第37章 不可解な手紙
教団内は朝からテオとニーナがいなくなったことで大騒ぎになっていた。家事や任務サポートしていた団員達が教団の隅々を捜しても一向に見つからない。
「いなくなった!?テオとニーナが?」
ヘレナからそのことを聞いたリリーは目を丸くした。兄と姉のように思っていた家族が行方不明なら心配するのも当たり前だった。しかし二人が外の世界でよく行くような場所などリリーは知らなかった。
「あの二人、任務以外の時間はずっとここにいたからな。どこにいるかまでは想像できない」
イグナーツが応えるとヘレナは髪をぐしゃぐしゃと掻き回して困り果てた様子で「分かったわ」と答えた。
「見つけたらすぐ知らせてね。団長すごく焦っているみたいだから」
「そうだな。俺達も仕事が増えるのは御免だからよ。早いところ戻ってきてもらわないとな」
キャンディーを渡したり言葉をかけたり疲れ気味なヘレナを労わりつつ、リリーとイグナーツは長い廊下を歩き始めた。テオとニーナがいた部屋を調べるためである。
「おかしいよ、二人が居なくなっちゃうなんて。攫われちゃったとかないよね?」
大股で歩くイグナーツの背中に飛びついて強制的におんぶをさせる。
「二人を攫える人間なんているか」
「だよねー」
部屋に到着するとリリーは飛び降りて中に入っていく。まだテオの匂いが残っているように感じるのは濃厚な魔力が空間に浮遊してるからだ。雑に整えられたベッドは空で、ランプには燃料が残っていない。準備を整えてから出ていったということが分かる。
「ん?」
机の上を見たイグナーツが来てみろとリリーを呼んだ。そこには小さなメモが貼り付けられている。
「……」
現実から逃げることを許して。
綺麗な字で書かれた一文はきっとニーナが書いたものだろう。意味が分からない二人は顔を見合わせて首を傾げた。
「クラウスとヨハンのことを責任に感じているんだろうか。それとモンスターに対して……?」
いくら予想を立てても本人に聞かない限りはわかりそうもない。
「またみんなで暮らせるように一生懸命捜そうな」
「うん」
リリーのしょげた姿を見てイグナーツが頭を撫でた。




