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14話 弱い者と強い者


 総司の頭の中で警鐘けいしょうが鳴る。こいつは危険だ、と。近づくな、関わるなと警鐘は鳴り続ける。危険だと本能が総司に告げる。逃げなければ自分の身に危険が及ぶと分かった。

 しかし、総司は逃げることをためらう。目の前に神華がいたからだ。

 もちろん、神華は戦うつもりなのだろう。槍を握りしめている手に力が入っている。

 神華は槍を構え直した。樹神も戦う姿勢に入っている。緊迫きんぱくした空気が流れる。だが、まだ、見つめ合ったままだ。この均衡はきっかけがあればすぐにでも崩れるだろう。

「沖田さん、逃げましょうよっ!! 」

 夕希が総司の腕を引っ張る。総司は夕希に腕を魅かれて走り出す。

 夕希に引っ張られながらも総司は後ろを振り向いた。神華のことが心配だった。そんな総司の目に神華の後ろ姿が映った。

 神華の背中は強く見えた。だけどもそれは小さくも見えた。


 樹神こたまが走り出す。風を切る音が神華の耳に届く。樹神は低い体勢から刀を振り上げた。風を斬る音が少し遅れて聞こえる。神華は体を半歩ほど下げてギリギリで槍の柄を盾替わりにしてなんとかしのいだ。

 だが、続けて樹神は刀を持っていない方の腕を振るう。樹神はとんでもないスピードで神華を殴ろうとしていた。これも神華は何とか槍を盾にしてしのいでいる。しかし、やられるばかりではない。槍を盾にすると言っても今度は樹神の手が自ら刺さるような位置に持っていく。樹神の拳は槍に刺さってしまった。

 肉が避ける感触。続いて嫌な音。赤い滴が地面に落ちる。引き抜かれた槍にもやはり血がべったりとついていた。

「痛いなぁ~。でも、うれしいなぁ。強い子は嫌いじゃないヨ」

 樹神はそれなのに嬉しそうにしている。怪我した自分の手を舐めている。樹神の白い肌を赤い血が流れ落ちていく。

 神華は焦った。樹神には今の攻撃はそこまでこたえていないらしい。

 樹神はするりと下がり距離をとる。だが、樹神はすぐに助走をつけ、神華に駆け寄った。息をつく暇さえない。駆け寄るなんて生易しいものではない。樹神の体がぶれて見えるほど早かった。

 すぐに樹神は神華に蹴りを入れた。人間とは思えないスピードと力。圧倒的な実力の差がそこに現れていた。

 神華はよけきることも、かばうことも出来なかった。樹神の蹴りをまともにくらってしまう。肺から空気が勢いよく飛び出していく。軽々と飛ばされた神華は思い切り背中を木にぶつけた。その瞬間、鉄の匂いが喉元までせり上がって来る。

 辺りに痛々しい音が響き渡った。

 神華の口から血が飛び散った。辺りに赤い霧がかかったかのような勢いで。半端な量ではない。もしかしたら、内臓が傷ついたかもしれない。

「神華ちゃんっ!! 」

「沖田さんっ!! 」

 神華の様子を見た総司が足を止めてしまう。夕希がそんな総司の着物の袖を引っ張る。夕希は総司を早く安全な場所まで連れて行きたいのに、総司は神華を見て立ち止まってしまっている。

「うるさい犬だなぁ。そういうの、嫌いなんだよネ」

 樹神が夕希と総司をみて微笑んだ。微笑みと言っても、残酷さにあふれる笑顔。それでもどこか楽し気。見ているものが戦慄してしまうぐらい、怪しい笑みだった。


 総司は何かを感じて反射的に足を半歩下げた。夕希も押されてずれる。

 次の一瞬。

 総司の頬を何かが掠めた。遅れて鋭い風の音がする。

 総司の頬から血が流れた。浅く切ってしまっている。

「あーあ、外しちゃった。旦那だんな、意外にやるネ? 」

 樹神が投げたのは小石だった。小石をすごい勢いで投げたのだ。石があたった地面は深くえぐれていた。人間にあたっていたら、まず間違いなく風穴が空いて即死だっただろう。

 総司が小石を避けたのに樹神は何故か嬉しそうにしている。総司には分かった。樹神が戦いを楽しんでいるということが。

 総司の中の警鐘は間違いなく、樹神の戦闘を楽しんでいることに反応している。だから、こいつは危険なんだと。総司は黙って樹神を観察する。

 しなやかな肢体したい。決してがたいがいい訳では無い。だが、底知れない炎のような強さを秘めている。今はまだ火がついていないだけで火が付けばどうなるのか、総司にも分からない。だが、警戒することにこしたことは無いだろう。

「お、沖田さん……」

 夕希はすっかり怯えて震えている。夕希の震えは遠目にも分かるらしく樹神はうっとおしそうに目を細めた。紅の瞳が微妙に反射して光る。少し不機嫌になったようだ。

「何で、弱い奴が強い奴の足を引っ張るんだろうネ? 」

 樹神は口の中でもそもそと呟く。

 総司には聞き取れない。

 だが、肌を突き刺すような殺気だけは痛いほど感じ取れた。

 急に樹神が総司との間合いを詰めた。総司は動けない。急な出来事だったのと速すぎる移動のせいで目で追うのが一杯一杯だったのだ。

 樹神がニタリと笑った。夕希を目がけて腕を振り上げる。しなやかなうねり。迫りくる人間離れしたこぶし。全てがスローモーションに見えた。

 夕希は悲鳴さえ上げることができず、目を固くつぶった。

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