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第31章 Happy Happy DROP

 リリーとイグナーツは任務を終えあとはもう帰るだけの状態になっていた。街のど真ん中に影が出たのだというから必死になって出動してきたというのに、相手は子供1人。あっけなく終わってしまった。まだ昼にもなっていない。

「お疲れ。今日も行くだろ?」

 イグナーツが親指を立てるとリリーもそれを真似した。

「もちろん!」

 兄の腕に飛びついて嬉しそうにするリリー。イグナーツも微笑む。その姿はごく普通の兄妹だった。


 イグナーツとリリーが向かった場所は飴の専門店だった。名前は「Happy Happy DROP」。ファンシーな内装と色とりどりの飴玉で人気急上昇中らしい。確かにキラキラしていてそこだけは世界が違うみたいに見える。リリーが一目惚れしてからというもの、毎日任務が終わればここにやってきてキャンディーを買って帰るのが日常になっていた。

「えっへへ、キャンディー!キャンディー!」

 鼻歌交じりで上機嫌な妹を見ているとそれだけで幸せな気持ちになる。普段は影相手に容赦ないシャドウアタッカーだが、普通の女の子に戻ったこの瞬間がイグナーツの楽しみであった。


 店内に入ると甘い香りが広がっていた。壁際には飴入りの一抱えもするような瓶、スティック状の飴が刺さっている筒がずらりと並んでいる。毎日来ているというのに今回も歓声をあげるリリーにイグナーツが銅貨を数枚手渡した。リリーはその小銭と店の入り口に置いてある袋も掴んで早く早くと手を引っ張った。

「今日は何にしようかなあ!赤はまだ残りがあるから、今日は緑かな!」

 リリーが瓶をぺしぺしと叩いて、イグナーツがコルクの蓋を開ける。中に入っているスコップを手にとって飴を次々に袋に入れた。お互いにぶつかりあって軽快な音を鳴らす。

「あとはね、青!イグナーツとリリーの瞳の色ー!」

 リリーは赤い目をキラキラと輝かせてまたもや瓶を叩いた。

 シャドウアタッカーになる前は二人とも海のような青い瞳を持っていた。教団に入った時に手術を受け無事シャドウアタッカーになれたのだが、その時にその青を失ってしまったのは少し残念だった。もちろん今のさくらんぼのような赤も可愛いが。

「はいはい、今開けるからちょっと待ってろよ」

 催促されてまた開けてあげると、迷いのないスコップ捌きで緑の上に青を乗せていく。少し量を多めに入れているのはお気に入りだからだ。真っ青の飴なんて普通は好んで食べようとは思わないと思うが、リリーは常に切らさないように買うのだ。

「リリーは青が好きだな」

「うん!」


 結局袋に入れ過ぎたおかげで銅貨数枚では払いきれなくなり、苦笑いで新たに追加で払うことになってしまった。それでも嬉しそうな妹の姿に何でも許してしまう。甘やかしてるなと自分を叱りながら店のドアを閉めた。

「前に聞いたんだけどね、ニーナの目は緑なんだって!見てみたいなー」

 飴のぶつかる音を鳴らしながら歩いていると、思い出したかのように話題を振ってきた。

「緑か……それはそれで可愛いかも。テオには何色か聞いたのか?」

「んー、空の色だって!でも空って何色なんだろう?」

 空を仰ぎ見ればそこにはグレーの雲が一面広がっている。その雲を押し退ければ本物の空を見ることが出来るのだろうか。

「色が分かったらテオにもその色の飴をプレゼントしてあげような」

「きっと喜んでくれるよ!」

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