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第二話 『休息のひととき』

 眼前に広がるのは白い砂浜。そして雲の一つにも遮られることなく降り注ぐ太陽の光を反射して、眩しいくらいに輝く青い海。

 海辺では水着姿の少女達が水のかけあいなどをして遊んでいる。


 その光景を少し離れた所で見ている俺の真横には、砂の地面に突き刺さったパラソル。それはその身を広げて、円形の日陰をつくり上げている。


 ジリジリとした暑さに耐えかねた俺は、持ってきていた器にかき氷を魔法で作りシロップをかけると、金属の冷たいスプーンでそれを掬って口へ運ぶ。


 ──冷たい。


 そう感じた次の瞬間には、口の中にある氷だったものは溶けてしまい、味がついたただのぬるい水と化す。


 やはり、暑い中で冷たいものを食べるというのは良い。


「……あ、あのぅ……雄護さん。一口頂いても良いですか?」


 そう、右方向から声をかけられたため、そちらへと顔を向ける。


 もじもじとした印象の女性が、己の豊満な胸の前で両手の指を突き合わせてこちらの方を伏し目がちに見つめている。暑さのせいか、少し赤みがかった頬には一筋の汗が見受けられた。

 この人はアヤ姉さんが率いる部隊の人だ。確か、前にも話しかけられたことがあるはずだ。


「シロップはいくつかありますので、好きなものをどうぞ」


 俺は持ってきていた新しい器を取り出すと、手に持つ完成品と同じようにかき氷を乗せ、冷たいスプーンを添えて差し出した。


 一応、器とスプーンは推定される人数を持ってきている。

 なので、一口などと遠慮せずとも、言われれば新しく作る。その程度は大した手間でもない。


「うぅ……あ、ありがとうございますぅ……」


 彼女はそう言い、軽くお辞儀をすると俺が差し出したものを受け取った。


 ──何か間違えたか?


 嬉しくないわけではなさそうだ。しかし、受け取った時の彼女の表情には少しの違和感があった。

 そう。言うなれば、悪いわけではないが自分の期待していたものと少し違う。と、言ったような表情だろうか。


 一体何が至らなかったのだろうか。そう思い、首を傾げて考えるも答えは出ない。


「……ふう。全く君は、とんだ朴念仁だね」


 隣で座り、俺と同じくパラソルが生み出す影の恩恵を受けているアヤ姉さんが、やれやれ、と言わんばかりに首を左右に振ってそう言った。


 一応、俺なりに気を使ったつもりではあったんだが……。


 ふと空を見上げると複数の鳥が、その翼を大きく広げて自由に飛び回っている。



 ──そもそも、どうしてこんなことになったのだったか……。





 事の始まりは遡ること一週間ほど前。短くて長い、僅かな昼休みを満喫していた時だった。




「遅れてすまない」


 俺達四人は昼になると、昼食をとるために食堂で集まるようにしている。教室で食べても問題ないのだが、リリカは一つ下の学年、そしてレイカは俺達の教室と少し離れているため、食堂で集合するのだ。


 今日も生徒会の業務により少し遅れてきたレイカが、長机を挟んだ俺の正面に座り、机の上で布の包みを広げて中身を取り出す。


「……ところで、何をしているんだ?」


 俺達三人に対して中央辺りに置かれた紙でできた札の山、それぞれが五枚ずつ同じ絵柄の札を持っている。そんな状態に興味を持ったのか、レイカはそんな言葉を口に出し、手に持つ小さなおにぎりを一口かじった。


