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元PK

  白い壁の大きな家、表札は楠。家の門をくぐると、さほど大きくは無いが、立派な庭。ガレージには大きな車が数台止まり、その様子に裕福な家庭ということが容易に想像できる。少し歩くと大きな窓。中にはテーブルに座る二人の男、料理を運ぶ一人の女性が見える。その様子を冷たい目をして覗く、イシュタムの横にいるDKはどう見ても犯罪者に見えないその家族を見て、首を傾げる。そんなDKにイシュタムは囁くように耳打ちをする。事情を理解したDKは怒りと悲しみに満ちた複雑な表情をした後、ニヤリと残忍な犬歯をむき出しにする。


 そして微かに漏れる彼らの話し声。


「あんなアバズレにもう引っかかるんじゃないぞ」


 楠誠一。人権派の弁護士であり、テーブルを挟んで正面に座る良一に対して、優しく嗜める様に問いかける。


「ごめんよ父さん。僕の愛を裏切ったあの女が全部悪いんだ。当然の仕打ちさ」


「あらまあ、良ちゃんは女性を見る目がないのよ。貴方のお嫁さんは私が見つけてあげますからね」



 そう言うのは料理を運んできた母の良子。

 

 数年前、良一は当時15歳。母子家庭で慎ましやかに暮らしていた一人の女子高生に対し、ストーカー行為の末、彼女の家族を殺害した。嫌がる女子高生の体を無理やり押さえつけ、ナイフを首元に当てる。恐怖に怯えた彼女は抵抗することもできなかった。そして、その様子を最初に発見したのは、小学生の彼女の弟。姉が犯される様子を見た弟は急いで姉を助けようと、良一に飛び掛る。良一はそんな小学生の弟を持っていた鋭利なナイフで滅多刺しにする。横にある死に怯えながら、女子高生は良一に体を貪られる。しばらくして、買い物から帰った母親がこの状況を目撃する。母親は警察に連絡するも、110番の最中、後ろから、ナイフで30箇所以上刺され絶命。警察が駆けつける頃には彼女は母と弟の死がすぐそこにある状態で何度も犯されていたことになる。

 

 そして少年法に則り、裁判は進む。一時死刑を求刑されることになるが、心神喪失状態か否かを争点として、死刑廃止を唱う父誠一の手腕によって、死刑を回避する事になる。当然ながら彼の名前や住まいは少年法によって守られ、公開される事はなかった。逆に被害者である女子高生の身元はすべて公開された。毎日押しかける大勢のマスコミに、彼女は親類の家をたらい回しにされ、引っ越しを繰り返し、行方知れずとなる。この彼女こそイシュタムであり、ココがデメテルを作ると言い出したときには歓喜のあまり涙を流し、ココに忠誠を誓い、自身の生活を壊した者に復讐を誓った。

 

 そんなイシュタムは自己愛に満ちた彼らの会話にイシュタムは今にも飛び掛りそうな、それでいて冷静に青く高温で純度の高い炎を灯した様な瞳で覗く。

 

 その後、イシュタムとDKは【ワープ】戦闘用の短距離瞬間移動の魔法を使う。転移先は楠一家団欒の最中のテーブルの上。彩り鮮やかな料理が並ぶテーブルの上にいきなり現れた二人に楠一家は唖然と口を開け丘に打ち上げられた魚のように口元をパクパクとさせ、微動だにできない。その様子を嬉しそうに観察した後、イシュタムは口を開く。


「ご機嫌如何かしら?」


 そう言うと、イシュタムは高笑いを上げ、両手をゆっくりと広げるテーブルの上でクルクルと回る。その所作はこの状況でさえ美しく優雅であり、この場にいる男性二人は魅入られるように、瞳を反らすことは出来ない。それとは逆に隣のDKは腰を落とし、両手を前へつく。瞬時に動けるよう臨戦態勢に入っているが、未だ動く気配はない。


