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第46章 ずっと一緒に

 テオはまどろみの中で異物を感じていた。自分とは正反対の白い光だ。

「来るな」

 唸り声をあげて追い返そうとする。何もかも感じたくないのに、眠っていたいのにそれを邪魔する奴は一体どこの誰だ。

 ここでは自分の思ったとおりにものを動かすことができる。世界の支配者に不可能はないのだ。

「独りにしてくれ」

「俺を見捨てないで」

 反響する自分の声が頭に響いて不快感を膨らませる。気持ち悪さに吐き気を覚えた。



 ニーナは暗い世界を進んでいった。水の中を歩くように抵抗がありなかなか前に進むことができない。それに負の感情がグルグルと頭に入り込み心に傷を負わせる。

「テオ……寂しかったんだね」

 突き飛ばされるような感覚と手を引かれるような感覚を同時に感じながらニーナはされるがままにしていた。テオの矛盾した心がナイフのように突き刺さって血が流れる。



 近付いてくる温かさにテオは後ずさりした。だんだん意識が明瞭になってくる。

「ニーナ……!」

 圧倒的な光の強さの中にも優しさが感じられる。手を伸ばしかけて掴む直前で引っ込めた。自分が手にするにふさわしいのか自信がなかった。それでも目をそらすことができない。

「そうか。これは求めるものではないんだ」

 ずっと答えを求め続けてきた。

 今度は自分が答えを提示する番だ。



 ニーナは足を止め、あらゆる攻撃についに膝をつく。それでも一番奥底のとろりとした闇にたどり着いたことを感じていた。

「私はここにいるよ」

 両腕を無造作に持ち上げると空間を抱くようにして闇を引き寄せた。すると足元から粒子が集まり、最愛の人をかたどった。初めて会った時から変わっていない黒い癖のついた髪と幼さが抜けきってない顔つきはまさしくニーナがずっと探し続けていた人だ。

「おかえり」

 強く強く抱き締める。これ以上の言葉は要らなかった。

 指がぴくりと動いた。まぶたが震えゆっくりと目が開かれる。そして自分が抱きしめられていることに気付いた。温かいぬくもりが伝わってくる。

「ううっ……」

 テオは泣いていた。次々と玉のような涙が溢れては頬を伝って落ちていく。それを拭うこともせず力いっぱい抱き返した。

「ごめんなさい、ごめんなさい……!」


 自分は愛されていたことに対しての嬉しさ。

 それと今までそれを信じきれなかった悔しさ。

 2つの思いは決して交わることはなかったが、テオを前に進ませるにはどちらも十分な力を持っていた。


 抱きしめ合う二人を中心に光と闇の炎が灯る。踊るように揺らめくと爆発するようにあたりに一瞬のうちに広がった。

 音もなくテオを縛っていた鎖がはずれ、そして消えていく。周りからの圧力ももうなくなっていた。上も下も分からなくなるほど感覚が引き伸ばされる。


「帰ろう」

 意識を手放す直前、彼女が最後に見たのは目の覚めるほど澄んだ空の色だった。

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