおろと少し狼狽えるような動作をした後、リリカの服の袖をくいくいと引いた。


 そしてリリカは少女の方へ向き、少しの間を置いてこう言った。


「……先輩。この子持って帰っちゃってもいいすか?」


 銃を台座に戻した彼女は、少女の腰を掴んで小脇に抱える。少し、息が荒くなっているように感じる。

 抱えられた少女はいやいやと首を左右に振り、抵抗している。


 俺の位置からは少女の背中しか見えないために見えなかったが、少女が何かをしたのだろうか。


 リリカの、少女を持って帰る云々については俺が干渉する余地は無いという旨を彼女に伝える。

 すると彼女は嬉々として少女の説得に取りかかるが、少しの後にそれを振りほどいた少女が間に俺を挟むように逃げる、という結果に至った。





「そろそろ良い時間だ、夕飯でも食べて帰ろう」


 ストレガの審判を終えた後、俺達は様々なゲームで遊んだ。

 そして時計の針が夜の九時を指し示す頃、必死になってクレーンゲームを繰り返しているリリカの背中に向けて俺はそう言った。


「も、もうちょいで取れそうなんすよ。後少しだけ待って下さい」


 そう言い、手慣れたようにPSDをかざして同じことを繰り返す彼女は、既に五千円ほどを使っているだろう。

 しかし進展はほとんど無いように見受けられる。

 少女はその様子を物珍しそうにまじまじと眺めていた。


 彼女が狙っているものは、ぬいぐるみやフィギュア等の景品らしい物ではなく。綺麗に包装された小さな箱に入った、その辺の店にでも売っていそうな銀色のブレスレットだった。


 見たところ、普通ならば少しの金額で取れそうだ。

 まあ、言うなれば彼女はクレーンゲームが驚くほど下手なのだろう。


「くっ……、これ以上はマズイっすね……。今月の食費が……って、先輩……?」


 先ほどから同じような動作を繰り返している彼女の様子を見かねた俺は、その小さな肩に手を置き、無言のまま頷いて彼女を下がらせる。

 そしてPSDをかざして二回、三回と景品をクレーンで動かしていく。

 すると落下と共に、機械から獲得を知らせるような効果音が流れた。


 俺は景品を受け取り口から取り出し、リリカに差し出す。


「え……、いいんすか?」


 俺が差し出した物へとおそるおそる手を伸ばす彼女はそう言い、こちらへと視線を向ける。

 肯定の意を示すように頷いてみせると、彼女は明るい表情を浮かべ、俺の手から箱を受け取った。


「ありがとうございます! あ、これ二つ入ってるんで、よかったら先輩も着けて下さいよー!」


 彼女はそう言うと、銀色に輝くブレスレットを箱から二つ取り出して、片方を俺へと差し出した。

 猫のような尻尾をピンと立てながらブレスレットを手首に着ける彼女は、とても嬉しそうだ。


「ああ、ありがたく受け取っておこう」


 俺は差し出されたそれを受け取り、左手首に装着した。

 金属特有の、ひんやりとした冷たさが少し心地よい。


 左手の薬指に嵌められた蛇をモチーフにした指輪が、ほんの少しだけキツくなったような気がした。


「……気のせいか。それじゃあ、行こうか」


 サイズ感を確かめるため、くるくると回すように指輪を撫でる。すると、先ほどまで感じられていた圧迫感がまるで嘘のように無くなった。

 そんな不思議な感覚に首を傾げつつも、俺は二人と共にゲームセンターの出入口へ向かった。





「…………ペア、ブレスレット……? ……って、何……?」


 先ほどまで彼らが挑戦していたクレーンゲームの台。そこに展示された、景品内容を示すような張り紙。

 それを見ていた少女の、誰に言うでもなく放たれた小さな呟きは、ゲームセンター内の騒々しさに間も無くかき消された。




────────

──────

────





「お疲れ様です、ヴァイオレット少佐! 話は既に伺っております! そして、もしや隣に居られる貴方が()()……」


 俺は今、アヤ姉さんに連れられて軍の本拠地に来ている。

 その入口の左右には軍服姿の女性が二人、見張りのように立っている。

 そして先ほどの発言は、右側に立つ女性によるものだ。


 彼女達は踵を付けるような気をつけをし、とても綺麗な敬礼を見せている。

 アヤ姉さんが同じように礼を返したことでその体勢は崩され、彼女は手を後ろに回し、休めの姿勢になった。


 ──()()……?


