いつもの一日・登校
「では行ってきますお兄様」
「あー待て良家。俺も少ししたらいく」
「え!?」
俺が食器を片づけている最中に良家が学校へ行くようなので俺も大体同じ時間帯に行くというと、驚いたのかリビングに戻ってきた。
自分自身珍しいことをしていると自覚しながら、「やっぱり遅刻した方がいいか?」と訊くと、「い、いえ! そんなことはありません!!」とすぐさま否定された。
「ただ……お兄さ……ちゃんが遅刻しないと言ってるのが驚きで」
「うっせ。偶には遅刻しないで行って先公驚かしたいんだよ」
実は良家に生活パターンが知られているというのが怖かったとは口が裂けても言えない。
で、案の定俺の内心に気付かなかった良家は「なら一緒に登校できますね」と本当に嬉しそうに言った。
……。こういう笑顔でときめく男たちが多いんだよな。今更ながらに再確認する。
まぁ俺には出来過ぎた妹だと思いながらも「別に先に行ってもいいぞ。遅刻しない時間で行くから」と食器棚に片付けながら言うと、「そうですね。鞄を持ってきます」と言われて危うく食器を落としそうになった。
なんか会話がかみ合わっていなかったような気がするななどと思いつつ食器を片づけていると、「お兄様の鞄を、今日のお兄様がお受けになる授業の教科に必要な教科書などを入れて持ってきておきました」と聞こえたため本当に食器を落としそうになった。
あ、あぶねぇ。皿落としそうになった。割ったら面倒だ。
それに安堵しながら、内心心臓バクバクな俺は、平静なふりして「あ、ああありがとな」と礼を言う。
なぜ俺の授業まで知っているのか。そしてどうして必要なものをこの短時間で持ってこれたのか。
とんでもなく怖いので、俺はそれをスルーすることにした。
「それじゃぁ行きましょう」
「ああ」
制服には着替えていたので授業の準備をするだけだったのだが良家の迅速な(俺にとっては恐怖)準備のお蔭で省略され、二人で登校することに。
俺が鍵を閉めるのまで良家は待っており、それから並んでいくことに。
「こうして一緒に登校するのはいつ以来ですかね?」
「小学生の頃以来じゃないのか? 覚えてないが」
「惜しいです。小学五年生以来になります」
……まぁ頭もいいからな、こいつは。昔の事も良く覚えているのだ。
だからそわそわしている理由も他にあるはず。きっと俺の周囲に与える印象が悪すぎて恥ずかしいのだろう。
だから時間をおいて後から行くというのに、まったく。
出かけ前良家に直された制服のネクタイをほどきながら歩いた俺は、「そういやさっさと行かなくていいのかよ?」と質問する。
生徒会長になったということは様々なことをやらなければならず、服装検査もそれに含まれる。
校則はそれほど厳しくなく、多少の改造された制服などは見逃してくれるのだが、まぁ俺は問題児で目をつけられているからな。結構文句を言われる。
確か今日はそれがあったはずだと思ったんだが…と思ったゆえの質問だったが、「大丈夫です」と返ってきた。
「それは昨日にやりましたから。遅刻したようですから混乱したのでしょう」
「そうなのか?」
「はい」
「だったらなぜ携帯電話の着信音が聞こえるんだ? お前の」
「…………」
笑顔のままピタリと立ち止まる良家。少し歩いて振り返ると、笑顔のまま怒気が渦巻いていた。
「……」
「……なぁ良家」
「…なんですか?」
「生徒会の仕事、行ったらどうだ? ちゃんと俺も遅刻せずに行くから」
「…………本当ですか?」
「ああ」
一瞬。俺が肯定しただけで良家の怒気は霧散し、「では、先に行かせていただきます。ちゃんと来てくださいね?」といつもの雰囲気で言ってからスカートだというのに走り出した。
……さて。俺も行きますか。