第38章 光魔法
「大丈夫?寒くない?」
テオはニーナ背中に腕を回した。雨は降っていなかったが深い霧がかかっていて衣服をしっとりと湿らせていた。おかげでじわじわと身体の底から震えがくるのだ。
「寒くないって言ったら嘘になるけど、問題ないかな」
そっと身体を寄せてお互いの体温で暖を取るようにした。
二人が逃げてきたのは教団から程遠い森の中にある廃村だった。動物の気配も人の気配もしない静かな場所で、隠れるにはちょうど良かった。
「これからどうしようか」
沈黙に耐えられず、またもやテオが質問を投げかけてくる。逃げてきたはいいが、いつ誰に狙われるかわからない状況でいつまでもこんなところにいるわけにはいかない。ニーナを守ると決めた以上、この状況を打開しないといけない。
「世界のバランスを取り戻さなくちゃ。これを見て」
ニーナは武器を取り出す要領で亜空間から古びた本を出した。開くと綺麗な手書きの文字で文章が綴られている。
「日記……?」
見覚えのない年号だったが日付が書いてある。
「光を司る貴女にこの文章を贈る……」
テオが一番最初に書き出されている文章を音読するとニーナが頷き胸に手を当てた。
「これ、初めて見たのになんだか懐かしくて。その中に光魔法の使い方がすべて書かれていたの」
見ててねと言うと、ニーナが目の前に手をかざして集中するように目を閉じた。するとみるみるうちにテオの目の前で消えていく。観察しているうちに完全に背景と同化してしまった。
「な、何それ!?」
テオがニーナのいたところに手を伸ばすと感触が伝わってきた。どうやら腕を掴んだらしい。魔法を解くとまた出現する。
「空気中の水分に光を反射させて見えないようになっていただけだよ」
「すごい!」
自分の見たこともない魔法に興奮してしまう。楽しそうな声にニーナも得意気になった。
この日記によると先程の不可視魔法を始めとした光魔法がびっしりと解説されていたようだ。もともと天才だとは思っていたが、いままで一度も魔法を使ったことがないのにここまで習得できるとは思わなかった。テオは内心で舌を巻いた。
促されるまま灯りを浮かべたり、鳥の姿にして羽ばたかせたりしていたが、そのうちに真剣な顔になって言った。
「一番最後に最終手段が書いてあったの。闇と光のバランスを取り戻す方法」
「本当か!」
そんな魔法があるのならもう問題は解決したようなものだ。テオは嬉しそうにニーナの肩を叩いた。しかしニーナの表情は暗い。
「でもね、まだうまく使えなくって。もう少し待っててほしいな」
さすがにそこまで要求するのは酷か。テオが手を下ろすと同時に頭上から声が響いた。
「見つけた……」
第三者の声に二人とも上を見上げる。屋根に空いた穴から赤い目が覗きこんでいた




