表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

元PK②

 先程まで優雅な夕食の最中だったダイニングは血に塗れ、テーブルの上にはまだ冷め切っていない食事が散らばり、おおよそ人が手を下したとは思えない惨状。鼻をつく屍臭の中、DKはスリープによって眠りに落ちた誠一を肩に担ぐ。ゲートへ向かうイシュタムの後を追うように、尻尾を振りながら、小走りで向かうが、不意に訪れた気配に瞬時に飛び退く。イシュタムもその気配にゲートに向かう足を止め、後ろを向き臨戦態勢に入る。


 DKが元いた場所から生えるバインド ルーツの蔦。一歩遅ければこれに巻き込まれていただろうDKが飛んだ先は、黄色いローブに身を包み、内にはチェーンメイルを着た、エンチャンターの後ろ。手には伸縮自在のモーニングスターを持ち、エンチャンターとはいえ、近接攻撃も行う事が出来るだろうその風貌は、どこか造られた偽物のようで、ゲーム内テンプレートによって元々造られた物を使ったと言っていいだろう。


 ゲーム時代キャラクターの顔、身長、体はかなり細かく作り込むことは出来る。勿論イシュタムのように現実の顔、体型をそっくりに造ることも可能であり、大半は自身の望む容姿を造ろうとする。ただし、そう言った物が面倒くさいと言った一定数はゲーム開始時に元々造られた物を使う傾向がある。ただ、世界を作ってまで、そこで生活したいと思っているハードユーザー、つまりミドガルズオルムメンバー内にはそう言った人種はいない。その違和感に気が付いたDKは予期せぬ来訪者である彼の喉元に瞬時にナイフを当てる。


「ヘイト オーラ」


 エンチャンターの横にワープで急に現れたナイトが瞬時にスキルを使う。ヘイトオーラは相手の攻撃ターゲットを強制的に自身に向けるナイト系統の範囲スキルであり、狩りでは、壁役がこういったスキルを使い自身に敵を向けさせ、アタッカーが後から攻撃。HPが減った壁役をヒーラーが回復するという一連の流れが確立されている。このスキルを使った彼もまたはテンプレートによって造られた容姿であり、ナイトである彼は壁役独特のゴツい甲冑に身を包みながら、大きな盾を持ち、そして削りきれないほどの膨大なライフを持つ。


 ターゲットを強制的に変更されたDKはナイトへの攻撃は無駄だと判断し、一旦距離を取り、イシュタムの横に戻ると、イシュタムは【デスナイト】を召喚し終わっており、急に現れたこの二人のターゲットをデスナイトのヘイトオーラにより強制変更し、彼らのターゲットはデスナイトへ移っていた。


 デスナイトは名の通りナイト系統の死者を召喚し、壁役として使役させる。その容姿は甲冑に身を包んだ骸骨というシンプルな物であり、召喚職としては基本中の基本の魔法ではあるものの、この召喚魔法は特別な能力がある。召喚者のレベルに応じてHPと防御力が上がり、最高レベルのイシュタムから召喚されたこのデスナイトは、最高レベルのナイト系統と同等の防御力を誇り、イシュタムの切り札と言っていいだろう。


「いい判断力だ。さすがは中身入り、俺達とは偉い違いだ」


そういう言いながら扉からゆっくりと入ってきたのは片手で大きな剣を肩に乗せ、布地のカラフルな虎の刺繍が入ったレザーアーマーに身を包むバーサーカー。こちらもテンプレートの容姿で整いすぎた不自然な顔。


