第2章・開幕
小里 一 (おざと はじめ) 通称コリー
18歳・大学1年。
基本的に人と話をするのは苦手。趣味は読書で、アパートの本棚には文庫本がビッシリ。
西条 壬織。4年生。普段はクールで事務的な態度だが、舞台に上がるとどんな役でもこなすことが出来る。また、役者としてだけでなく舞台監督としても有能。とにかく演劇一筋に生きている。
以上が、はじめが演劇に入部して一か月の間に得た演劇部部長の情報である。
もちろん情報源はコイツ。
「いや〜。まさかコリーが入ってくれるとは思わなかったなぁ〜」
「自分で誘っておいてそれはないでしょう。あと、コリーはやめてください」
「何言ってんだ。もうみんなお前のことコリーって認識してるぜ」
場所は演劇部の部室。これからミーティングを行うところだ。
「えー、先週も言ったとおり、来月新入生をメインにした舞台を演る。脚本は阿倉浪才先生の小説”神の唄う街”をアレンジしたものだ」
少しだけ説明しよう。魅月町からは、ある二人の著名人が出ている。
一人は今名前が挙がった小説家・阿倉浪才。
もう一人は若手の高名画家・コナガワ。ただし、どちらも今回の話には関係しないので、あまり気にしなくてもいい。
「それで配役だが……キャラクターの性格や皆の練習風景から一応の割り当ては出来ている。配布した脚本の1ページに書いてあるから見てほしい」
脚本をめくり、白戸が声を挙げる。
「お! コリー、お前主役じゃねーか」
「うるさいぞ、ハト」
「はい……」
部長に睨まれて小さくなる白戸。一方はじめは、わが目の正しさを確かめるのに精一杯だった。――自分が、主役……?と。
「コリー」
「は、はいっ!」
部長の声で正気に戻った。
「さっきも言ったが、配役はこれまでの練習をもとにして考えてある。このストーリーの主役は君が一番適切だということだ。わかったか?」
「は、……はい。頑張ります。」
その日の夜、はじめはただひたすら嬉しかった。部長に会うために入っただけなのに、その部長に主役として選ばれたのだから。
「僕、意外と才能あるのかな……」
興奮して眠れず、独り言を言う。もしも白戸がこのセリフを聞いていたら、きっとこう言うだろう。
「恋の力は偉大だねぇ」と。
翌日から稽古が始まった。
部長の見立て通り、はじめの演技はなかなかのものだった。順調に稽古は進み、本番一週間前に一通り予行練習をすることになった。観客は5人。部員以外の人の前で演じるのは初めてのことだった。
「緊張してっか? コリー」
控え室で白戸がはじめに声をかける。この演劇は新入生がメインのため、2年生の白戸は裏方である。
「……別に」
「ふーん。ま、たった5人しか見てねぇんだから、ここでビビっちまったら本番なんてとても……」
「何をしている、ハト。お前には反対側の部屋で待機していろと言ったはずだ」
部長が入ってきて叱りつけた。
「スイマセン。頑張れよ〜コリー」
だらだらと出て行く白戸を見送り、部長は出演者たちを注目させる。
「予行練習だが、本番と同じように考えてくれ。”見せる”演技を心がけるように」
「ハイッ!」
出演者たちが力強く返事をし、ステージの幕が上がった。