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Fall in love
この作品は、日々、並々に生きる人々の、日々、並々ならぬ出来事や思い出を綴った超短編小説集です。
今度こそ幸せを掴むはずだったのに――。私はひとり、宿を営む実家の居間で歯を食いしばった。
生まれてこのかた、なぜか男運に恵まれない。
「母さん、運命の人はどこにいるの?」
床の間に飾られた牡丹の掛け軸に向かって話しかける。今はもういない牡丹のように美しかった母さん。母さんみたいに綺麗だったら私も幸せになれただろう。傷つくのは嫌だ。しばらく恋なんてしたくない。そう心に決めたとき、ガラガラっと勢いよく居間の襖が開かれた。
「帰ってきてたんだね!」
振り向くとそこにいたのは30代ならではの男らしい風貌をまとった幼なじみ。息を切らし、瞳をキラキラと輝かせる姿に、胸がきゅんとなる。
あぁ、母さん、この人が運命の人でしょうか。心の声に、掛け軸の中の牡丹が頷いたように見える。運命には逆らえない。私は仕方なく新しい恋の穴に飛び込んだ。心はもう弾んでいた。