 俺とこの女性は面識がない。それはまず間違いないはずだ。

 しかし彼女の口ぶりからは、まるで俺のことを知っているかのように受け取れる。

 一体どういうことだろうか……。


「もっ、申し訳ありません! 何か気に障るようなことを申し上げましたでしょうか!?」


 彼女はおろおろとした様子で、困ったような顔をこちらへと向けている。

 どうやら顔に出ていたらしく、しかめっ面になっていた俺を見てそんな言葉を出したらしい。


 別に、何かに対して怒っている等と言うことはない。

 俺がその意を示すように首を横に振ると、彼女は安心したように肩の力を抜き、ほっと胸を撫で下ろした。


 一体、この場所での俺はどういう扱いをされているのだろうか。


「……君は仮名リヴァイアサンを沈黙させた男として、ここではかなりの話題になっているんだ」


 アヤ姉さんが俺の耳元に顔を寄せて、小さな声で囁くようにそう言った。

 似たような事が続く可能性もあるが、気にしないで欲しい。との事だ。


「あ、あのっ! よろしければサインを頂けないでしょうか……?」


 扉の左側に立って俺達のやり取りを静かに眺めていた女性が、手を後ろに組んだままこちらへと小さく一歩歩み寄り、もじもじとした様子でそう言った。


 ──まるで、テレビの有名人みたいな扱いだな。


 そんな事を思いつつも、彼女へ対して頷いてみせ、了承を伝える。


「あっ、ありがとうございます! ペンはこちらを……。えっと、か、紙は……」


 俺は受け取ったペンのキャップを外し、待機する。

 ごそごそと、上着やズボンのポケットを忙しなく探っている様子から察するに。

 どうやら、彼女は何かを書ける紙を探しているようだ。


「え、えっと……。そうだ! お待たせしました! ここにお願いします!」


 彼女は何かを思いついたような声をあげると、勢いよく上着の前を開き、その下に着ているシャツを引っ張るように広げてそう言った。

 確かにその真っ白な無地のシャツには、文字を書けそうなスペースは存在する。しかし、他に何か無かったのだろうか。


 ペンを近付けたものの、そこに書いてもいいのかどうか躊躇した。が、それを望むような視線がこちらに向けられていたので、思いきって名前をそこに書き刻む。


「ありがとうございます! 末代までの宝にします!」


「あ、あの! 自分にもお願いします!」


 その場でシャツを脱ぎ始め、大事そうにそれを畳みだした彼女にペンを返した所、もう一人の女性がペンと色紙を片手にそう言ってきた。


 先ほどアヤ姉さんが『似たような事が続く可能性もある』と言っていたが、まだ入口前から進んですらいない。のにも関わらず、この状況だ。


 ──先が思いやられるな。


 俺は小さくため息をはき、肩を落とした。


「……まあ、あまりにも度が過ぎた場合はボクも止めに入ろう。それまでは頑張ってくれ」


 そんな様子の俺を見て、アヤ姉さんはそんな言葉をかけてくれた。



 ──正直、これが続くとなると気が滅入りそうだ。






────────

──────

────






「ああ、まずは……そうだな。件の仮名リヴァイアサン討滅戦においての働き、ご苦労だった」


 そう言ったのは、目の前に居る元帥と呼ばれる女性。外見から読み取るに、およそ二十代後半と思われる。

 しかし。漆塗りの机に両肘を立てて、口元を隠すように組まれた手。こちらの顔を真っ直ぐに捉えている、射抜くような鋭い眼光。それらはまるで、歴戦の戦士を思わせるようだ。