「誰なの?」


 良子の怯えた声に、瞬時に反応したDKが、飛びかかり上から抑えつける。右手のナイフを良子の首元に当て、左手で口を抑える。その様子に事態を把握した誠一と良一は立ち上がろうとするが、イシュタムは右手を上げ【バインド ルーツ】移動阻害魔法を唱えると、足元から伸びる蔦が瞬時に彼らの動きを止める。椅子に座ったまま蔦に体を縛られた彼らはバタバタと暴れるが、それが解ける気配は無い。


「お母様初めまして。先ほどお父様が仰っていたアバズレですわ」


「アバターもリアルそっくりに造った私の顔。良一さんなら、わかりますわよね」


 そう言うと、テーブルの上のから一家を見下ろすイシュタムはゆっくりと良一の方へ腰をくねるように曲げ前屈し、顔がよく見えるように髪の毛を掻き上げる。


「な、なにがしたい。復讐か?」


 そう言う良一に微笑む。それと同時にイシュタムはワープし、椅子に縛り付けられている誠一の後ろに回り、優しく誠一の首元に指を這わせながら、ニタニタと笑う。誠一は荒い息を抑えながら、ビクリと一瞬動き体を硬直させる。


「復讐されるような事をしたという自覚はあるのですわね」


「ふざけるな。もう罪は償っている。こんな事をして後でどうなるのかわかっているのか?」


 激昂した誠一が叫ぶ。絶望の色は見えない。イシュタムは少しがっかりした表情を見せ、ゆっくりとテーブルを回り込み、良一の後ろに立つと、良一の右頬辺りから顔を覗かせる。


「安心してくださいな。お父様。貴方は殺しません。貴方は大切でかけがえのない自身の家族を失った上で、我々を憎しみながら、死刑廃止という貴方の崇高な理念を貫き通してもらいますわ」


「まあ、我々の実験台になるのですから、死んだほうがマシかもしれませんが、自身の主張を覆さないように、がんばってくださいまし」


 そう言うイシュタムに、良子を抑えこんでいるDKが暇そうにナイフを首に当てたり離したりしながら問いかける。


「もう殺していいのかニャ」 


 イシュタムはこれから良い所なのにと、呆れ顔でDKを静止させる。


「今回は魔法の検証よ。全部私が手を下すのをそのままで見ていなさい」


 誠一と良一はDKの持つナイフに目が離せない様子で、語気を荒らげ罵倒を繰り返すが、イシュタムは気にする様子もなく、ゆっくりと良一の正面に回り込み座ったまま縛り付けられている良一の股の間、椅子の上に右足を乗せる。上げられたその右足にローブのスリットが開き、下着が見えそうな程の大きな隙間からは、美しい白く細い足。そして目線を上げると内腿の柔らかそうな滑らかな肌と見事な脚線美に目の前の良一は息を呑む。イシュタムは良一を更に煽るように右手を自身の膝辺りから、太股辺りを何度もなで回し、良一が見えていないであろうローブの中へと手を入れ、体をくねらせながら吐息を漏らす。


「あら?アバズレと罵った私の体に興味がおありで?」


 イシュタムはそのまま良一に顔を近づけ、耳元にフッっと息を吹きかけ、ビクリとする良一の体にニヤリと嘲笑の目を向ける。



「かけがえのない母と弟の骸。絶望し、抵抗する私の精神とは逆に反応する体。この体を嫌悪しながら、更に体は別人の様に貴方を受け入れる」


「この葛藤に私は気が付いたの。生と死の間にある性に、刹那的な最高の快楽があると」


「だから貴方の死も私の快楽に変えてあげる」


 そのままイシュタムは良一の耳を優しく咥える。そして、耳介から耳垂まで上から下へとゆっくりと舐め回す。漏れる良一の吐息に咥えた耳から口を離し、自身の人差し指を口へ持っていく。舌を出し自身の指を舐め、そしてゆっくりとその指を口の中へと挿入する。そのままクチュクチュと音を立て、舐め回した指を口から離すと、粘度の高い透明な唾液が指先から伸び、口と指を繋ぐ。そして、重力によってプツリと切れ、唾液は床へと落ちる。


