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いつもの一日・学校

「……あー疲れた」


 遅刻寸前でもないために服装検査で引っかかり、良家の小言と衆人環視の中でネクタイを直されるという他者から見たら羨ましい光景に一役買い、嫉妬の視線を一身に受ける羽目になりつつ睨みを効かせて自分の教室に入る。


 勢いよくドアを開けたからか周囲の視線を一身に受けるがその程度いつもの事なので無視して自分の席に座る。


 ざわざわとした空気が一気に静まったのを気にせず窓の外を見ようとしたところで、誰かが声をかけてきた。


「やぁ新垣君。珍しいわね、あなたがこんな朝から学校に来ているなんて」

「あ?」


 声がした方に視線を向ける。と、冷ややかな笑みを浮かべる黒髪長髪の女が立っていた。

 良家は腰のあたりまでだが、この女は床にギリギリ着かないところまで伸ばしている。

 誰だか分かったので俺は視線を外に向け、「別にいいだろうが沙奈恵」と素っ気なく答える。


 それに対しその女――高波沙奈恵はクスリと笑ってから「それもそうね」と言う。


「でも珍しかったから声をかけたのよ。今までの登校日の八割が遅刻と言うあなただから」

「ったく。なんで良家と言いお前と言い、俺の登校事情を知ってるんだよ」

「幼馴染なのだから当然でしょ?」


 そういうものかと納得した俺は「話は終わりか?」と訊ねる。


「そうね。後は今日の一校時目に小テストがあるぐらいかしらね。精々赤点採らないよう気をつけなさい」

「あ? マジかよそれ。……やってらんねぇな」

「諦めなさい」


 そう言うと長い髪を翻して俺から離れるように自分の席に座る。


 高波沙奈恵。俺達の幼馴染で、俺とは腐れ縁の女。良家とは違う方向性の美少女だ。いわゆる、「女王様系」。

 表情をほとんど変えず、平然と無理難題を吹っ掛ける――それが沙奈恵の一面である。

 ともあれ大抵の場合冷静で、なんでもそつなくこなすので人気はある。主に女子から。


 と、いうことなので、俺はとんでもなく面倒な立場にいる。


 ったく。いい加減離れろよな、あいつら。なんて思っても仕方はないはず。


 と、そんなことを考えていたところ、やたら元気な男の声が俺の名を呼んでいた。


「お~い孝徳~~! お前が来てるっていうから来てやったぞー!」


 俺はそのうるさい声に顔をしかめながら仕方なくそちらに向いて名前を呼んだ。


「うるせぇ拓斗。相変わらず元気な声出しやがって」

「俺が元気じゃなかったらそん時はお前が励ましてくれよ!!」

「…もうちっとボリュームさげろって言ったんだよ」


 俺が直球で言ったにも拘らずその男――拓斗は笑いながら「それは無理だな!」と即答した。


「俺のアイデンティティが無くなる!!」

「やかまし」

「あでっ」


 軽く小突いて黙らせる。そこまでやるのが俺とこいつの最初の会話。

 別にそんな事をしなくても最初から会話できるのだが、それはまた特別なケースだと割り切っている。


 で。


「一体何の用だよ」

「いやー孝徳が朝から学校に来てるなんて聞いたらな。そりゃそんな面白いもの見に行かないと」

「面白動物じゃねぇよバカ」

「いやそうだろ。珍しいんだから」


 そう言われると何とも言えないので黙っていると、「そういやよ孝徳」と話題を変えてきた。


「なんだよ」

「最近俺達が出張る事ってあんまないよな」

「いいじゃねぇか。それだけ平和だって事だろ」

「まぁそうだな。最近はあいつらも大人しいし」


 俺と拓斗が言っているのは不良グループの事である。

 元々群れていなかった俺に対し拓斗が率いていたグループが突っかかってきたのが始まりで、そこから他校の奴ら、上級生の奴らが問答無用で来たのが増大する原因。

 今ではめっきり大人しくなったのは俺と拓斗がすべて返り討ちにしてきたからだと思う。完全に心折れるまで打ちのめしたからな。


 おかげで俺たち二人はここらの不良たちに『悪魔』なんて呼ばれ方をしている。


「つぅか最近あいつら妙に俺見たら平身低頭になってないか? 前より」

「んあ? あーそれな。ほら、お前がバイトしてた用心棒あったろ」

「あークビになった奴な。俺がお得意様ぶちのめして」

「そうそれ。そん時報復でヤクザ者三十人ほど引き連れてたそうじゃねぇか」

「来た来た。あのクズ金だけは持ってやがったからな」

「んで、それを見た奴が後をつけたらお前が笑いながら暴れ回って全員半殺しの状態になった現場を見たって話」


 教室の温度が下がっているのは気にしない。むしろ気になる事なんてない。

 あの時俺笑ってたかなと思い返しながら、「半殺しは言い過ぎだっての。精々全治半年とかだろ」と否定する。


「まぁ噂に尾ひれがついていった感じだな。俺が聞いた話だったらぶちのめしたそのお得意様壁に叩きつけて足で押し込んだって話なんだけどよ……」


 俺は、全力であさっての方向を向いた。


「え、おい。それ……マジ?」

「……いやいやいや。マジじゃないマジじゃない。ただ、な」

「なんだよ」

「ちょっと暴れすぎたなーって自覚はあるんだが、なんかその時の記憶無くてな。正直誰かを踏んづけた感触があるのは確かなんだ……」

「…………え。引くわー」

「仕方ねぇだろうが。あんときまだ苛立ちが収まらなかったんだから!!」

「あーあーうん。人間誰しも怒りで我を忘れることあるよな、うん。俺も姉貴にドーナツ食われたから全力でキレて気付いたら病院行きだったこともあるし」

「なんだその状況」

「どうやら痛み分けで姉貴も入院して聞いたんだが……姉貴の顎を全力で打ち抜こうとしたから返り討ちにした際に一発内臓に当てられたそうだ」

「それで入院か……」

「いや、そん時家が崩壊したせい」

「お前の家族は戦闘民族か!」

「いやー家がボロだったからだよ。で、俺達仲良く入院ってわけ」

「……って、そろそろ戻らなくていいのか?」

「おっといけね。そんじゃまた来るわー」


 そう言うと拓斗は手を振って教室を出た。

 それから少しして、担任の先公が来た。


 さぁって、やるか。

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