02:Christmas Story(2)
クリスマス当日になりました。私達は、コルン王国に来ています。
トナカイはこの地域には棲息していないので、デミアント達が変装しています。
茶色いモコモコした着ぐるみを着たデミアント。
とっても可愛らしいんですけど、足が二本多いのは仕方ないですね。
「で、なんでわしがサンタの役なんだ?」
「王以外に適任がおらんかったのですわ」
「白い髭だけなら、わしじゃなくてお前でも良かったろうに……」
サンタクロースも準備できました。
あとは、孤児院の煙突から侵入するだけですね。
「まーまー」
「どうしたの? フィル」
「お腹でも空いたんじゃないのか?」
「さっきあげたばかりよ?」
フィルはギュッと抱き付いてきました。
そして、なんだか険しい顔をしています。
これは……。
「ちょっとオムツ替えてきます!」
◆◇◆◇
「じゃあ、みんな! お歌を歌いましょうね~!」
シェリーの合図で、子供達は一斉に歌い出しました。
クリスマスに歌う歌なのだそうです。
「こんな事して、本当にサンタなんて来るのかよ」
「来るよー! 今年こそ絶対来るってマザーが言ったもん!」
ええ、今年はサンタさん来てくれますよ。
今頃、煙突の上でスタンバイしてくださっているはずです。
━・━・━・━・
「本当に行くの?」
「ええ」
「わしが?」
「もちろんです」
・━・━・━・━
王様には、エゴイ様が風の魔法を掛けてくださっています。
煙突から落下しても安全なはずです。
デミアント達も、トナカイの恰好で飛び込んできます。
子供達の喜ぶ顔が、目に浮かびますね。
「それじゃあ、みんなで料理を運びましょうね! 良い子にしてないと、サンタさん来てくれないよ!」
「「「はーい!」」」
今日は料理も豪華です。年に一度のお祝い事ですもんね。
材料もコックも、ディア様が用意してくださりました。
「私達も手伝うわ」
「そんな、ディア様……恐れ多いです!」
「良い子にしてないと、サンタさん来てくれないんでしょ? ふふっ……」
そう言って、ディア様も料理を運び始めてしまいました。
メアリ様も、クルスも、私も。みんなで料理を運びます。
大きなクリスマスケーキは私が作りました。
ちょっと大きく作り過ぎたかな? と思っていましたけど、育ち盛りの子供達なら、このくらいすぐ食べちゃいそうですね。
「わー、この飾り付け凄い!」
「これ、サンタさん?」
子供達はケーキの装飾に興味津々です。ちゃんと食べられる材料で作っていますので、上手にみんなで分けてくださいね。
料理も配置し終わって、一斉にみんな食べ始めました。
初めて食べる美味しい料理に、子供達は大喜びです。
マザーもシェリーも、みんな笑顔です。
ちゃんと王様たちの分は、別に取ってありますよ。
美味しい料理も食べ終わって、いよいよサンタクロースの登場です。
暖炉を見ていると、そこにデミアント達が突入してきました。
「あ、アリさんだー!」
「アリさん可愛いね!」
子供達はデミアント達に駆け寄りました。
デミアント達も、子供達を触覚でぽんぽんと撫でています。
あれ? 王様は?