「少しは気持ちいいかしら?」


 イシュタムはそう言うと、先程まで舐め回していた唾液の付着した指をゆっくりと良一の右眼に当てる。そのまま徐々に押し込む様に長い爪の生えたその人差し指に力を込める。当然ながら、良一は抵抗を見せるが、イシュタムの左手で抑えられた頭を動かすことが出来ず、呆気なく鈍いプチッという音と共に貫通する。瞳から血とゼリー状の硝子体が溢れ、激痛に悲鳴を上げる良一。差し込まれた指は止まることなく、グリグリと眼孔をなぞる様にゆっくりとかき回し、内容物を指で掻き出し、床に投げ捨てる。


「そろそろ死に実感が持てたかしら?」


 止めてくれと叫ぶ家族を余所にイシュタムはDKへ告げる。瞬時に飛び退いたDKに、拘束を解かれた良子は急いで立ち上がり、背を向けて逃げるが、【バインド ウィップ】を唱えたイシュタムに拘束される。バラの蔓でゆっくりと締め付け、拘束し、徐々にHPを減らす【Damage over time】通称DoTを同時に与える、バインド ルーツの上位魔法であり、締め上げられた良子の悲鳴が響き、必死に逃れようと体を動かせばバラの棘が体に徐々に食い込み、40代の彼女のだらしない体から、どす黒く赤い醜い血が溢れる。


「さあ、お別れの時間です。お母様。しかし、恐れることはないのです。すぐに

私の僕にして差し上げますから」


「リーパーズ ヴォイス」


 良子の正面に暗く深い闇が現れる。その中から一本の鎌がヌッと現れ、奥から鎌を握った指先は真っ白い骨、そして真っ直ぐ伸びた腕の先に、黒い布切れをかぶった晒された頭を持つ者。死神と称される絶望の象徴が姿を現す。それは鎌をゆっくりと良子の首下へ鎌を当て、良子の耳元でそれは囁く。


「拾、9、Ⅷ、七・・・・・・」


「助けて」


 バラの棘に無数の傷を体に付け、バラの蔓に締め付けられた息絶え絶えの、か弱い声で呟いた良子の声は届くはずもなくカウントダウンは続く。


「Ⅱ、壱、0」


 そこまで告げるとそれは鎌を大きく振りかぶる。


「もうやめてくれ」


 誠一の悲鳴にも絶叫にも似た静止は届かず、振り上げられた鎌は良子の胸に突き刺さり、良子の悲鳴が起きる。目を見開いた良子は口から真っ赤な血を吐き出す。そのまま意識が途切れ瞳を閉じるが、体はビクッビクッと反応し、小刻みに痙攣を繰り返し、そして息絶える。それと同時に鎌を持った死神は空気に溶けるように消え、バインド ウィップが解け、膝から崩れ落ちる良子の亡骸を足蹴にする暇そうなDK。


 不意にPTチャンネルからココからの連絡が入り、応答したイシュタム、DKへここからK国軍へ注意するよう指示が出るが、彼女らの反応は嬉しそうに、K国軍との戦いを望んでいるように顔を見合わせ、再度死を迎えた良子に向かう。


「もうやめてくれ。何でもする。何でもするから助けてくれ」


「あら?あなたはそういう私にやめて頂けたかしら?自身の死を実感して恐ろしくなりました?」


 ぶつぶつと呟く良一にイシュタムは答えると、誠一がイシュタムとDKを罵倒する。


「ふざけるな。お前ら絶対に死刑にしてやる。絶対に許さないぞ」


「ふざけるな。ふざけるな」


 イシュタムは微笑み、軽蔑の目を向ける。


「あら、早いわよ。自身が掲げた主張を簡単に覆すなんて、美しくないわ」


「まあ私の気持ちをわかって頂けたようで嬉しいですわ」


 そういうとイシュタムは【ターン アンデッド】を唱える。


「目の前の死に怯え、死に向かった貧しい魂よ。イシュタムの名の下に今一度、生なる世界で生きる、一時の猶予を与えよう。自らの望んだ生を謳歌する生者を食い殺せ」


 そう言い手を翳した先は良子の遺体。良子の周りに青く幻想的な魔方陣が出来上がり、彼女の右手がピクリと動く。その後のそりと起き上がった良子の瞳は自身の意思すらない、虚ろなまま頭と両手を下に垂らし、胸には深く抉れた傷跡から、肋骨が見える。誠一と良一の大丈夫かという声に反応はなく。そこにはただイシュタムの操り人形となった彼女のゾンビが出来上がる。


