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第33章 天使と悪魔の誘い

 ニーナはベッドの上で膝を抱えて座っていた。

 いつまでも落ち込んでいるわけにもいかない。だがあの凶悪な敵相手に冷静を保っていられる自信はない。何度も何度も仲間が倒れる未来ばかりを想像してしまい、そのビジョンを追い払おうと頭を振った。

「テオもみんなも死なない……大丈夫」

 自分に言い聞かせるがその声の震えに無力さを知る。もっと強くならなくてはと自分の膝を叩いた。


「少女ー、悩んでおるなー?」

 聞き覚えのある声が目の前からすると思えば顔を上げたすぐ近くにビアンカの顔があった。いつの間に入ってきたのかと聞くと最初から鍵があいていたらしい。不用心にも程があるぞとニーナの鼻先をつんつんとつついた。

「まあ悩んでるよ、すごく。敵が強すぎて全く歯が立たないんだ」

 ニーナは何があったのかを静かな声のトーンでビアンカにかいつまんで話した。ビアンカは間の抜けた相槌を打ちつつ最後まで話を聞き続けた。話が終われば手を叩いて立ち上がる。

「話は分かったー。じゃあ行くよー」

 どこにいくのか何をするのか、訳のわからないまま手を引っ張られて部屋から出た。


 連れていかれたのは北の端にある塔だった。ビアンカの持つカンテラの光に照らされた壁には苔や植物のツルが鬱蒼と繁っている。螺旋状に階段が広がり、ビアンカはどんどん上に登っていた。教団内にこんなところがあるとは知らなかった。

「どこにいくの?」

 灯りが遠くにいかないうちに追いかけると石の階段にニーナのブーツの足音が響き渡った。

「秘密の場所さー。この前運よく見つけたんだけどー鍵を持ってなくてさー。ニーナに開けてもらおうと企んでおるー 」

 闇に包まれた上の空間を指差し、早く上ってこいと催促してきた。その姿は好奇心の塊、探求者の見本のようであった。


 階段を上りきるとそこには古ぼけた扉があるだけだった。木の扉はカビ臭く、蝶番は錆び付いている。同じ教団内にあるドアとは趣が違うようだ。

「さあ、開けてくれー 」

「私も鍵を持っていないよ」

 ニーナは困惑した。初めて入った場所の鍵なんて持っているはずがないし、扉には鍵穴も南京錠もドアノブすら見つからない。もしかして破壊しろと言うのだろうか。

「のーぷろぶれむー。扉に手を当ててー」

 ビアンカがニーナの手を掴み扉に押し当てる。すると扉は光を放った。あまりの眩しさに目が眩む。


 光が収まったので目を開けると扉は消え去り、代わりに一枚の鏡が置かれていた。

「よーし、やっぱりなー。さすがは光の子だー」

 ビアンカは予想が当たったようで嬉しそうだ。銀のフレームを撫でてニーナの方を振り向く。

「さあて、この先には教団の隠してきた秘密が隠されているー。君は真実を知りたいかいー?」

 教団を敵にまわすことになるかもしれないがねと注意されたりしかしビアンカの手を取ればこの不思議な世界の謎が分かる。

「……うん」

 ビアンカが天使のようにも悪魔のようにも見えたが、この際このままでは自分の戦う意味を見失いかねない。賭けに乗ることにした。

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