「こんな狭い場所でやり合うつもりはないよ。ただ、挨拶しに着ただけさ」


「そこのアサシンの嬢ちゃんの俊敏さは厄介だからねえ。少し静かに話を聞いて貰いたかっただけさ」


「俺はxxxyz。そこのエンチャンターはxyyyz。ナイトはxyzzz。」


「まあ元はBOTなんで、分かりにくけりゃxとyとzでいい。」


そう言うと、xxxyzは整いすぎたその顔をニヤリと歪める。


「BOT風情がなんの用かしら?DK向こうのナイトを落としなさい」


「ちょ、ちょっと待てよ」


「元PKギルド【Evil Dead】のイシュタムだろう?横の嬢ちゃんはミドガルズオルムの初期メンバーのDK。二人ともこっちの世界じゃ有名なんだぜ。」


「なんせBOTの俺達は散々あんたらに邪魔されたからな」


 不正利用者であるBOTを排除するのは、運営の義務だが、次から次へ増えるBOTに対して、対応が後手に回るのが実情であり、狩り場で邪魔なBOTを一般のプレイヤーが排除することは珍しくない。当然一般のプレイヤーであろうとBOTであろうと関係なく襲う元PKのイシュタムは元より、好戦的でアサシンという職に就いているDKがBOTを排除しないわけがない。そんな当たり前のことを分からないはずがない彼らに対して、それがどうしたのかという表情で二人はxxxyzを見る。


「もう止めましょうよ。xさんこの人達は無理ですって。zさんも何か言ってやって下さいよ」


 そう言うxyyyzに対して、イシュタムとDKはすぐに攻撃に移れる様、体勢を崩すことなく、彼らを舐めるように観察し、真意を見抜こうとする。恐らくはココから警戒しろと伝えられたK国に属するBOT。その彼らが何故我々の元に現れたのか。ただ、名前から察するに数は少ないながらT国のBOTの可能性が高い。


 何故なら、ゲーム時代、BOTは運営と一般プレイヤーの憎むべき相手である。一部ではアイテムの供給を促す必要悪だと言う者もいたが、24時間動き続けるBOTは大量のアイテムとゲーム内通貨を生み出す。そして、大量のアイテムは安価で流通する事になる。これは皆が安く手に入ると言う点では歓迎すべきことである。しかしながら、一部のBOTが入手出来ない希少なアイテムは値段が下がることはない。このアイテムを入手する際に、BOTが手に入れた大量のゲーム内通貨を使った場合、インフレ状態に陥り、ゲーム内の経済を壊すことになる。とは言え、一般プレイヤーはそれ程までにゲーム内経済に気を遣っている訳ではなく、ただ単に狩り場に溢れるBOTに対して邪魔だという理由で排除しているのだが、それ故に有志のユーザー間で、BOTの情報交換が行われており、K国系BOT、T国系BOT等と、名前によって、区別される。


 両者の間には明確な差異があり、K国系はアルファベットと数字を無差別に抽出した物。T国系はアルファベットの後から同じ物を複数使う傾向があり、名前から察するに彼らはT国系であると言える。


「ハナシハ スグ オワル ダマッテ キケ」


「ええ、zさんも止めて下さいよ」


 xyyyzの残念そうな、それでいて無邪気な言葉に余裕を感じたDKは更に警戒度を上げ、相手の出方を見る。


「名前を明かしたんだ。もう何処の国かわかるよな」


 周りを諫め、落ち着いて話し始めたxxxyzの言葉にイシュタムは考える。やはりT国のBOT、ココにはK国に警戒しろと言われたが、K国も別に動いているのだろうか?更にxxxyzは続ける。


「お宅の盟主さんがK国に襲われたのは、俺達の差し金だ」


 ココが襲われたと聞いて、二人は眉をピクリとひそめる。


「ココ様は大丈夫なの?」


 慌てて聞き返したイシュタムに、xxxyzは両手を上げ、残りの二人は顔を見合わせクスクスと笑う。そしてxxxyzは呆れたように話を続ける。


「あれは強えわ。ヒーラー系統のくせに敵に対する反応速度が半端者ねえ」


「俺達が出て行ったところで、エアバインドで固められて、ライフをジリジリ削られて終わりだろう」


「遠くから観察してたが、一歩も動けなかったわ」


 その言葉にイシュタムとDKはホッと胸を撫で下ろす。そしてそれに気を良くしたDKは話に割って入る。


「そりゃうちの盟主様は最強ニャからニャ」


「それより話ってニャンニャのニャ。今は気分が良いから聞いてやるニャ」


 イシュタムの制止を振り切って上機嫌で話すDK。尻尾をパタパタと振り、警戒を解く。しまったと思うイシュタムに対し、xxxyzは攻撃を仕掛けてくる様子は無く、イシュタムはホッと胸を撫で下ろす。