「ポーカーよ、特に何を賭けるってわけでもないけどね」


 レイカの質問に対してアリサはそう答え、自分の手に持ったカードを机に伏せた。そして、机に置いてある山札の上から五枚を伏せたまま引いた。


「レイカもやる?」


 アリサに対して右斜め前にいるレイカにそれを差し出して、少しの微笑みを浮かべながら誘いの言葉を述べた。


 その言葉を受けたレイカは口の中にあるものを静かに飲み込み、手元にある水筒の水を喉に流し込む。


「……ああ、参加させてもらおう」


 アリサに対して同じように少しの笑みを浮かべて頷き、参加する旨を口に出し、五枚のカードを受け取る。


「どうせなら何かを賭けないか? こうして四人揃ったことだしな」


 今しがた手札を配られたばかりのレイカが己の手札を確認したであろうタイミングで、俺は提案の言葉を述べる。


 俺の提案に対して他の三人は少し顔を見合せた後、俺へ視線を戻すと、頷いて了承の意を示した。


「……よし。なら、何を賭けようか?」


 賭けをすること自体の全員の了承は得た。なので次の段階へ進もうと、次の問いかけを出してみた。しかし、三人はそわそわと落ち着かない様子を見せるが、何も言わない。


 誰も何も言わないまま、少しの時間がたった。三十秒ほどだろうか。


 昼休みは短い。この段階で止まってしまいゲームが出来なかった、なんてことになれば本末転倒だ。なので、当然こうなることも推測して当たり障りのない賭けの対象は用意してある。


「……特に無いなら────」


「ビリになった人は一位の命令を何でも一つ聞く、っていうのはどうかしら? も、もちろん、行き過ぎた命令は無しよ?」


 ビリが食堂に売っているアイスを全員分奢る。という、ありきたりだが、不満は出ないであろう意見を述べようとした所で、アリサの言葉に遮られた。


 アリサが述べた意見。まあそれもありきたりではあるが、ビリになった人間は堪ったものではないと思い、俺は考えから省いていた。

 しかし、流石と言うべきだろうか。アリサは抜かりなくセーブをかけた。

 これなら特に問題はないだろう。後は残りの二人次第だな。


「ああ、それでいいんじゃないか?」


「自分もそれで良いっすよ。問題ないっす」


 二人の意見を聞こうと口を開く間もなく、同意の言葉が飛び出てきた。


 何故だろうか。三人共に声のトーン、表情等、特に変わらずいつも通り。しかし、何か違和感を感じる。

 そう。まるでここまでは打ち合わせ通り、とでも言うかのような。


 ──もしかすると、俺はとんでもないモノを踏んだのではないだろうか。


「何してるんすか? 先輩の番っすよ?」


「……あ、ああ」


 どうやら考えている間に、俺の手番が回ってきたようだ。


 俺の手札は二のワンペア、役柄で言えば最弱の一つ上。このままではビリになる可能性もある。

 しかし絵柄で見るとクローバーが四枚、上手くいけばビリを脱却することは可能だ。その逆失敗してしまえば、手札は何も揃わずハイカードも無いため、ビリ確定と言った所だろう。


 次に、状況の確認だ。

 場には八枚のカードが捨てられている。クローバーは一つも捨てられていないが、ダイヤの二とスペードの二はもう山札には無いみたいだ。

 この事から、俺がクローバーのフラッシュを作れる可能性はかなり高いだろう。


 そして順番。仮に全ての手札を交換した者が居ると推定しても、最低でも俺の手番は三番目以降。この人数で全ての交換は、ほぼありえない。

 つまり、俺の交換が最後。そしてその次は勝負、という流れが可能性として一番高い。



 俺は少し考えた後に、ハートの二を手札から捨てた。

 ふっ。と鼻で笑ったような声が微かに聞こえた、ような気がした。


 ──いや、現状でのこの選択は正しいはずだ。


 そう自分に言い聞かせ、机の中央に置いてある山札に右手を乗せ、一番上の一枚を指でゆっくりと──





 引こうとした所で、右の太腿辺りに細かな振動が感じられたため、その行動は中断された。


「……すまん。少しだけ待ってくれ」


 そう、断りの言葉を口に出し、ズボンの右ポケットに入ったPSDを取り出す。


 一件のメッセージが届いたみたいだ。


 薄い液晶パネルのそれを指先で操作し、届いたらしきメッセージの内容を確認する。


「……なあ。これを見てくれ」


 そう言い、三人にも見えるように差し出したPSDの画面には、こう表示されていた。


 ──危機が迫っている。すまないが、これを見たらすぐに来てくれ。校舎の外にて待つ。──赤羽 綾。



────────

──────

────



 それでその時には集合場所と時間、そして持ってくる必要がある物。それらが箇条書きで書かれたメモ用紙を一枚渡されて昼休みが終わった。


「必要な物に水着がある時点でおかしいとは思ったんだよな……」


 波打ち際で空気の入ったビニールのボールを打つ、所謂ビーチバレーをしているアリサ達を眺めながらそう、口をついて出る。


「何がおかしいんだい? ……ん、冷たいね、これは」


 そんな独り言を耳に拾ったのか、隣に座っているアヤ姉さんはそう言い、俺の顔を覗き込む。そして俺が手に持つ器からかき氷を一口、スプーンで口に運んだ。


 ──危機が迫っていると言うのにこんな事をしていても良いのだろうか?


