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いつもの一日・昼食

5話と書きましたが、1話増えます

 先公の奴らが俺がいることに驚きながらの授業を四つ終え。


「孝徳ー! 昼食一緒に食おうぜー」

「ああ」


 拓斗が教室に入ってきて堂々というので俺も鞄を開けて中身を確認し――固まった。


「あー学食でいいか?」

「何? お前まさか弁当忘れたのか!?」

「ああ」


 正確に言うと良家が鞄を渡してきたので弁当の確認をしなかったのだが、そんなことは今問題ではない。


「マジかよ折角食べれると思ったのに! くそっ!!」

「お前随分正直に言ったな」


 つまりこいつは良家の手作り弁当が目当てだという事らしい。

 ……やれやれ。


「あら孝徳君。これからお昼?」

「そういうお前は食べ終わったのか?」

「まさか。これから食べるのよ。あなたは私をなんだと思ってるのかしら?」

「女王様」

「ふっ」

「うおっ」


 正直に答えたら顔面にストレートが向かってきたので紙一重で避ける。


「あなたは変わったわね、本当に。悪い方に」

「…………」


 答えづらい質問のため黙る。どこか失望したような感情が込められていたのだが、こればっかりは答えられない。

 少しばかりの沈黙があった俺達だったが、沙奈恵が息を吐いて「まぁいいわ。あなたの変貌ぶりはなんとなく察することができるから」とどこかさみしそうに言った。


「怖いな、お前」

「あら? 私の頭脳とあなたとの腐れ縁を疑う気?」

「いや別に」

「なら一緒に昼食ね。拒否権はないわよ」

「おい!」

「お、マジでか! ラッキー孝徳!! なら学食へ行くか!! 俺弁当だけどよ!」

「孝徳さん」


 拓斗がテンションを上げたところでも聞こえる凛とした声。そんなのはこの学園に一人しかいない。

 全員が一斉に声がした方へ向くと、そこには我が妹良家が弁当箱を持って佇んでいた。


「お前が持っていたのか」

「すいません。時間がなさそうでしたので私がお持ちしておりました」

「ああそうか。悪いな」


 そう言って俺は良家の元に近づく。


「こちらです」

「悪いなわざわざ」

「いいえお気になさらず」


 そう言って朗らかに笑う。ただそれだけでほぼ全員から息が漏れる。


 ――俺と、沙奈恵を除いて。


 沙奈恵は俺の隣に立ってから、いつもの無表情さに怒りを露骨に表した表情で良家に言った。


「どうせあなたがわざと自分で持ってきたんでしょ? こうして褒めてもらいたくて」


 対して良家は口元に手を当てて笑いながら「何のことでしょう?」と答える。

 その笑みに何やら確信したらしい沙奈恵は「まぁいいわ」と息をはいてから俺の腕をからめ捕る様に組んで「これで学食で食べることなくなったわね? 行きましょう?」と顔を近づけて言ってきた。


 なぜそんなことをするのか分からなかったので素直に「顔近いぞ」と言ったら足を踏まれた。

 痛みには少々慣れていたので表に出さないでいると、何故か口元に手を当て笑みを浮かべたまま動かない良家の姿を見た。

 痛みを無視するために、俺は良家に話しかけた。


「大丈夫か?」

「…………はっ」


 意識でも飛んでいたのか我に返ったらしい。そしてすぐさま沙奈恵に視線を向けたかと思うと俺に向け、「孝徳さん。それでは」と言って素早く戻っていった。

 教室内も拓斗でさえも静かになった状態で、俺はため息をついて弁当片手にさっさといつもの場所へ向かうことにした。



「邪魔します、春日井さん」

「なんだ孝徳よぉ。女連れとは珍しいにもほどがあるな、おい?」

「勝手についてきたんすよ」


 そう言って一人この教室――生徒指導室の主と化している春日井友則先生と対面する形で椅子に座る。

 それを一瞥した春日井さんは「ま、好きに使えや」と新聞を読みだした。


「さて、俺も食べるか」

「ひょっとして春日井先生は元ヤンなのかしら?」

「ああそうだ」

「そりゃもう俺達からしたら伝説ともいえる人だからな!」

「いつの間に来たのかしら、松原君」

「ちょっと前から」


 そう言いながら自分の弁当を食べ始めている拓斗。

 俺も弁当箱を開けて食べ始めると、その流れに順応した沙奈恵も弁当箱を広げて食べ始める。


 三人で黙って食べていると、不意に春日井さんが「そういやよ、孝徳」と俺の名前を呼んだので食べるのをやめて「なんすか?」と訊いた。


「お前これで何件目だよバイトクビになったの」

「五件目すかね」

「しかもこの五か月の間で、だろ? 少しは堪え性ってのを覚えろよ」

「すんません」


 クビにされることをしたのは自分。それを反省して次に臨んでいるのだが、どうにも我慢ならないことが起こるとすぐに手が出てしまう。


 俺が素直に謝ると、春日井さんは「まぁあんなバイトばっかやっててお前みたいな真っ直ぐな不良が染まってない証拠だろうがな」と顔を隠したまま言ってくれたので「ありがとうございます」と礼を言った。


「けどそんなバイトしなくたっていいんじゃねぇのか? バーのウェイターとかよ」

「こっちの方が向いてるみたいなんすよ俺」

「……ま、他にやりたいのあればそれをやればいいだけだしな」

「そうっすね」


 なんというかいつも適当な返事をしてるのにどこか説得力がある。それは、俺達の先達であるからなのだろう。

 一通り問答を終えた俺は再び食べ始める。が、二割のおかずが消えていた。


 ……俺まだそれほど食ってないよな?


「いやー、相変わらず良家ちゃんの料理はおいしいな!」


 犯人は一人跨いだ隣にいた。

 ったく。勝手に食うんじゃねぇよ拓斗の野郎。と思いながら再開すると、「それで足りるのかしら?」と沙奈恵が質問してきた。


「まぁ足りねぇけどよ。仕方ねぇだろ」

「ふぅん」


 そう言うと沙奈恵は何を思ったのか黙って俺の方に弁当を寄せてきた。


「あげるわ」

「いいのかよ」

「ええ。なんだか憐れに思えてきて」

「ヒドイ言い草だな、おい……でも、いいのかよ」

「構わないと言ってるでしょ。食べなさい」

「ああ」


 強く言われたのでありがたくいただく。


 ……。


「うまいな」

「そう? それは良かったわ」

「……ん? なんか高波さん赤くなガハッ!!」


 キレのいい肘が拓斗の首に打ち込まれたらしい。

 俺は気にせず、弁当を食べ続けた。

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