「だ、誰か……! 袋が、引っ掛かっておるのだ!」
「……大変だ」
クルスは暖炉を覗きこみました。私も隙間から上を見上げます。
そこにはサンタの恰好をしたコルン王が、片手に袋を持ったまま宙吊りでおわしました。
「王様、そっと下ろしますから袋を放して下さい」
「わしはサンタだ!」
クルスが支えながらコルン王を下ろします。
コルン王が暖炉から出た跡、引っ掛かっていた袋も下ろしました。
「良い子のみんな! メリークリスマス!」
コルン王は今更のように元気いっぱい振舞っています。
「王様だー!」
「違う、わしはサンタだ!」
「王様だよー」
「王様ありがとー」
「王様、大好きー」
「こ、これ……プレゼントをやるから並ばんか」
「王様ー、抱っこしてー」
サンタの王様は大人気です。
即刻正体はばれてしまったようですけど、子供達に囲まれて、コルン王も満更ではないみたいですね。
「なあ、リズ」
「ん?」
「本当に、王様にこんな事させて良かったのか?」
「いいんじゃない? クリスマスだもの」
子供達と楽しそうに過ごすコルン王。
クリスマスって素敵ですね。みんなが笑顔になれるんですもの。
孤児院で開かれたクリスマスパーティーは、大盛況のまま終わりました。
◇◆◇◆
「さあ、僕達も帰ろうか」
「そうね」
フィルもすっかり寝てしまっています。
子供達は寝る時間ですし、私達もアステア国へ帰りましょう。
「では、行きましょうか。ディア様」
「ええ」
「本当に皆様、ありがとうございました」
マザーとシェリーが深々と頭を下げました。
「親が居なくても、健気に生きる子供達か……。 この子らは、国の宝だな」
サンタ……じゃなくて、コルン王は、子供達を優しい目で見ていました。
「マザーよ。支援が必要な時はいつでも訪ねてくれ」
「ありがとうございます。王様……」
◆◇◆◇
孤児院を出た私達はコルン王と別れ、馬車でウィルクの町に向かいます。
空からは雪が舞い、辺りはすっかり雪化粧です。
『リズ────』
え?
『リズよ────』
今度ははっきり聞こえました!
この声は、忘れるはずもありません!
「エプリクス!? あいたっ!」
馬車の中で立ち上がった拍子に頭をぶつけてしまいました。
「エプリクスだって!?」
「うん、エプリクスが私を呼んでるみたいなの!」
「レドさん、ちょっと馬車停めて!」
「おう? わかった」
馬車から下りた私は、声のした空を見上げました。
すると、上空から巨大な赤いドラゴンが、こちらへ向かって来ていました。
「エプリクス!」
『リズよ、捜したぞ!』
『リズ姉ちゃん!』
エプリクスだけじゃない、タースも一緒です。
こんな事って……クリスマスに奇跡が起きるというのは、本当だったのですね!
「エプリクス、タース、会いたかった……」
『我もだぞ、リズ……』
『僕だって!』
逞しいドラゴンの体に顔をうずめます。
とても懐かしい温かさです。エプリクス……。
『リズよ。今日は神の奴が、お前に届けてくれというものを持ってきたのだ』
「え?」
エプリクスは、私に綺麗な色を放つ石を渡してくれました。
「これは?」
『神の奴の魔力が詰まった石だ。あいつなりに考えて用意した、クリスマスプレゼントと言っていたぞ』
「コオロギさんが……?」
魔力の詰まった石は、精霊石のようにも見えます。
でも、何かを呼び出したりするものではなさそうですね。
『使えるのは一回きりだそうだ。一度だけ、どんな魔法の魔力をもそれで補う事ができる』
「それって──」
メアリ様の方を見ました。
私のその視線に、どういう事か気付いてくださったみたいです。
『自分の為に使うか、誰かの為に使うかはお前が自由に選ぶと良い』
「うん……」
『ところで、それは……リズとクルスの子か?』
「ええ、フィルって言うの。抱いてあげて?」
『我が……? 大丈夫かな……』
エプリクスは、恐る恐るフィルを抱きあげました。
そんなエプリクスとは真逆に、フィルは笑顔です。
エプリクスの優しさが、あの子にはわかるのでしょうね。
『リズ姉ちゃん、僕も抱っこしていい?』
「もちろんよ、タース」
エプリクスからフィルを受け取り、タースはそっとフィルを抱きました。
『ちっちゃいね……』
「まだ赤ちゃんだもの。私もタースも、エプリクスだってみんなこうだったのよ」
『我はもっとキュートだったと思うぞ』
「それは無いだろ」
いつの間にか馬車から出てきたクルスがエプリクスに言いました。
エプリクスと、あーだこーだと言い合っています。
二人の精霊に囲まれ、フィルはずっと大喜びです。
フィルの髪の毛の色は赤色。先祖がえりとでも言うのでしょうか。この子は、メディマム族の血を色濃く受け継いでいました。
『さあ、奇跡を起こしに行こうぞ』
『みんな、エプリクスの背中に乗って!』
「おいおい、馬車はどうすんだよ!」
「レドさんが運んで行って!」
『馬車なら我が抱えて持って行くぞ』
しんしんと降る雪の中、火を司るドラゴンはみんなを乗せ、アステア国へ向けて飛び立ちました。
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