 そんな言葉が口から出そうになった。が、彼女が再び言葉を紡ごうと口を開いたため、口に運んだかき氷と共に喉の奥へと飲み込んだ。


「……まあ、大方こんな事をしていて大丈夫なのか。とかそんな事を考えているんだろう? ボク達の役目は二つ──」


 彼女は人差し指と中指、二本の指を立てた手を俺の顔の前へ突きつける。


 民間人をここから遠く避難させる。

 そして、ここに訪れるであろうモノを沈黙させる。


 その二つはここに集合した時、聞かされた。今更それを聞かされてもどうにもならない。


「……何が言いたいかわからない。とでも言いたいような顔をしているね。確かにボク達が失敗すれば世界は破滅への道を辿るしかないだろう、軍の言う通りならね」


 ──だからこそ休める時に休む。


 彼女は俺の目を真っ直ぐに見据えて、そう言い放った。


 確かにアヤ姉さんの言う通りなのかもしれない。無駄に精神を張りつめて、大事な時に何も出来なくなってしまえばそれこそおしまいだ。

 それも今回は、軍が抱える未来予知能力者の言った通りのモノが来るならば、少なくとも特異型レベルを相手取らなければいけない。


 ふと、彼女の方へ視線を向ける。その横顔は何処か遠くを見つめるような、険しい表情をしている。


「……それに、こんな機会は滅多に無いしね」


 ──いや、それが本音だろ。


 そんな、彼女が呟くように洩らした発言を拾ってしまった俺は思わずそう言いたくなった。しかし、すんでの所で踏みとどまり口を閉ざす。そして。


 ──あえて何も言うまい。


 一人納得するように頷き、再び海を眺める。


「先パーイ、何してんすかー! こっち来て遊びましょうよー!」


 太陽の光を反射して眩しいまでに輝く海を背に、猫のような耳が頭についた少女が大きく手を振り、俺を呼んでいる。そんな光景を尻目にまた一口、かき氷を口へと運んだ。

 瞬間、パラソルが作り出した日陰の元でその恩恵を受けていたはずの俺は、手に持つかき氷が入った器と共に日の下へと晒され、目の前には小さな波が押し寄せてくる。


 突然の事に少しの間呆気にとられていた俺は、体に叩き付けられるように訪れた波により現実世界に引き寄せられる。


「……せめて何か言ってからやってくれ、アリサ」


 波と共に流れてきた砂を軽く払いながら立ち上がり、内心諦めつつもそう言った。


「ふふ、油断してるアンタが悪いのよ」


 アリサは口元を手のひらで隠すように、くすくすと小さく笑いながらそう言った。


 軽くため息を吐き視線を動かすと、レイカと目が合った。

 レイカは少しの間を置き、諦めろとでも言うかのように首を左右に軽く振った。その顔には少しの笑みが見てとれる。


 左手に持った、波に中身をさらわれ、ただの器と化したそれを魔法でパラソルの下へと飛ばす。


「……で、何をするんだ?」



────────

──────

────



「日が昇ってきたな……」


 俺の隣に居るレイカが、線を引いた向こう側のアリサ・リリカペアにビーチボールを打ち返し、額に浮かぶ汗を右の手の甲で拭いそう呟くように言った。

 空に浮かぶ太陽は丁度真上の辺りに来ており、昼時であることがうかがえる。心なしか先ほどよりも一層、その熱を増した気がする。


 あの後、俺達はビーチバレーをしていた。

 地面に線を引き、中央に魔法で生み出したネットを設置。と、簡易ではあるがコートを作り、本格的なものをやろうとした。ペアに別れて試合形式で行っていた所、アヤ姉さんの隊の人達も参加することになったため、そこからトーナメント形式に切り替えて現在は決勝戦だ。


