第26章 2人だけの秘密
数日後、テオとニーナ、リリーとイグナーツ、クムエナとエイブラハム、クラウスとヨハンの8人は鬱蒼とした森の中にいた。
全く道が作られていないここは人間の立ち入る余地のない動物達の住処だった。どんぐりがあちこちに落ちていたり、小さな実をつけている植物があったり豊かな環境が続いている。しかし影が入り込んでいるだろうからか生き物の気配は全くせず、恐ろしく静かな場所であった。
「おい、これを見てみな」
先頭を歩くのはクムエナだ。何か見つけたようで立ち止まりしゃがんでいる。みんなは彼女が指差した方向を見れば黒い水たまりがある。その周りの植物はみな炭になっていた。
「影が通ったあとかな?」
テオが顎に手を添えながら答える。
「だろうな。しかもまだ新しそうだ。近くにいる可能性もあるぞ」
イグナーツが周りを見渡す。気配は全くない。それでも何となく空気の淀みを感じる。遭遇した時のためにちゃんと準備しておけよと声をかけた。そしてまた歩き出した。
「……」
みんなが黙々と歩いている中、ヨハンだけが妙にそわそわしていることにニーナは気付いた。何か喋りたいことでもあるのだろうか。それとも緊張しているのだろうか。
「どうしたの?」
急に話しかけられて身体が強張っていたが、ただ緊張していたらしい。すぐに安堵の表情を取ると手を自分の前に持ち上げて「見ててくださいね」と口を動かす。
「わあ!」
ヨハンが手を指揮者のように動かすと魔力が集まって、空間に黒い文字を形成した。そこには「心配してくださってありがとうございます」と書かれている。声が出なくても魔法で意思疎通ができることに感動してニーナは小さく拍手した。
「すごい。器用なんだね」
すると浮き上がっていた文字が砂や粉のように落ち、また新しく文字が出現した。
「僕はあまり大きな魔法が使えないので……。精進します」
手を振る。
「憧れのニーナ先輩とこうしてお話できるなんて僕も嬉しいです。クラウスも話を聞いた時からずっと楽しみにしてて。この前はうるさくってすいませんでした」
ニーナもヨハンもくすくすと笑う。確かにあれは初対面にしては勢いが強かった。クラウスの人となりが表れていて迷惑に思ってなどいなかった。ニーナがそのことを伝えるとヨハンはほっと息をついた。
「感情に素直なのはいいんですけどね。周りが見えなくなるのでそこはちゃんとしてもらわないと」
2人とも前を歩いているクラウスとテオを見てまた吹き出してしまった。さすがに気付いたのかクラウスがこちらに振り向いた。
「な、何かありましたか!?」
自分を見て笑っているとなればその内容が気になるだろう。そわそわと慌てだした。テオも何を話していたのか質問してくる。
「なんでもなーい」
ヨハンはニコニコと意味ありげに手を下ろし、ニーナも満面の笑みで2人だけの秘密を内に秘めた。




