第8章 ささやかな幸せ
ノロノロとした影の攻撃を難なくかわし、その勢いを殺さぬまま縦に叩き伏せる。そのまま霧のように爆発した相手を見てニーナはホッと一息ついた。
「今日でもう8体目かあ」
ニーナはシャドウアタッカーになってから5年が経ち見違えるようにその腕をあげていた。服も前の簡素なシャツではなく、教団から渡された魔法で作られた制服である。見た目より防御力が高いという特殊なもので、ニーナのためにデザインされ仕立てられた。ひらひらと風に踊るスカート部分が女の子らしさを演出していた。
そしてその手に握られている武器は自分の身長ほどある大剣だ。重量感が感じられるが、本人にとっては大したことがないようで2、3回軽々と振って光と共に消す。亜空間に物を収納するちょっとしたテクニックだ。
「ニーナ、やったな!」
後ろから声をかけられて振り向くとそこにはパートナーのテオがいた。
彼もまたシャツではなく黒い制服を着ており、最初に会った頃とは違って大人びた印象を与える。髪の毛が少し長いような気もするがルビーの瞳は変わらず光り輝いているような気がした。
「テオ、そっちも終わったんだね。時間かかっちゃってごめん」
そんなことないよと目を細め、ニーナの手を握って額ににそっとキスをする。
「今日もまた生き残れたんだ。それだけで十分さ」
「そうだね」
さり気ないスキンシップに束の間の幸せを感じながらニーナは静かに答えた。今日もまだ生きてる。そう実感できる安らかな時間であった。
5年経過したが世界はほとんど状況を変えていない。影は今も神出鬼没であり、シャドウアタッカーが戦いそれを消すことも変わりない。少し人口が減ったくらいか。
5年前の初戦闘のあと、教団での修行でめでたく正式なシャドウアタッカーとして任命された2人は、さらにその腕を磨きその中で徐々に功績を認められるようになった。各々の戦闘能力はもちろんだがコンビネーションでお互いを支え合い確立した戦い方だ。
ニーナは遠距離の魔法より近距離で相手を直に叩く戦法を得意とし、自己の能力を高める魔法に特化した。
テオは前線で戦うニーナのサポートや防御、火力の高い全体攻撃や素早く相手を追尾して撃墜する魔法を多く習得した。
それと、教団の中で恋仲としても有名になっていた。
他のシャドウアタッカーや団員が2人を見る度に歓声を上げるほどの仲だった。相手のために戦いお互いが生きていることに感謝し毎日を生きていた。