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23話 すべてを吸い込む闇

 神華は自分の何倍もある敵と戦っている。

 怪物は体が大きいクセに早い。しかも、地面に手を突っ込んで、神華の真下から奇襲きしゅうをかけてくる。

 真下の地中から飛び出てきた怪物の腕によって、神華は足元をすくわれる。さらに追い討ちをかけるように怪物が足を持ち上げる。神華は空中で体をよじって踏みつぶされることだけは回避する。だが、何にせよ、動きが早い。

 神華は身軽さで避けているが、攻撃が出来ない。


 太陽は陰り、怪しい風が吹いてくる。

 不審に思った近くの村の人たちは出てきて怪物を見た瞬間わが身一つで駆けて行った。しかし、逃げ惑う人は多い。あっちに行ったりこっちに行ったりと忙しい。巣を壊されたアリが逃げ惑っているかのようだ。

 神華はそれらの人を守りながら戦っている。怪物が神華ばっかりを見ているようにわざと大技ばかりで攻撃している。槍全体を使った、体力を消耗させるような技ばっかりだ。しかも連続でそういう技ばかり使っている神華の息はすでに上がっている。技のキレも無い。肩で呼吸をしながら動いている。

 下からの奇襲を察知した神華は素早く跳び上がるが既に体力は残されていない。バランスを完全に崩している。怪物がここぞとばかりに蹴りを神華にお見舞いする。神華はあっけなく飛んでいく。

 近くにあった家を貫通し、地面を転がる。

 神華は何とか立ち上がる。しかし、どこかを痛めたようで顔が引きつっていた。

 よく見ると神華の左腕は垂れたままだ。神華がどんなに力を入れても持ち上がる気配はない。それどころか、小指一本すら動かないようだ。

 事態は明らかに悪い方へと進んでいた。

 神華の頬を冷や汗が伝って落ちていく。焦りと痛みが混じったような複雑な顔をしている。


 一方、総司は樹神こたまと死闘と繰り広げていた。刀が何度も打ち合わされ、火花が散る。

 総司の息が上がっていることに対し、樹神は余裕そうな表情が消えない。憎たらしくなるような笑顔が張り付いたままだ。

 総司はそれでも、愛刀の菊一文字を構える。己の信じた道を貫き通すために。

「無駄だよ、暗黒時代は幕を開けた。ボクにひざまずくことが賢明な判断だと思うけど? 」

 樹神はニコニコした表情を崩さずに言う。樹神は本気すら出していないのだ。

 総司は歯を食いしばる。

「誰がっ! 」

 短く吐き捨てる。その言葉の裏にはたくさんの想いが隠されている。神華がまだあきらめていない。それに、ここで逃げるなら最初から神華に着いてなど来なかった。

 新選組も京の町も守りたいと総司は思う。だけど、それ以上に神華の力になりたいのだ。守りたいと思えたのだ、初めて。その思いは簡単に壊れることなんてないのだ。

 総司は呼吸を整えると眼前の敵を睨んだ。

 瞳は殺すべき敵を捕らえている。禍々(まがまが)しい風にたなびく銀色の髪。神華と同じ色の瞳はよどんでいる。

「はあぁぁぁっ!! 」

 総司が樹神に斬りかかった。


 総司が樹神に斬りかかったころ、神華の隣で逃げ遅れた小さな子供が転んだ。怪物が神華目がけて、巨大な腕を振り下ろす。

 神華一人なら避けただろう。しかし、神華は子供を守るため、槍で怪物の拳を受け止めた。足が地面にめり込む。それだけではない。

 神華は使えない左腕を無理に動かしたため、骨が砕ける音が辺りに響き渡った。

「くうっ!! 」

 神華から、小さな悲鳴が上がった。流れ落ちる汗は止まらない。力がどこまでも持つわけでは無い。

「逃げっ、てっ!! 」

 神華は子供に言う。子供は神華の必死なお願いが分かったらしく、立ち上がり走り出す。涙で目を潤ませながら一生懸命に足を動かした。

「そう、いい子、ね」

 神華がかすれた声で言う。だけど神華には力が残っていなかったらしく、ひざから崩れ落ちた。怪物が腕を上げたから神華は崩れ落ちるようにして片膝をついた。荒い息と、滴る汗。動かない左腕。

 立とうと足に力を込めるが立てない。神華に焦りの表情が浮かぶ。

 しかし、それもつかの間だった。怪物の口を開けて迫っていた。神華は動くことすら叶わなった。神華は紅の目を伏せた。ただ、飲み込まれるように化け物の口の中へと消えていいった。

「お姉ぇさあぁぁぁぁぁぁんっ!! 」

 子供が悲鳴に近い声を上げた。


 総司は声を聴いて、振り返った。寒気と嫌な感じがよぎる。

 神華が化け物に喰われる瞬間だった。

「神華あぁぁぁっ!! 」

 総司の叫びが空を切り裂いた。

 それでも神華が目を開くことはない。怪物の口の中へと吸い込まれた。


 総司が神華に気を奪われている間に横から強烈な蹴りが放たれた。総司は大量な空気を吐き出した。同時に口の中に鉄の香りがせり上がって来る。

 まともに回避することすら叶わない。総司は地面を転がっていく。菊一文字も地面に落ちる。総司は地面の土を握りしめた。地面に四本の筋が残される。

 総司は守れなかった。

「許さ…、無い」

 総司は口の中で呟く。

 憎しみの目が樹神を貫いた。緑の目が苛烈にきらめいた。毒々しい色をたたえながら。


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