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08:デミアント達のお家騒動(2)

 空はどこまでも晴れ渡っています。


 私は今、北の大地を目指して飛んでいる最中です。

 兵隊アリを連れて行こうにも、コロニー内で羽根を持っているのは私だけ。

 久し振りの一人旅です。こんな事は、高原のでアントライオンから逃げのびた時以来でしょうか。


 息子夫婦はコロニーに留まらせてあります。

 あんなに大きな体で、羽根をもたないお嫁さんを長旅に連れて行くわけにもいきませんものね。


 あちらの女王とは、私一匹(ひとり)が話をすれば済むことですし、しばらくは二匹(ふたり)でゆっくりとしていただきましょう。


◆◇◆◇


 途中、私に向かって飛んでくる者がいました。

 魔物では無い、ただの巨大な鳥のようです。

 どうやら、私を捕食しようとしている様子。

 分類的には昆虫に属しているとはいえ、魔物として生まれその種族の女王を務める私を、あまり舐めないでいただきたいものです。


『【デオソイルストーム】』


 砂嵐の魔法です。

 巨大な鳥の体を包むように発生させ、動きを封じます。


「キェエエエ!」


 む、その鳴き声は、まだ諦めていないようですね。

 でも、この隙に私は逃げさせてもらいます。むやみな殺生はしたくありませんから。


『動かない方がいいですよ。砂嵐ですから、目に入ったりすると結構痛いのです』


 魔法は私が安全圏まで離れれば自動的に解除されます。

 それまで、そこで大人しくしていてください。


 間もなく、鳥の悲痛な鳴き声が聞こえました。

 ああ、無理に突破しようとしたのですね……目に入ると痛いと言ったのに……。

 命には別条無さそうですし、先を急ぎましょう。


 私は再び北を目指して飛び立ちました。


◇◆◇◆


 何日が経過したでしょうか。

 やがて、前方に北の大地が見えてきました。


 私達デミアントは、数日は食事をとらなくても死にませんが、そろそろ空腹に耐えかねてきた頃です。

 北の大地は花嫁さんのおっしゃる通り、緑あふれる大地へと変貌していました。

 これなら、何か私の食べられるものがあるかもしれません。

 あちらの女王に会う前に、少し空腹を満たして行くことにしましょう。


 大地に降り立つと、緑の平原が広がっています。

 木の実でも何でもいいので、何かないでしょうか?

 私は、木々の生い茂る森の中へ入って行きました。


 しばらく進むと、高木の上に果物がなっているのを見つけました。

 これなら食べられそうですね。ちょっと登って取ってきましょう。

 かぎ爪を使って気を登ります。

 羽根を使ってもよかったのですが、周りの木々が邪魔で広げる事ができません。

 とはいえ、デミアントである私にとっては、木を登るなどたやすい事です。


 目的の実に辿り着きました。齧り付くと、少し酸っぱいですけど甘味があってとても美味しいです。

 人間にも食べられそうですので、リズ達にもお土産として持って帰ってさしあげましょうか。


 さて、お腹も膨れましたし下へ降りましょう。

 そう思って下を見た私の目に、魔物の姿が飛び込んできました。

 あれは……アントイーター。


 アントライオンと並んで、私達デミアントにとって天敵と呼べる存在の魔物です。

 どうやら、私が木に登るのを見て下で待ち構えていたようですね。

 うーん……これは困りました。


「ギュアア!」


 アントイーターは長い舌をこちらへ伸ばしてきます。

 これでは、迂闊に降りる事ができません。

 こちらが木の上に留まっていると、今度はその巨体を使って木に体当たりを始めました。

 私は振り落とされないようにと木にしがみ付きます。

 持久戦に持ち込まれたら、こちらが不利です。

 正面から戦いを挑んで無傷で勝てる相手でもありません。


「グォアア!」


 痺れを切らしたアントイーターは、今度は木に登り始めました。

 あの魔物、相当私をご所望のようで……。


 そんな事をしたところで、アントライオンの巨体をこの木が支えきれるはずもなく、弓なりにしなり始めやがて音を立てて折れてしまいました。

 折れ始めた木に驚いたアントイーターは手を離しました。

 その隙に私は近くの木にジャンプ。

 幸いな事に、跳び移った木はかなりの高木のようです。

 上まで登ると、森の上層まで出る事ができました。

 これなら羽根を広げられます。


 再び私は空へと舞い上がりました。


◆◇◆◇


 ハクデミアントはどこに居るのでしょうか?

 お嫁さんから聞いていた場所の近くに来ているはずなのですが、地上にはコロニーらしきものが見当たりません。

 通り過ぎてしまったのでしょうか?

 それとも、まさかハクデミアント達は周辺の魔物に……。


 ふと下を見ると、花畑が見えました。

 どうやら花が咲き広がっているのは、ここだけのようです。

 不思議に思って見ていると、そこに白い何かが見えました。

 あれは……ハクデミアントです。

 良かった、滅ぼされたりしていなかったみたいです。

 早速声を掛けてみましょう。


『あの、すみません』


 ハクデミアントがこちらに振り向きました。

 不思議そうな顔でこちらを見ています。

 この方は、ただの働きアリのようですね。


『私はデミアントの女王です。あなた方の女王に会いに来ました』


 働きアリのハクデミアントは、触覚で私の体を触ってきました。

 種族が違うとはいえ、やはりする事は似ているのですね。

 何とかわかってもらえたようで、私を案内するように動き始めました。

 とりあえず、付いていくことにしましょう。


◇◆◇◆


 花畑を抜けた先に案内されると、そこには大きな穴が開いていました。

 ハクデミアントはそのままそこへ入って行きます。

 はて? ハクデミアントは地上にコロニーを作ると聞いていたのですが、これはどういう事なのかしら?


 案内されるがままに付いていくと、穴は大きな空洞へと繋がっていたようです。

 この中に、ハクデミアントのコロニーが?

 空洞内部は、あちこち掘り進められてそれぞれハクデミアント達の部屋に繋がっているようです。

 あちこちから働きアリのハクデミアントが出てきました。

 デミアントを見るのは初めてなのでしょうか? 私を見ては皆不思議そうな顔をしています。

 息子はここには訪れていなかったという事……?


 私を案内してくれているハクデミアントは、どんどん奥へ進んでいきます。

 この先に女王が?

 広い場所に出ると、らせん状の階段が広がっていました。

 ここを降りて行くのでしょうか? と思っていると、ハクデミアントはその脇にある穴に入って行きました。

 まるで、ここは私達デミアントのコロニーのようですね。

 穴を下り、更に進んでいくと、大きな扉のある場所に着きました。

 女王はこの奥に?


 扉を開けるのかと思いきや、その横にある穴を通って行くみたいです。

 あの階段や扉は、元々ここにあったものなのでしょうか。

 という事は、ここは何かの遺跡があった場所?


 穴を抜けると、また広い場所に出ました。

 そこには、何かを祀ってあったと思われる祭壇があります。

 祭壇と言えば、精霊などにゆかりがある建造物のはずです。

 ここは、一体……?


『よく来たな、デミアントの女王よ』


 大きな声が反響するように響きました。

 声がする方を見上げると、祭壇の上に巨大なハクデミアントの女王の姿がありました。

お読みいただいて、ありがとうございます。

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