表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/47

二日目スタート

『おはようマスター。祈崎市の今日の天気は一日中快晴、洗濯指数は90みたいよ。よかったわね』

「……まったくだ。嬉しすぎて泣けてくる」


 慣れてしまったAIの声によって目覚めると、目に入るのはボロボロの屋根と壁。記憶も相変わらず戻らぬままだ。部屋の壁に防音加工は施されていないようで、外からの喧噪がほぼダイレクトに届く。

「はぁ……」

 ベッドの感触を背中で確かめながら、上体を起こす。目覚まし代わりだと言わんばかりに、スプリングが朝から嫌な音を立てる。


『記憶が戻ったりした?』

「それがまったく。難儀なもんだな」


 軽く体を動かし、眠気を消し去る。薬品くさい水道水で喉を潤し、唯一の所持品であるDケーブルをポケットの中へ突っ込む。これで出発の準備は完了だ。

 宿の主人に一言礼を言ってから、俺は外へと足を踏み出した。ソフィアの言う通り、天気はいい。容赦なく紫外線が肌を刺激する。


『これからどうするのマスター?』

「どうしようかね……日当もらえる仕事でも探してみるか?」

『プロフィールが穴だらけで、記憶喪失の男を雇ってくれるところがあるかしら』

「……現実ってのはつらいな」

『いつだってね』


 本日も人でごった返す祈崎市を、たった一人で練り歩く。大人も子供も、男も女も、自分が生きるために精一杯活気をみなぎらせていた。

「しかし、本当に色々な物があるな……」

 食品・日用雑貨・機械(マシン)部品(パーツ)・銃器・ナノマシン・新型の義手――路地裏を除けば、ホルマリン漬けにされた内臓まで売られている。(びん)には持ち主の顔写真が貼られていた。


『この祈崎市、昔は物流の中心地だったらしいわね。今はそれほどでもないけれど、色々な物がそろうのはその頃の名残じゃないかしら。合法、非合法を問わずね』

「警察や政府が何か口出しをしたりはしないのか?」

『一応この祈崎市にも正規の警察機関は存在するらしいけど……形骸化しているみたいね』

 ソフィアはそう言いながら、宿のパソコンの中にあったレポートを引っ張り出す。


「どれどれ……」

 薄汚れたアパートの壁に背中を預け、目の前に現れたホログラムウィンドウを眺める。様々な項目の中から『警察について』を選択して展開。ざっと眺めてみる。

「ふぅん……後ろ暗い大企業のいくつかが、警察の上層部に資金を流しているのか……」

 金を握らせてやるから、ちょっとした違法売買を見逃してくれってことだろう。警察としても、知らんぷりするだけで金が入り込んでくるのだから、いい儲け話なんだな。

「素晴らしく腐ってやがるな」

『こんなご時世だもの。みんな生きるのに必死なんでしょう』

 この情報が本当かどうかの確証はないが、あまり警察はアテにしない方がよさそうだ。


 レポートを閉じ、再び歩き出そうとしたそのとき、


「――っ!」


 (かす)かだが、遠くから悲鳴のようなものが聞こえた。確証はないが、動物なんかの鳴き声ではないだろう。

「……ソフィア、今の」

『声紋的に若い女性ね。方角は南西。距離はおよそ100メートル。……どうするのマスター』

「どうするって……警察は頼りにならない街なんだろ? だったら――」

 GPSを素早く起動させ、方角を確認する。


「――助けに行こうじゃないか。お礼で金もらえるかもしれないしな」


 最低の下心満載で、俺は薄汚れた小道を走り出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