「雄護くーん! 頑張ってー! 勝ったらお姉さんがご褒美あげちゃうぞー!」


「たはは、やっぱり若者には勝てんわ……」


 決勝戦を行っている俺達を囲むように隊の人達は座り、或いは立って、歓声をあげている。


「いや、貴女方も充分若者でしょうが……。っと」


 そう言った所で、向こうからボールが跳んできたため、咄嗟に体勢を切り替えて対応する。


 隊の人達はアヤ姉さんも含めて全員二十代前半らしい。つまり、俺達から十も二十も離れているわけではない。


「なあ、レイカ。これが終わったら昼食にでもしようか」


「そこよ! 隙ありぃー!」


 俺がレイカへそう提案し、彼女がそれへ対する返答をしようとした所に、アリサが渾身の勢いでボールを叩きつけてきた。


「っと。レイカ! 決めてやれ!」


 俺は飛んできたボールを打ち上げ、そう叫んだ。彼女は呼応するようにその長い黒髪を翻して跳び上がり、体を前方向へ回転させて、その勢いのままボールを相手コートに向けて叩きつけた。



 空気を切り裂くような音と共に相手コートの地面に叩き付けられたボールは、その場にボールの直径の倍ほどもあるクレーターを残し、反動で跳ねたボールは少し離れた岩場の方へ飛んで行った。


「……ちょ! あんなの当たったらどうするんすか! 軽く致命傷になりますよ!」


 レイカが起こしたとんでもないボールの威力に、本人と俺以外の場に居る全員が唖然とした表情で固まる中、いち早く正気を取り戻したリリカがそう叫んだ。


「む……すまない。ユーゴにああ言われてつい、張り切ってしまった」


 そう言うレイカは、少し照れくさそうに右手の人差し指で頬をポリポリとかいている。


「……まあ、わからなくも無いけどね。……さ、そんなことよりお昼ご飯にでもしましょ!」


 そんなレイカの様子にアリサは軽いため息を吐き、小さく呟いた後そう言い、手を一回叩く。すると、魔法により作られたネットが消えた。

 アリサが手を叩いた時の音で正気に戻ったのか、周りに居た隊の人達も自分が持ってきた荷物の方へ歩いて行く。



 ──飛んで行ったボールでも取りに行こうか。


「たしか……こっちの方に飛んで行った、よな」


 サラサラとした白い砂浜の上を、ボールが向かった先の岩場へと歩く。


 ゴツゴツとした多くの岩が転がっている岩場に入り、隙間等を見て回る。が、ボールは見当たらない。

 ビーチバレーに使用していたボールはビニール製で、決して強い材質ではない。所々に他のモノより少し鋭い岩も見受けられることから、割れた可能性も考えられるだろう。


「……もう少し探してみるか」


 ──あと十分だけ探して、それでも無かったら戻ろう。


 ここで延々と探すわけにもいかないため、そう心の中で時間に制限を設けて探す作業を始める。





 かなり奥まで探したが、やはり割れてしまったのではないだろうか。

 アヤ姉さんと俺が座っていた、日陰を作り出しているパラソルは遠く、その付近では皆が煙を立ち上らせている何かを囲んでいる。バーベキューでもしているのだろうか。


 そう考えた瞬間、先ほどまではそれほど感じなかった空腹が、その存在を主張し始めた。

 少し回りくどい言い方をしたが単純な話、腹が減ったということだ。


 ──もう戻ろう。


 そう思い引き返そうとした所、誰かの呻き声が微かに聞こえた。


「…………ぅ」


 呻き声の聞こえる方へ向かうと、岩に乗り上げるように白髪の少女が倒れていた。


 頭から生えている二本の機械的な黒い角ようなもの、首元の白い透き通るような肌にタトゥーのように描かれた謎の文字列。そして部分部分に機械的な所が見られる特徴的な服。

 この特徴を目にした俺は、昔に見たある本を思い出した。


 五十年前、魔女が現れる前までは近い内に完成するであろうと構想が練られていたモノ。魔女の発生と共に大半の研究者達がそれへ対応させられ、研究者含めて全ての人間が減ってしまったために歴史の影に埋もれたモノ。