「さあ喰らいなさい。あなたの大好きな息子よ。とってもおいしいわ」


イシュタムの命令にのそのそと良子は良一の方へ向かい、下げた両手でバインド ルーツによって拘束された良一の左手を掴み、膝を折り、座り込む。そしてそのまま顔を腕の近くに持っていき、死を迎えた際に吐いた血のついた口を大きく開け、かぶりつく。


「母さん、僕だよ。母さん。僕がわからないの?痛いよ。母さん助けてよ」


 良一の絶叫と誠一の制止は届くはずもなく、イシュタムの操り人形になった良子の歯は良一の上腕二頭筋を食いちぎる。そのまま腕とう骨筋に再度食いつき、真っ赤に染まった、その口元を更に赤く染め、蛇が獲物を飲み込むように、噛み砕いたりする事なくそのまま飲み込む。その作業のような行為を良一が絶命するまで、延々と続けるよう命令されている良子はやめる事はない。


 良一の悲鳴と誠一の罵倒にイシュタムは更に頬を紅潮させ、目を潤ませ、体全体で悦楽と快楽、愉悦を感じるように、そして下半身から溢れる粘度の高い愛すべき液体を抑える為、股を閉じ、大殿筋と腸腰筋に力を入れ、クネクネと優美な、そして甘美な吐息を上げる。その女性としての美しさに、DKは見惚れ、頬を赤く染め、ゴクリと唾を飲む。そして下半身をモゾモゾと動かし、犬狼族特有の犬の耳と尻尾をピコピコと動かす。


「アハハハハ」


「貴方やっぱり厭らしい子ですわね。DK」


 そういうイシュタムにDKは顔を真っ赤にして否定するが、イシュタムは笑うのを止めない。DKは手で顔を覆い隠し下を向く。その所作もまた愛らしく、可愛らしい。イシュタムはDKの頭をポンポンと撫でる。


 その間にも良子は良一の体を次々と食いちぎっていく。良一はもう痛みを感じていないようで、最初のうちは絶叫を上げ、ビクンビクンと反応していた体の動きすら無く。ハァハァという息遣いしか聞こえてこない。目は虚ろで、もう内臓さえ食い荒らされ、意識が切れそうの状況を必死に堪えているといった様相で、自身を食らい尽くすまで動きを止めない母を見つめる。


「さあ死は目前ですわよ、良一さん。反応のない貴方を見てもつまらないですから、そろそろ終わりにしますわよ。首を刎ねなさいDK」


 DKは良一から距離を取り【ダブル モータル スラッシュ】を使う。右手のナイフを逆手に持ち、刃先は光に包まれる。そのまま刃に蓄えたエネルギーを一気に放つ。切っ先から放たれた二枚の光の刃が、良子と良一の首を刎ね上げる。中を舞う二人の首と体から一気に力が抜ける二人に満足した様子のイシュタムは、うなだれる誠一に告げる。


「あの時、貴方の息子を死刑にしていれば、私は貴方の英断に復讐を思いとどまったでしょう。そして、貴方は我々の実験台となる事も無かったでしょうね。自業自得と諦めるといいわ」


 イシュタムは誠一にスリープをかけ、DKに誠一を抱えるよう命じ、ゲートを開く。薄れゆく意識の中で誠一は復讐を考えるが、それでも抗いようの無い力に絶望し、叶わない夢と諦め、自身の判断に後悔しうなだれる。


 少し思想的で読む方を選びそうだなと思いながら、書きました。ただ私自身、昨今の少年犯罪を犯した者の行動が更正しているのか?という疑問。私自身大切な人が犯罪に巻き込まれたとしたら?と考えると、やはり犯人は許せないと思います。冤罪の問題、きちんと更正してもらえるならばという期待もあり、一概にどちらが正しいというのはありません。


 またR18に引っかからないように書きましたが、少し残酷すぎるかなと思う部分もあり、直したほうがいいよというご意見等あれば是非お気軽にお願いします。


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