01:Christmas Story(1)
全三話になります。
今日は、久しぶりに、子供の頃お世話になった孤児院へやってきました。
シアさんの家で、採れたてのカボチャを使ってパンプキンパイを作ってみたんですけど、みんな喜んでくれるでしょうか?
「それ、俺のだぞ!」
「違うよ! 僕のだよ!」
なんだか騒がしいですけど、やっぱり子供は元気があっていいですね。
「あ、リズさん、おはようございます」
「おはよう、シェリー」
シェリーは、子供の頃、孤児院で一緒に過ごした子です。
アステア国が陥落した時、教会で出会った女の子も、こうして立派に成長しました。
今はマザーを手伝って孤児院でがんばって働いています。
「今日はパンプキンパイを作ってきたの。みんなで食べてね」
「わー、みんな喜びます!」
コルン王国に来るのも久しぶりです。
王様にも、あとで顔を出しておかないといけませんね。
「リズや、おかえり」
「ただいま、マザー」
マザーはそう言って、私の頬に手を触れました。
いつの間にか、私の方が背が高くなって、少し悲しい気持ちになりました。
「ぼうやは元気かい?」
「はい。今日はクルスが見てくれています」
「そうかい。でも早く帰ってあげなさいよ。子供にはお母さんの愛情が必要だからね」
「そうですね。私もマザーにいっぱい愛情を貰いましたもの」
カボチャパイをテーブルに置いて、マザーと話していた時の事です。
「お前、サンタなんて本当にいると思ってるのかよ!」
「いるもん! クリスマスになると、サンタさんがプレゼントをくれるんだもん!」
子供達が何やら言い争いをしていました。
「あの子は西の国で育った子でね。あっちの国ではクリスマスという記念日のようなものがあって、サンタクロースという人物がプレゼントをくれるっていう習慣があったみたいなんだよ」
「サンタクロース……」
「でも、孤児院は決して裕福ではないし、そんなプレゼントなんて用意できなくて……ここへ来てから毎年、この時期になるとこうやって言い争いを始めてしまうんだよ」
「へー……サンタクロースねえ……」
子供達にとっては夢のあるできごとだったんでしょうね。
西と中央では文化も違いますし、こちらでは周知されていないみたいですけど、年に一回、そういう素敵なできごとがあっても良いかもしれませんね。
「ねえ、ちょっと私にもそのお話聞かせてくれるかな?」
「大人は出てくんなよ……」
「お姉ちゃん、聞いてくれるの?」
「うん。サンタさんの事、詳しく聞かせて?」
子供は目を輝かせながら、クリスマスとサンタクロースについて語ってくれました。
◆◇◆◇
「……という事が、西の国ではあったみたいなんです」
「ほう……クリスマスとな。たしかに子供達にとっては夢のあるイベントだな」
「赤いモコモコした上下の服に赤い帽子、立派な白ひげを蓄えたサンタクロースという人物が、民家に煙突から侵入して、子供達にプレゼントを配るそうですよ」
「話だけ聞くと、不審な人物にしか思えぬのだが……」
コルン王のおっしゃる通り、プレゼントを配るという事以外は、あまり良い印象を受けませんね……。
「西の国の文化なら、わしが調べておこう」
「シリウス様」
「あれから、コルンにもたくさんの文献を取り寄せたのでな。おそらくその中にあるだろう」
「ええ、是非。子供達もきっと喜びます」
「あまり孤児達を甘やかしてしまうのも、良くない気がするのだが……」
「なあに、王よ、年にたった一回の事ですぞ」
シリウス様はそう言うと、王室の書庫へと向かって行きました。
「では、王様。私はアステアへ戻りますね」
「うむ。ディア女王にもよろしくな」
「はい」
私はコルン王とシリウス様に一礼し、謁見の間を出ました。
◇◆◇◆
ウィルクの町を経由して、ついでに家裁道具などを購入した後、アステア城へ立ち寄る事にしました。
「リズちゃん、おひさー!」
「お久しぶりです、メアリ様。秘書のお仕事お任せしてしまってすみません」
「別にいいよ。どうせ副長なんて、そんな忙しくないし」
私はちょっと長めの育児休暇を貰っています。
その間の秘書のお仕事は、メアリ様が代わってくださりました。
副長は忙しくないとおっしゃりますが、その分エゴイ様は大変だと思いますよ?
