最終章・閉幕
「お〜い、コリー!学食寄って行かないか?」
大学に入って1年がたとうとしている、ある日のこと。呼びかけたのは白戸ではなく、はじめのクラスメートだ。
「いや、今日は早めにミーティングがあるから……」
「そうか。じゃあ、頑張れよ〜」
部室に向かって歩きながら、はじめは思う。
(自分がクラスメートとあんな会話をするなんて、思いもよらなかったな……)
自分でもはっきりと自覚できる程、大きな変化だった。
歩く姿も以前とは違う。どこか自信を感じさせる。
「こんにちは」
「こんちは〜コリー」
部室のドアを開け、数人の部員と挨拶を交わす。
「ねぇ、コリー君、聞いた?」
近くに座っていた同じ学年の女子が話しかけてくる。
「部長、東京の劇団にスカウトされてるって」
「ああ、その話なら……」
すでに部長の口から聞いていた。そして、大学卒業後に東京に行くことも。
「スゴイよね〜部長。あの劇団って、有名だよね」
「こんな田舎でも名前が知られてるぐらいだからね」
「うん。こんな田舎でも……」
……そう何回も田舎、田舎と言わないでほしい。
「将来は大女優かぁ……いいなぁ……」
その女子がうっとりとした顔になった時、本人が入ってきた。
「えー、例によって約1名遅刻がいるが、次の舞台のミーティングを始める。今回の脚本は皆の希望通り……」
バタバタバタ……。部長の話し声を遮るように足音が近づいてくる。
(3……2……1……0)
はじめの心の中のカウントに合わせて、白戸が飛び込んできた。
「よっしゃあ! ギリギリセー……」
「アウトだ。来週の掃除当番もお前に決定だな」
ハハハ……と、部員達が笑う。
「いや〜参った参った」
頭をかきながら、はじめの隣に座る。
「よくそんなに遅刻する理由がありますね」
「お・ま・え・のせいだよ。コリー」
「僕……?」
「お前に渡してくれってファンレター、大量に預かってきたぜ。…一通ぐらい、ラブレターが混じってるかもな」
ニヤリと笑みを浮かべながら、はじめの脇腹をつつく。
「……伝書バト……」
「うるせぇ! コリーのくせに!」
「うるさいのはお前だ」
「はい……」
白戸が静まり、ようやく話が再開する。
「……それと割り当てだが、主役は部外からの希望通り……」
部長がはじめを見て、二人の目が合う。そして、部長は静かに微笑み……は、しなかったが、そんな気がした。
花は、遅蒔きながらもゆっくりと開いてゆく――
この話は、ここで幕を閉じる。その後、部長は卒業して東京に行ったのだが、私は魅月町…この町の外のことは何も知らない。しかし、「3年に1度しか見れないコリースマイル」が度々見られることから、大体の想像はつく。
この町が、二人の名優の出身地としても有名になるのは、まだ先の話――
ではここで一つ、締めの一言を言わせてもらう。オホン。
『恋の力は偉大である』
ん? この言葉、まえに誰かが言っていたような……。
それはさておき、この町にはまだまだ多くのドラマがある。今度ここを訪ねてきたら、また他の話をお聞かせしよう。
……私の名前は魅月町――また、会う日まで。ごきげんよう。
作中で魅月町が述べたように、これからも同じ町を舞台にした、他の話を書いていこうと思います。