 流石、元帥と呼ばれるほどの事はある。と、言った所だろうか。


 因みに、俺の隣に控えるように立っているアヤ姉さん曰く、この女性は少なくとも二十代ではないらしい。


「したがって、貴殿にはその働きへの対価として多大な恩賞を受け取る権利がある。それと同時に、貴殿にはその功労を示す──」


「いや、勲章も名誉もいりません。知り合い……、いや、仲間を助けられただけで十分。そんな事よりも……」


 目の前に座る彼女は、以前として俺を真っ直ぐに見つめたまま、事前に決められていたような文をつらつらと並べる。

 俺はその言葉を遮るように口を開き、『つまらない世辞の句はいらない』と、暗にそれを意味するような威圧と共に彼女の瞳を見つめ返した。


 内情をよく知らない下の者達の間では、俺はヒーローのような扱いかもしれない。

 しかし、当時上層部内でほとんど諦めていたような案件を片付けてしまった俺は、規格外の烙印を押されている。まあ、アヤ姉さんによる情報だが。


 そんな、ある意味トランプにおけるジョーカーとも言えるような存在である俺を、元帥が直々に呼び出したのだ。

 ならばこそ、そんな事務的な事を伝えるためだけとは到底思えない。


 彼女は少しの間考えるように目を瞑り、そして静かにその双眸を開くと、こう言った。


「…………近々、魔女共から領土を取り返すための奪還戦が行われる。その際に、貴殿らの力を借りたい」


 現在、この国に於ける生存可能領域は過去に関東地方と呼ばれた範囲である。

 しかし、その中でもある一部分はおよそ十年前に魔女の集団に襲われた。中の魔女が侵入出来ないように、人間が決して立ち入れないように完全に封鎖された。

 そんな、人類が住めるとは言えない土地が存在する。

 そこは魔女が現れるまで、この国の政治と経済の中心であったと言われる場所。旧東京都。

 失われたのは、その西半分である。

 そしてそれこそが、今回の奪還戦で取り返す土地だ。


 魔女に襲撃された、十年前のあの事件。

 それは今でも鮮明に思い出せる。



 ────あの日、俺達は家族を奪われた。


 本物かどうかは別として、あの人達は確かに俺の父さんと母さんだった。

 そして毎日のように研究室に籠っていた父さんはおそらく、魔女について何らかの情報を知っている。

 それと俺達だけが持つ、魔法とは違う別の能力について。

 あの場所には、俺達の知らない何かがあるはずだ。

 俺達は、それを知る必要がある。


 ──だから。


 ──あの場所は、奪い返さなければいけない。



 俺は落としていた視線を上げ、目の前に座る元帥の名を冠する女性の目を真っ直ぐに捉える。そして、了承することを示すように頷いて見せた。


「貴殿らは、ヴァイオレット少佐が率いる大隊に追従してもらう形になっている。詳しいことはそこの彼女から聞いてくれ。……貴殿らの協力が得られる事、光栄に思う。武運を祈る」


 彼女はそう言うとその場で立ち上がり、右手を上げて敬礼をして見せた。


 俺はそれに応えるように敬礼をし、アヤ姉さんと共に部屋をあとにした。




────────

──────

────





「うげぇ……、マジであれとやるんすか……」


 上空に滞在する俺達の眼下に広がるのは、街としての機能を失った都市。倒壊した元高層ビルや、既に廃墟と化したコンクリートの建物が建ち並ぶ。

 そこに犇めく無数の魔女。通常のモノばかりではなく、強化型も多数存在しているのが見てとれる。


 少女におぶられた状態で、リリカがそう声を漏らした。

 そんないつも通りの彼女の様子に、リリカと少女を除いた俺達三人は顔を見合わせた後に、少しの笑みを浮かべた。


「安心しろ、お前は俺達が守る。よし、行くぞ」


 俺はそう言うと、先陣を切るように下へ向かって急加速を行う。目指すのは開けた土地だ。


 地面まで後一千メートルを切った辺りで、地面に点在する魔女による無数とも言えるような密度の魔法による射撃がこちらへと飛んでくる。

 そんなものは気にしないと言わんばかりに俺は全ての魔法を危なげなく回避しながら更に加速し、それらを放っているであろう魔術師型の魔女に対して突撃を行った。


 複数の魔女を蹴散らしながら地面へと降り立つ俺の後へ続くように、レイカ達や、アヤ姉さんが率いる大隊の面々も降り立った。

 俺達の周囲を取り囲むのは無数の魔女。その中には十や二十ではきかないような数の強化型。そして一体の特異型が紛れ込んでいるみたいだ。


 俺達がもし協力を引き受けなければこの女性達は──。


 俺は振り返り、およそ千名で構成される大隊に所属する彼女らを見て、あり得たかもしれない未来に身震いを覚えた。


 そんな想像を消し去るように首を左右に振り、俺は拳を強く握りしめる。


「諸君よ! 世界を救った力は我々と共にある! 何も恐れる事はない! ────総員、撃て!!」




 アヤ姉さんの号令と同時に、俺は先導するかのように魔女の群れへと走り出す。


 ──絶対に誰も死なせない。


 そんな決意を、胸に抱いて。

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