「ディア様はどちらへ?」
「ああ……たぶん、また墓地だね」
「そうですか……」
ディア様にもご挨拶をと思ったのですが、ロデオ様のところへ行かれているのですね。
いつまでも大切な方を想う崇高な気持ちは、とても素晴らしい事だと思います。
でも、それではディア様自身の幸せが……。
「リズちゃん、複雑な顔してるね」
「いえ……ディア様の事を思うと……」
「その事でちょっと話があるんだよね」
「え? なんでしょう?」
メアリ様は執務室の書類を片付け終え、テラスへと出ました。
私もその後を付いていきます。
「これは、ディア様にも言ってないんだけど……禁術でロデオさんを甦らせられるかもしれない」
「……禁術?」
思い出しました。
いつか、メアリ様が、エゴイ様と一緒に禁術の事を話しているのを聞いた事があります。
物騒な話だとあの時は思ったのですが……そう言う事だったのですね。
「まだ成功はしていないんだけど、感覚は掴めてきたんだ。リズちゃんは、禁術ってどんな魔法かわかる?」
「いえ……ただ、なんとなく危険な魔法だとは思います」
「その通り。禁術というのは元来、闇属性の魔法を組み込んだ危険な魔法って事で危険視されてきたんだよ。でもね、闇の魔王が倒されてから事情が変わった。闇属性の魔法にも【デオ】の加護が付加できるようになったんだ」
「【デオ】の?」
【デオ】と言うのは、一説には光の神・フォス神の加護のことだと言われています。
魔法の術式に組み込むことで、魔法の力を向上させたり、制約を軟化したり、様々なご加護が得られるという事で魔道士達の間で重宝されています。
この【デオ】の加護は、これまで闇属性の魔法には組み込む事ができませんでした。
それができるようになったのは、きっとタースが魔王から闇の精霊になったからでしょう。
「それでも、その禁術って、使うだけでも何かの大きな制約があるんじゃないですか?」
「ぶっちゃけて言っちゃうと、人を甦らせる禁術の代償は、術者の命なんだよね」
「だ、駄目です! そんな危険な魔法!」
「落ち着いて、リズちゃん。事情が変わったって言ったでしょ?」
メアリ様の話によると、その魔法に【デオ】を組み込むことで、制約がかなり軟化されるようです。
術者の命を奪うような事は無くなりましたが、その代わりに膨大な魔力を必要とのことです。
「この禁術、使用した術者が死んじゃうのは、際限なく魔力を吸い取られる事が原因だったんだよ。完全に魔力が無くなってしまったら、人は生きていけないからね。でも【デオ】を組み込むことによって、消費魔力に制限が付いて、死なずに済むようになったってわけ」
「……その消費魔力ってどのくらいなんです?」
「対象にもよるけど、小動物でほとんどの魔力使い切っちゃうくらい?」
「駄目じゃないですか! 相手は人間ですよ!? ……ていうか、小動物とはいえ試したんですか!?」
「お、落ち着いてリズちゃん……」
小動物で魔力を使い切るくらいって、ロデオ様を甦らせるなんてしたら、メアリ様の命が持って行かれちゃいます!
いくらロデオ様が生き返ったって、それじゃあ……。
「ごめん、リズちゃん。もう無茶はしないから……ね?」
「絶対駄目ですよ、そんなの!」
メアリ様にしっかりと念を押しておきました。
そんな危険な魔法を、メアリ様に使わせるわけにはいきませんから。
「何を騒いでるかと思ったら……リズ、来てくれたのね」
「ご無沙汰しております、ディア様」
「来てくれて嬉しいわ。息子さんは元気?」
「ええ、お蔭さまで、フィルもすくすく元気に育っています」
ディア様とお話しする中で、コルン王国で聞いたクリスマスの話題になりました。
「クリスマスねえ……」
「そうです。赤い服を着て、白いひげを蓄えた人が、煙突から侵入してプレゼントを置いて行くのです」
「前半はただの変質者ね……」
「大きな誤解生むから、それ!」
メアリ様は冒険者として世界をあちこち回っていた時に、クリスマスについても、ある程度聞いた事があったそうです。
そんな事もあって、詳細は、メアリ様がしっかりとディア様へ説明してくださりました。
「なるほどね……たしかに、そういうイベントがあっても良いのかも。コルン王国の孤児院には、アステアの国民もお世話になっていた事だし、うちも何か協力しようかしら?」
「それはいい考えだと思いますよ」
メアリ様もそう言って、ディア様の意見に賛同しました。
コルン王国で孤児の子に聞いた話では、クリスマスには奇跡が起きるとも言います。
お二人と、今後の予定を話し合い、私は執務室を後にしました。
◆◇◆◇
「そんな事があったのか」
クルスは、息子のフィルをあやしながら言いました。
フィルを受け取り、胸に抱きます。
私の可愛い、大切な大切な赤ちゃんです。
「フィル、良い子にしてたかな?」
「あー」
「おりこうさんね。おっぱいあげましょうね」
「僕にも」
「お父さんは無いですよ?」
クリスマスは、もうすぐです。
ディア様も参加する気満々でしたし、どんな催し物になるのか今から楽しみです。
よろしければ、お次もどうぞ。