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サイバークオリア ――人工知能はアイを得るか――  作者: 黒河純
第二章 ナノマシンの境界線
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ナノマシン

第二章スタートです。メインテーマはナノマシンとなっています。

 俺が便利屋アガットで働き始めて約一ヶ月。最初のうちは簡単な雑用をさせられたり、()(ざき)市の案内をしてもらったりと、そこそこ有意義な時間を過ごしていた。

 アガット・ラングレーと()(こう)()()()以外にも顔見知りが少しずつ増え、何とか生活の基盤は整えられたと言ってもいいだろう。

 特に大きな問題もなく、平和な毎日が続いている。


 ――唯一の問題は、俺の記憶が未だに戻らないことだけだ。




「違法ナノマシン……」

 ちょうど朝食を食べ終えた頃、やって来た男性客(名前はユルドというらしい)の話を聞いて、アガットは平坦に呟いた。

「なんか、でかい仕事になりそうだな」

 となりで話を聞いていた俺は、これから起こるであろう苦難を想像して、こっそりとため息をこぼした。




 男性客の話を要約するとこうだ。

 数日前、正体不明の集団が小学生の息子になんらかの薬品を投与した。他に目立った外傷はなし。拉致(らち)されたということもないそうだ。

 息子を医者に連れて行った結果、投与されたのは新種かつ違法のナノマシンらしく、どんな効果が現れるのかすら謎である。

 投与されたナノマシンの製造組織を突き止め、どのような効果をもたらすナノマシンなのか……そして可能であれば治療方法も同時に探ってほしい。

 ――とのことだった。




「お願いしますアガットさん! このままでは、息子がどうなってしまうかすらわからないんです。できるかぎり謝礼はいたしますのでどうか!」

 (くだん)の息子さんは病院で検査入院をしているとのことで、ここには父親のユルドさんのみがやって来た。事件の心労ゆえか、頬は痩せこけ、無精ひげが目立ち始めている。


「ま、依頼とあっちゃあ、やるしかないが……何とも変わった事件だな。あんたの息子に怪我はなく、誘拐されて身代金を要求されたわけでもないんだろ?」

「ええ……だからこそ不気味なんです。犯人はいったい何がしたかったのか……」

「ナノマシンを注入して解放したところを見ると……子供用のドラッグでも試したのか……?」

「え、縁起でもないことを言わないでください。うちの息子はモルモットじゃないんですから」

 

 ここ祈崎市だけの話ではないが、年々違法ドラッグの種類は増えている。昔は主流だった粉やら葉っぱは数を減らし、今ではドーパミンなどの脳内麻薬を異常分泌させる、電子ドラッグがメインとなっている。プログラムだけのドラッグもあるが、ナノマシンを脳内に直接打ち込むドラッグが人気らしい。

「ま、とにかく早急に探ってみるさ。あんたの電脳アドレスと息子のプロフィールを、あたしと後ろに居る二人に送ってくれ。何かわかったら連絡する」

「はい。お願いします」

 彼が頭を下げると同時に、電脳アドレスと息子さんのプロフィールが無線で送られてきた。念のためソフィアにスキャンしてもらい、ウイルスなどが(まぎ)れていないことを確認してから登録をした。


 ◆ ◆ ◆


 ナノマシン――十億分の一メートルサイズの極小機械。人体に打ち込んで怪我や病気を治療する医療用や、人間の細胞を破壊する殺傷用など、様々なタイプが存在する。

 危険なテクノロジーであるため多数の規制がかけられており、個人で製造・販売することは禁止されている。

 正規で出回っている物は七割が医療用。非正規で出回っている物は三割が殺傷用、六割が脳内麻薬を異常分泌させるドラッグ用である。


 ◆ ◆ ◆

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