 ──そう、人型アンドロイドだ。


 昔に父さんの研究室で見つけた資料の中にあったのを少し見ただけだが、この少女はその本に描かれていたモノに似ている気がする。


 ……今になって思えば、父さんは本当の父では無かったのかもしれない。


 そんなことよりもだ、この少女が一体何者かはわからないがここから避難させなければ。いや、間に合わないだろうか。


「ん……。…………?」


 そんなことを考えていると、アンドロイドのような特徴を持つ少女が目を覚ましたようで、体を起こして辺りを見回している。


「目を覚ましたか。いきなりだがここは避難区域なんだ、動けるか?」


 俺は辺りをキョロキョロと見回している少女に声をかけ、手を差し出す。


 最早この少女が何者であるかは関係ない。もうすぐここは戦場になる、その前に離れさせるもしくは保護しなければ。


「避難、区域……? 僕は……一体……」


 俺の言葉を受けた少女は、悩むように頭を抱える。


 この少女がここに来るまで何をしていたのかは俺には知ることが出来ないが、何らかの衝撃による部分的な記憶喪失だろうか。

 この場合の対処方として、まずは覚えていなければいけないような基本的な情報から聞いていこう。


 ──まずは名前を聞こうか。


「……何……? 名、前……? う、ん……と……。……?」


 名前を覚えていないようだ。それと合わせて言葉が途切れ途切れで、まだまともに話せないように見受けられる事から、脳へのダメージはかなり深刻なもののようだ。


 さて、どうしたものか……。


 空腹感の中、ジリジリと照らす太陽の暑さにより額に浮かんだ汗を軽く手で拭い、魔法で己の周りに少しの風を起こす。


 とりあえず、この少女は俺達の元で保護しよう。と、頭の中で結論が出た所で、小さく腹が鳴る音がした。


「ん…………お腹、すいた」







「……で、連れてきたってわけ?」


 魔法で作り出した椅子に座る俺の、膝の上に座って串に刺さった肉や野菜を食べる少女を指して、アリサは呆れたような視線を俺に向ける。


「いや、まあ、放置ってわけにもいか……熱っ!」


 アリサに対して弁解をしようとした所、太腿の辺りに一瞬の熱を感じたためにそれは中断された。


 いや、溢すなよ……。と、言うよりも何で俺に座ってるんだ?


 膝の上の少女に視線を向けると、少女はそれに合わせるように俺を見上げて首を傾げる。

 少しの間見つめあった後、軽くため息を吐いてアリサへと視線を戻す。すると、口元を手で隠すように笑っているアリサの姿が見えた。


「ふ、ふふ……ちょっとしたお茶目よ。許して頂戴」


「……ところで、その少女は何処から来たんだ?」


 アリサがそう言った後も少し笑い続けているため、まともに話が進まないと判断したのか、俺の左隣に居たレイカがそう聞いてきた。

 俺はその問いに対して何かを発言することはなく、首を横にふる動作を返答とした。


 俺の返答を読み取った彼女は、顎に手を当てて何かを考えるような素振りを見せる。


「むむむ、この角、いやシルエットは……。自分のキャラが脅かされているっす!」


 背後からひょっこりと俺の肩の上辺りに顔を出したリリカは少女の角のようなものを触り、眉間にしわを寄せていったと思ったら、突然そう叫んだ。



 ──この猫耳は一体何を言っているんだ?



 おそらく、未だ俺の膝の上で一心不乱に肉を貪っている少女を除いた、この場の全員はそう思ったことだろう。

 レイカは無表情のために少し分かりづらいが、アリサに至っては徐に表情に出てしまっている。


「え、ちょ。そ、そんな可哀想なものを見つめるような目で見ないで下さいっす! これはマジなんです! 自分にとっては死活問題なんすよ!!」


 俺、アリサ、レイカの三人はリリカが必死にそう主張する中、お互いの顔を見合わせて静かに頷く。


 ──とりあえずこの猫は放っておこう。


 無言ではあるが、俺達三人の意見はそう合致した。


「……で、この少女の所存についてだが」


「やっぱり本人がこの調子である以上は、問題が解決するまで私達の所で保護するべきだと思うのよね」


 と、まるでリリカが輪に入ってくる前に戻ったかのように、少女についての会話が始まる。


「え、いや……無視しないでくださいよー!」






 ──その後リリカも含めた会議の上で、とりあえずは俺達で少女を保護するという方針に決まり、俺達はこのひとときの休息を満喫した。

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