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03:Christmas Story(3)

Christmas Storyはこれで完結です。

 エプリクスは、城下町の手前へ着陸しました。


「あっという間だったわね」

「やっぱり高いところは苦手だぜ……」


 レド様は、震える足で、エプリクスが運んできた馬車を引っ張っていきました。


「クルスは高いところ大丈夫だったの?」

「少しは馴れたかな……」


 フィルは高いところが楽しかったみたいで、ずっと喜んでいました。

 きっと私に似たのでしょう。


『では、そろそろ行くか。タースよ』

『はーい……じゃあ、リズ姉ちゃん』

「あなた達にこうして会えた事が、私にとって一番のクリスマスプレゼントだった」


 涙は流しません。だって、決してこれが、最後のお別れでは無いのだから。


「他の精霊達にもよろしくね!」

『ああ、わかった!』


 タースを乗せて再び飛び立つエプリクス。

 ありがとう、私の大好きな精霊……。


◆◇◆◇


「メアリ様、これを……」


 私は、メアリ様に魔力の詰まった石を手渡しました。


「……本当に良いの? リズちゃんのお父さんかお母さんだって……」

「誰か一人だけと言うのなら、誰がにするかなんて決まっています。それに、私はディア様の喜ぶお顔を見たい……」

「そう……じゃあ、遠慮なく使わせてもらうね」

「何の話をしてるの?」


 メアリ様と話していると、ディア様もこちらにやってきました。


「ディア様、頑張ってきたあなたに、最高のクリスマスプレゼントを差し上げます」


 メアリ様はそう言うと、ディア様の手を引きました。


「え……? え!?」

「さあ、行きましょう!」


 私達も、メアリ様とディア様に付いていきます。


◇◆◇◆


 ここは、アステア国の英霊達が眠る墓地。

 ディア様は、雪帽子をかぶったロデオ様の墓石をそっと撫でました。


「こんな所に連れてきてどうするの?」

「ふふっ……ディア様はそこで見ていてください」


 メアリ様は、ロデオ様の墓石に先程の石をそっと置きました。

 石はまばゆい光を放ちはじめます。


「まさか……メアリさん」


 クルスは気付いたみたいです。

 私達は、墓石の前に立つディア様とメアリ様を見守ります。


 メアリ様の長い詠唱が始まりました。

 それは、高等魔法の詠唱どころの長さではありません。

 その表情には汗すら浮かんでいるように見えます。


 禁術とも言われる蘇生魔法。

 その術式はとても難解で、少しのミスも許されないのでしょう。

 メアリ様は、やはり凄いお方です。おそらく世界でもトップクラスに入る魔道士だと思います。

 神様から授かった石だけでは、この奇跡は起こらなかったでしょう。

 この方が、この瞬間、アステア国に居てくれた事も充分に奇跡なのだと思います。


「────【ミリューガ・ビオス・クロノス・デオリザレクション】」


 長い詠唱が終わり、辺りが眩しい光に包まれました。

 夜だとは思えないほどの明るさです。

 目も眩むほどの光の中、そこに人の影が生成されて行くのが見えました。


 何かが砕ける音が聞こえ、神様の魔力を宿した石がその役目を終えた事を伝えます。

 光が静まり、墓石の周りの雪は解け、そこには懐かしい姿が立ち尽くしていました。


「……おかえりなさい」


 メアリ様は、その方にそっと呟きました。


「嘘…………。 嘘……よね…………?」


 ディア様は、顔を両手で覆っていました。

 その人物の閉じていた目が開き、ディア様を見つめました。


「ディア様……どうやら私は、あなたの傍へ帰って来られたようです……」


 ディア様はロデオ様の胸に飛び込みました。

 泣きじゃくるディア様。そして、ディア様を抱き締めるロデオ様。


「ロデオさん……良かった……本当に良かったよ!」

「メアリ……ありがとう……」

「首がちゃんとあって良かったよ!」

「あ、ああ……そうだな、ちゃんと付いてるよな……?」


 良かった……あの頃のままのロデオ様です。

 私の目からも涙が止まりません……。


「ロデオさん!」

「クルス……! 立派になったな!」

「あんたが死んで何年経ったと思ってるんだよ!」

「すまんな……苦労を掛けた」


 本当に良かった……。

 ディア様、ずっとロデオ様を想い続けていましたもんね。


「リズ、お前も良くやってくれたな……ちゃんと見てたぞ」

「え!? 首無かったのに!?」

「ちゃんと見えてた! あれは仕方無かったんだよ!」


 メアリ様が何をおっしゃっているのかわかりませんが、私もロデオ様にちゃんと言うべきですね。


「おかえりなさい、ロデオ様!」


◆◇◆◇


 ────そして、アステア国に新しい朝が来ました。


「メアリ様、あれだけの魔法を使ってお体は大丈夫なんですか?」

「あの石のおかげだね。あたしはほとんど魔力消費しなかったよ」


 メアリ様は早速秘書の仕事に取り掛かっていました。

 主に、諸国から送られてきているディア様の縁談の整理ですけど。


「たぶん、ロデオさんが王様になるんだね……そうなったらもう、ロデオさんだなんて言えないね」


 そう言いながらも嬉しそうなメアリ様。


「リズちゃん、こっちの仕事はいいから、早くフィル君連れて帰ってあげないと」

「ほんとすみません。こんな忙しい時に育児休暇なんて」

「困った時はお互い様だし、いつかあたしも頼むかもしれないからね」

「ふふっ、そうですね」


 私は知ってます。

 メアリ様は、ディア様にずっと遠慮して結婚しなかったんですよね。

 鼻歌交じりに仕事を進めるメアリ様。

 この方を射止めるのは果たして……いずれにしても、そう遠くないうちに、幸せなメアリ様を見る事ができそうです。


◇◆◇◆


「本当に……私でいいのですか?」

「あなた以外に、この国の王が務まるとは思えないわ」

「いや、でも……私はただの騎士ですし……」

「あなたじゃなきゃ嫌なの!」


 私はロデオに抱き付いた。

 あの時は遠くに感じていたけど、今ではとても近くに感じる事ができる……。

 年齢も、だいぶ近くなっちゃったわね。


「あの、ディア様……」

「どうしたの?」

「何だか……とても逞しくなられたようで……ちょっと硬いなって……」

「あなたの横に立ちたくて頑張ったのに!」

「グハッ!」


 思わずグーでロデオの顔をはたいてしまった……大丈夫かしら?


「つ……強くなりましたね、ディア様……」

「ロデオ……ごめん」


 頬を撫でるふりをしてヒーリングの魔法を掛けた。


「あなたは……私じゃ嫌?」

「そんな、とんでもない!」

「私を愛してくれる?」

「もちろん、愛します!」

「じゃあ、誓って」


 ロデオは、私を抱きしめ返してくれた。

 そして、あの言葉を言ってくれた。



『いつでも──あなたの傍に────』





《後日談 Christmas Story 完》

お読みいただいて、ありがとうございました。

次はいつになるかわかりませんが、また何か書きたくなったら後日談を書かせていただきたいと思います。

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