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6話 夕希の願望


 夕焼けの中、夕希は逃げた神華を探していた。監察方と言う仕事としてだけではなく、本気で神華を探していた。忍者のような素早い行動で屋根伝いに走る。夕希は新選組を馬鹿にしたような物言いをした神華が許せなかった。それほどまでに夕希にとってかけがえのない場所になっていた。新選組だけが夕希の居場所だった。

 あの梅雨の雨の日、総司と一を救ってくれた女の人がいると聞いて会うのを楽しみにしていた。強くてかっこい少女に夕希は憧れていたからだ。自分もそんな人になりたいと心の中で思っていた。

 夕希は新選組にいたい。今は置いてもらってるだけだけどいつか新選組に認めてもらえるほど強くなろうと夕希はこころに決めていた。だから強い女と聞いてワクワクせずにいられなかた。大きな期待を持っていた。

 それなのに期待は裏切られた。夕希に心からの笑顔を与えてくれた新選組を馬鹿にされ、夕希は相当怒っていた。怒っていただけではなくそんな人に一瞬でも憧れていた自分が悔しかった。

「見つけてやる! それで私も新選組の役に立つんだ!! 」

 夕希はひっそりと呟いた。何か武功を立てなければという焦りが現れている。夕希はいつ新選組に居られなくなるのか分からない。

 太陽は沈み闇が迫っている。西の空が薄く紫になっていた。夕希は足をさらに早く動かした。


 平助達は歳三にたっぷり怒られてしまった。わざわざ捕えた人をみすみす逃してしまったのだから当然のことだろう。だが、いつもより歳三はイライラしていたようで、かなり怖かった。

 平助は屯所の中をぐるぐる歩いている。地面に転がっていた小石を怒り任せに蹴飛ばす。

「そりゃあ、土方さんはあの場にいなかったもんね!あの場にいたら誰だって……」

 平助は途端に黙り込む。自分が言ってることが言訳にしかならないことを理解しているからだ。平助達は神華の纏う雰囲気に立ちすくんでしまった。戦いの時立ちすくめば死ぬだろう。確実に。歳三はそれを心配して怒ってくれたのだ。平助自身、それは痛いほどわかる。でも、いらいらするのだ。分かっているからこそ、言ってほしくない。平助は頭をガシガシとかきむしった。

 うろうろする平助を途中から見守っている人がいた。忠司だ。黄緑の髪で隠れているが、たんこぶがある。忠司の頭を目がけて石が落ちてきたからである。忠司はそんなこと予想もしていなかったので見事に当たってしまった。

 石は先ほど平助が蹴っ飛ばした物で、忠司は叱ろうと思い来た。

 しかし、反抗期で悩んでいる姿を見て苦笑いをするとひっそりその場を後にした。


 あっという間に夜になっていた。風は湿り気がある。

 夕希は屯所に戻るべきか一瞬、考え込んだ。でも、考えたのは一瞬で答えは最初から決まっていた。手柄が欲しい夕希はそのまま夜の街へ足を踏み出した。

 夜の京は深い。後に戻ることが出来なくなることもある。それでも、夕希は進むことにしたのだ。

 夏が近づき、生ぬるい風が頬を撫でていく。昼間照らされた道路の焼けたような匂いが残っている。

 夕希はため息をついた。

「もうちょっと歩いて見つからなかったら帰ろう」

 寂しさから夕希が独り言を言った時、路地裏から金属の音が聞こえてきた。まるで刀と刀を打ち合わせているような音だ。夕希は引き寄せられるように音を辿って歩き出した。


 夕希は物陰にやって来た。そっと路地裏を覗き込み、悲鳴を上げかけた。が慌てて、口を自分の両手で塞ぐ。

 女の顔を持った巨大なクモがいたからだ。しかも口から大量にクモを吐いているのだ。そして、神華はそれらと戦っていた。見間違えなどではない。

 どうやらかなりの時間戦っているようで神華かなり汗をかいていた。汗が地面に落ちる。地面の小さな染みが出来た。

 小さなクモが神華を囲むようにして糸を吐いた。糸は真っ直ぐ飛ぶ。神華は高く跳び上がる。糸は屋根にあたった。すると、どうしたことか、屋根が溶けたのだ。神華は糸を吐かれる前に槍を一振りするとクモを切り捨てた。

 夕希は腰を抜かし座り込んでしまった。

 神華が戦っている妖怪は女郎じょろうグモという妖怪だ。普段は女に化けて人に混ざって生きている。

 もしくはクモが突然の変異で霊力を持ち、人を喰らうようになる。女郎グモはふつうのクモを使役しえきする。

 夕希はこんな時なのに古い文献ぶんけんを思い出した。

 その時、気が付いた。自分が女郎グモの使役していたクモを踏んでしまったことに。

 女郎グモから吐き出されたクモが夕希に近づいてくる。夕希が視線を上げると女郎グモは夕希を見てニタリと笑った。怪しい笑い顔。醜く、恐怖を感じさせる。

「き、きゃああああああああああぁぁぁっ!! 」

 夕希の悲鳴が夜の空を駆けた。

 神華は夕希に気が付き、自分に気を引き付けるために跳躍した。


 夕希の悲鳴は屯所を出て酒を飲んでいた平助達にも聞こえた。

「夕希!? 」

 平助が走り出す。それに続くようにして左之助と新八が走り出す。左之助はお金を店の店員に投げ渡した。お釣りは取っておきなと言い残して。


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