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10話 複雑な心境

毎日更新とか言っていましてがすいません。

風邪をこじらせて布団に縛られていました。

すいません。

でも、今日は体調が戻って来たので一気に三話ほど更新させていただきます。

本当にすいませんでした。


 総司はお茶を夕希に入れてもらう間、ずっと黙って空を見ている。夕希も、黙々と作業を続ける。重たい空気が二人の間に流れていた。会話の種すら見つからない。

「沖田さん、出来ました。どうぞ」

 夕希がお盆に二つの湯呑ゆのみをのせた。それをお盆ごと総司に渡す。湯呑からは湯気が上がっている。とても熱そうだ。

 だが、二人の間に流れる空気はとても冷ややかなものだった。

「ありがとね、夕希ちゃん」

 総司はお礼だけ言うとお盆を持つ。

 その時に夕希の手に総司の手が触れた。

 夕希は無意識に手を放してしまう。不安定お盆はそのまま落下する。総司は慌てて半歩足を引いた。落ちたお茶はまき散らされる。湯気がフワリと広がった。お茶の香りが部屋いっぱいに広がった。

「す、すいませんっ! 」

 夕希は謝った。顔は可哀想なぐらい青い。

 総司のはかまにはお茶が跳ねてしまっている。

「もういいよ、夕希ちゃん。ごめんね」

 総司は優しい声で言った。そのまま雑巾を持ってくると悲しそうな顔をして立っている夕希の前で床を拭いて行く。

「すいませんっ! やります」

 夕希が慌てて動き出した時には零れたお茶は無くなっていた。

「気にしないでいいからね」

 優しいが、これ以上の追及を許さない声音。決して歳三のように厳しい訳では無い。しかし、やんわりと遠ざけられている。夕希にそれを自覚させるには充分な出来事だった。

 総司は手を洗うと、台所から金平糖こんぺいとうを持つと出て行った。

 台所には微かなお茶の匂いと泣き出しそうな夕希が残された。

 夕希の茶色の瞳から涙が零れ落ちた。夕希は自分が総司の役に立てていないことを誰よりも知っていた。夕希は静かに泣きながら総司と触れた指を握りしめた。それだけが総司と夕希がこの場にいた確かな証拠だった。

「どうしたんだよ、夕希? 」

 平助が台所の外から声をかける。夕希は平助に抱き付いた。


 総司が自分の部屋に戻ると一と神華が言い合ってる姿が見えた。一は刀を抜いている。神華は抵抗しない。それどころか無理矢理、笑顔を作っている。総司は黙ってみていることしかできなかった。

 一はしばらくして刀を収める。神華が総司と目を合わせ一に何か言う。総司は慌てて柱の影に隠れてしまった。別に隠れる必要はなかったのだが。

 一は総司の方へ向かってくる。ゆっくりとした足取りで。

「総司。気を付けろ」

 低い声で一は総司に忠告した。総司は反射的に一を睨む。その顔には明らかに怒りが込められている。一は総司から視線を外さない。お互い本気だ。

「一君、どういうつもり? 神華ちゃんを疑っているの? 」

 総司が笑顔で聞く。だが、目は笑ってなどいない。その総司の緑の目には殺気が込められている。

「はっきり言おう。神華は怪しい」

 静かに一は告げる。自分の思っていることだけを簡潔に。そのまま一はその場を去った。総司の殺気を背中で感じながら。


 総司は複雑な心境で自室へ戻った。

「ごめんね、おまたせ。これ探してたの」

 総司が金平糖を神華に手渡す。色とりどりな金平糖を見つめ神華は笑顔になった。心からの笑顔はとてもやわらかなものだった。

「ありがとう、沖田さん」

 神華は嬉しそうに言う。総司も何だか楽しくなって笑みをこぼす。その笑顔は無理矢理作ったものではない。総司もやはり心から笑えていた。

 総司の頭を一の言葉がよぎった。

「神華ちゃんは、いつもあんな化け物と戦っているの? 」

 総司が呟く。単に興味があったから聞けたらいいな、程度の気持ちだった。

 神華の顔が曇る。紅の瞳も影を帯びる。神華は話そうか悩んでいるように見えた。

「信じてもらえないかもしれない。だけど、答えは『はい』、だよ」

 少しの間のあと神華は答えた。

 総司の目が驚きで見開かれる。それと同時に総司の中にはやっぱりかという思いがあった。

「あの化け物は何? 」

 総司は気になることから聞いていく。神華は再び黙った。金平糖が白い手の上で踊る。少しの間がやたらと長く感じられた。

 静寂が訪れる。二人の耳には初夏の風が木々を揺らす音だけ。静かな時間は思ったよりもゆっくりと流れる。総司は重ねて追及しようとはしない。気になっただけで答えが欲しい訳では無いから。

 神華は目を閉じた。

「闇 攻める時 多くの妖 血を求む なんじら 救いを求めん 我 使いなり 大黒時代だいこくじだいを 明かす者 夜明けを告げる者」

 歌うかのように神華は詩を暗唱した。総司は神華を見る。

「何、それ? 」

 まったく意味が分からなかったのだ。

 神華は目を開く。真剣な目をしている。総司は自然と背筋を伸ばした。

「私の里に伝わる詩よ。でも、これは嘘であって本当のこと。続きが聞きたい? 」

 神華はいたずらっ子のように笑った。総司は不意を突かれ、顔を背ける。神華の本当の笑顔は可愛い。本人が無自覚なところが怖いところだ。

 総司は呼吸を整えてから頷いた。

「それじゃあ、障子の外で盗み聞きしてる人も連れて来て。面倒だから」

 神華は呆れた声音で小声で言った。総司は障子を振り返った。そこには影が映りこんでいる。総司は静かに障子に近づき、開け放った。

 部屋に流れ込んで来たのは平助、左之助、新八、夕希だった。総司も呆れた顔になる。神華は予想していたらしく驚く様子さえない。


 初夏の光が全員を照らしていた。


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