「本当に挨拶に来ただけさ。後事情の説明とな」


「俺達はT国のBOTだが、T国は今の所、動くつもりは無い。最終的に我が国が覇権を握れればいいってね」


「だから今回K国をけしかけてみたってだけさ」


「勿論K国は俺達のことをK国の人間だと思ってやがるがな」


 そう言う彼にイシュタムは一つの疑問を抱く。


「何故それを今私達に伝える必要があるのかしら?黙って着々と準備をすればいいじゃない」


 察しの悪いイシュタムにxxxyzは説明を兼ねて語り出す。


 どうやら今回はT国の命を受け、交渉に来たようで、最初はココへ話を通そうと遠くから見ていたらしい。ただ、ココのあまりの殺気に、近づいたらその瞬間に殺されかねないと感じた彼らはイシュタムにターゲットを変更したらしい。何故交渉に着たのかというと、デメテル大陸の位置にあり、恐らくはまず最初の交渉相手として、アメリカを選ぶだろうという推測。それに食い込んでいきたいT国の思惑がある。先に情報を掴んでいるT国はある程度のアドバンテージを持っているとは言え、露骨に太平洋まで出ることは出来ない。また大国故に、アメリカとの摩擦は極力抑えるためK国を騙し自身の手足のように使うことにしたらしい。そしてxxxyzは最後に告げる。


「現実世界に現れた我々プレイヤーは多大なる力を手に入れた」


「それは一人ですら現状の兵器の中でも最高レベルと言っていい力だ」


「そんな力を相手に3対10万では手も足も出るわけないだろ」


「そりゃ交渉するしかないだろ?お宅の盟主さんに伝えてくれ」


「今の所T国は動かない。安心しろとな」


 今の所と言うことは後に動くことを意味する。そうなった場合ネックなのはこの3人であり、T国が交渉だけで穏便に済ませる訳が無い。そう感じたイシュタムは魔法を唱え、デスナイトに攻撃指示を出し、デスナイトはナイトであるxyzzzに飛びかかる。


「ダーク エクスプロージョン」


 ターゲットの中心に周りにPTメンバー以外の全てをDoTを与え吸引そして、集める。現状のターゲットはヘイトオーラを使用したナイトのxyzzzであり、彼を中心にバーサーカーのxxxyzとエンチャンターのxyyyzは黒い玉のような物に吸い集められる。また、メリメリと音を立て楠一家の終の棲家になった家すらも吸い集められ家は倒壊する。


 瞬時にワープを使い飛行魔法である【フライング スカイ】を使ったイシュタム。恐らく急いで担いできた誠一を肩に乗せDKは息を切らし、その倒壊した家を眺める。更にイシュタムは【フリージング ファイア】を唱える。


 辺りは青い炎に包まれ燃え上がる。燃え上がった炎は徐々に終息し、瓦礫の中からフライングスカイを使い無傷の3名がイシュタムとDKの前に姿を現し、xxxyzが口を開く。


「物騒だな。ただ、挨拶に来ただけって言っただろう?」


「範囲無敵があったわね」


 ニヤリと笑うイシュタム。【アルティメット ディフェンス オーラ】通称範囲無敵はエンチャンターの範囲スキル。名前の通りPTメンバーを一時的に無敵状態にし、ダメージを無効化する。同様の単体スキルでナイト系統に【アルティメット ディフェンス】があるが、今回はPTメンバーを守るためアルティメット ディフェンス オーラを使う事にしたのだろう。


「まあいいわ。また会う日まで」


 そう言うと、イシュタムは再度ゲートを開く。


「もうちょっと落ち着けって」


 そう言うxxxyzもエンチャンター開いたゲートに足を進め、双方共に各目的の地へ移動していった。

書き出して気が付きました。国名ってどうしてるんだろう?露骨に出すと意外と反感かいそうで、アメリカと日本以外は伏せてますけど、なんとなく分かっちゃうしどうしましょう?そんな感じで書いてます。


因みに今、私が続きを書くためのモチベーションはまだまだ少ないながら読んでくれる方がいるって事なんで、頑張ります。感想お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